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「AI HERO」が語るChatGPTの登場からAIエージェントまでの道のり

AIエージェント開発の神セッションが集結した「AI Builders Day」 最高のキーノートで幕を開ける

2025年12月22日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2025年、IT業界を席巻したAIエージェントとAI駆動型開発の最新の知見が集結したJAWS-UGのイベント「AI Builders Day」が2025年12月13日に開催された。キーノートで登壇したのはAWSから日本初の「AI HERO」に選ばれた御田 稔さん。ChatGPT登場から今のAIエージェント隆盛に至るまでの3年間を課題とサービスの軸をエンジニア目線で振り返った、イベントのイントロとしてふさわしい講演だった。

AI Builders Day運営の「AI HERO」の御田稔さん

「AI HERO」がChatGPTの登場からAIエージェントまでの道程を語る

 初開催となるAI Builders DayはAWSのユーザーグループであるJAWS-UGが手がけるAIエージェントとAI駆動型開発に特化したエンジニアイベント。会場は近年JAWