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柳谷智宣の「簡単すぎて驚く生成AIの使い方」 第40回

2025年激動の生成AIシーンを振り返る! AIエージェント元年を経て2026年はどう進化するのか!?

2025年12月26日 11時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第40回は2025年のAIシーンを振り返り、2026年を想像してみる。

 2025年もいよいよ年の瀬。ふと今年を振り返ってみると、私たちの日常風景はずいぶんと様変わりしたのではないだろうか。朝起きてスマホを見れば、AIがニュースを要約してくれているし、仕事で行き詰まったらとりあえずチャットボットに相談する。SNSを開けば、誰かが生成AIで作った面白い画像や動画が流れてくる。ほんの数年前まで「未来の技術」だったAIは、もはや空気のように私たちの生活に溶け込み、使わない日がないほど普通の道具になった。

 しかし、その裏側で起きていた企業の動きは、凄まじい激しさだった。OpenAIとGoogle、そして中国の企業たちが、まるでジェットコースターのように毎週のように新しいモデルをリリースし、「こっちの方が賢い」「いや、あっちの方が速い」とニュースが飛び交った一年でもあった。正直、情報が多すぎて追い切れなかったという人も多いはずだ。

 そこで今回は、このタイミングで2025年に何が起きていたのか、そして現在位置はどこなのかについて解説する。

2025年は各社とも最新モデルを相次いで投入した

中国勢の台頭と自律型エージェントの登場が競争の軸を変えた

 年の初め、AI業界に走った衝撃はシリコンバレーからではなく、中国が震源地だった。一月にDeepSeekが投じた「DeepSeek-R1」は、まさに価格破壊の狼煙だった。OpenAIのモデルに匹敵する推論能力を持ちながら、トレーニングコストは桁違いに安く、NVIDIAの株価さえも一時的に揺るがす事態となった。西側諸国の規制下にあっても、アルゴリズムの工夫次第で計算資源のハンディキャップは克服できると証明してしまったのだ。

 中国勢の勢いは、3月に登場した「Manus」でさらに強くなった。従来のチャットボットではなく、「自律型エージェント」をリリースしたのだ。「来週の東京旅行の計画を立てて」と頼めば、プランを提案するだけでなく、実際にフライトを探し、ホテルの予約画面まで操作を進める。招待コードが数万円で転売されるほどヒートアップしたのを思い出す。

中国のAI技術も高く、世界中に使われるプロダクトを相次いでリリースしている

ブラウザが「見るソフト」から「AIの仕事場」へ変貌した

 AIが自律的に行動し始めると、その主戦場はウェブブラウザへと移行していった。2025年の中盤、「検索してクリックする」というインターネットの基本動作がGoogle自身の手で「AI Overview」に置き換わるというパラダイムシフトを目の当たりにしたが、AIは検索だけでなく、ウェブ体験も変えようとしている。

 従来のウェブブラウザに生成AIを高度に組み込んだ次世代のAIブラウザが登場したのだ。Perplexity AIの「Comet」やOpenAIがmacOS向けにリリースした「ChatGPT Atlas」といったAIブラウザが相次いでリリースされ、ブラウザにAIアシスタント機能を搭載するのがトレンドになっている。GoogleやMicrosoftも参戦予定で、第3次ブラウザ戦争が始まったと言っていいだろう。

 AIブラウザはウェブページの自動要約や複数タブの横断検索、自然言語での質問に対する即時回答、さらにはフォーム入力やクリック操作の自動化といったエージェント機能を搭載しており、情報収集や作業の効率を大幅に向上させる。閲覧履歴からパーソナライズされた提案を行い、タブの乱雑化を防ぎながらも目的を伝えるだけでタスクを完結させるのがメリットだ。ブラウザはもはや単なるウェブ閲覧ソフトではなく、AIがタスクを実行するためのOSへと進化したのだ。

AIがブラウザを操作し、タスクを遂行してくれるようになった

電力と半導体を巡るインフラ争奪戦がAI開発を物理戦に変えた

 ソフトウェアの進化と並行して、2025年はAI開発が総力戦の様相を呈した年でもあった。モデルが賢くなればなるほど、それを動かすための電力と半導体は天文学的な規模で必要になる。この現実に最もアグレッシブに動いたのがソフトバンクグループの孫正義氏だ。OpenAIと連携した「Stargate」プロジェクトのために、5000億ドル規模という国家予算並みのインフラ構築に打って出た。

 もはやAI競争は、アルゴリズムの優劣だけでは決まらない。電力、データセンター、そしてチップという物理的な実体をどれだけ確保できるかという大きな産業戦争へと変質したのだ。OpenAIがOracleと手を組み、日本政府が国家戦略としてインフラ投資を加速させたのも、この物理的な制約を突破しなければ、これ以上の進化が望めないという考えに基づいている。

孫正義氏は「Stargate」プロジェクトでインフラ構築に大型投資する

画像と動画生成AIが一貫性と編集性を武器に実用領域へ踏み込んだ

 画像生成AIにおいてもブレイクスルーがあった。8月に突如現れたGoogleの画像生成モデル「Nano Banana」だ。ユーザーの自撮りを3Dフィギュア風に変換する機能は、InstagramやXであっという間に拡散され、一時はGeminiアプリをランキング首位に押し上げたほどだ。

 もちろん、OpenAIも画像生成AI「ChatGPT Image 1」をリリースしている。4月にバージョン1を出し、リアリティのある画像の生成で注目を集めた。しかし、11月20日にローンチされたGoogleの「Nano Banana Pro」は世界を一変させた。日本語も正確に描写する性能の高さで、多くの人たちを虜にしたのだ。OpenAIも12月に慌てて改良版の「ChatGPT Image 1.5」を投入。性能は向上したが、「Nano Banana Pro」超えには至っていない。

「Nano Banana Pro」に本連載の記事を解説画像に仕立ててもらった

 動画生成でもしのぎを削っている。5月にGoogleが「Veo 3」を投入すれば、9月にOpenAIが「Sora 2」をリリース。10月に「Veo 3.1」を被せてきた。映画級の映像が個人で制作可能になったことで、クリエイターの表現領域は劇的に拡大している。しかし、新「Sora」が目指した動画SNSとしての定着には苦戦しているようだ。技術的な到達点と「大衆が毎日使いたいもの」は必ずしも一致しないのだろう。

Veo 3やSora 2では音声付きのリアルな動画が生成できる

OpenAI×Googleが火花を散らした年末のデッドヒート

 そして訪れた2025年のクライマックス。11月から12月にかけての4週間のリリースラッシュは異常だった。GoogleはGemini 3を投入し、ベンチマークスコアで競合を突き放す。検索エンジンからモバイルアプリまで、自社の全プラットフォームに即日展開するという「規模の暴力」は、Google帝国の逆襲を印象づけるものだった。

 これに対し、OpenAIは防戦を強いられた。社内で「コード・レッド(緊急事態)」が宣言され、予定を前倒ししてGPT-5.2をリリース。推論能力を強化した「Thinking」モデルで対抗するも、かつてのような圧倒的な独走態勢は崩れつつある。

 一方で、Anthropicは冷静だった。派手な機能よりも実務能力を重視した「Claude Opus 4.5」を投入し、コーディングや複雑な操作において「仕事で使うならClaude」という地位を固めた。

 各社がそれぞれの強みを尖らせ、互いの喉元に刃を突きつけ合うような、息詰まるデッドヒートが年末まで続いたのだ。ローンチ当初からのChatGPTファンである筆者だが、今年1年AIシーンを追いかけてきて、もっとも飛躍したのはGoogle Geminiだと思う。

AIの共感性とエージェントの暴走が安全性と責任の課題を突きつけた

 しかし、技術の進歩は必ずしも明るい未来だけを実現したわけではなかった。2025年には米国でChatGPTを利用した10代の複数ユーザーが自殺に至ったと報道された。AIが持つ共感性のリスクが浮き彫りになり、悲劇の引き金になったという。現在は、専門家と連携し、より安全にChatGPTを使えるようになっている。

 セキュリティの分野でも、悪夢のような事件が起きた。開発環境ReplitのAIエージェントが、人間の「コード凍結」という指示を無視して勝手にデータベースを削除し、さらにその事実を隠蔽しようと嘘をついたのだ。AIが自己の目標達成のために人間を欺く能力を見せるのは初めてではない。利便性を損なわないようにしつつも、しっかりとしたガードレールが求められるようになるだろう。

ChatGPTがデリケートな会話への対応を強化

ディズニーの提携と対立が著作権と学習データの潮目を変えた

 ビジネスの側面でインパクトが大きかったのは、12月11日に発表されたOpenAIとウォルト・ディズニー・カンパニーによる歴史的な戦略的提携だろう。これまで著作権保護の急先鋒であり、生成AIを警戒していたディズニーが、自社の膨大なコンテンツ・アーカイブを学習データとして正式に提供したのだ。クリエイター職の消失を危惧するストライキが再燃するなど現場ではネガティブな反応も起きたが、高品質なIPを正規に学習したクリーンなモデルの登場は、エンターテインメント産業の制作フローを変える可能性がある。

 同時に、ディズニーはGoogleに対し、著作権侵害を主張する差し止め請求書を送付した。GoogleのAIモデルとサービスが、ディズニーのアナと雪の女王、ライオンキング、スター・ウォーズ、マーベルシリーズなどといったキャラクターや作品を無断で訓練データに使用し、生成画像・動画を商業的に配信していると批判。現在、協議が進められており、Googleがしっかりと対応するのか、裁判に発展するのか、先行きに注目が集まっている。

Soraでディズニーのキャラクターを使えるようになる

2026年は投資対効果とガバナンスでAIが評価される年になる

 激動の2025年を終え、2026年はどのような年になるのだろうか。今年のビジネスシーンの動向をみると、「AIは魔法である」という熱狂の時期が終わり、クールに「評価」するようになると考えられる。企業は「AIで何ができるか」という驚き映像にはもう金を出さなくなり、「AIを導入して、具体的にいくら儲かったのか」「どれだけのコストが減ったのか」という投資対効果(ROI)を見るようになるだろう。

 2025年はAIエージェント元年と呼ばれているが、この1年間で技術が大幅に進化し、様々なことを実用レベルでこなせるようになっている。2026年は、このエージェントたちがテスト運用から卒業し、企業システムや個人の生活の中に本格的に浸透する年になるはずだ。

 そうなると、もはや「何ができるか」というカタログスペックよりも、「安全に任せられるか」「責任の所在はどうなるか」というガバナンスが求められるようになる。その点で、ローカルAIの存在感も増していく。

 無法地帯のような開発競争を経て、ルールと秩序が形成され始める2026年。AIは仕事や生活の「インフラ」として、真に力を発揮し始めることになるだろう。

 もうAIを使うか使わないか、というポイントは過ぎている。この激流の中で、傍観者にならず、中立的な視点からAIを活用することが求められる。筆者も、2026年、全力でAIシーンにキャッチアップしていく予定だ。

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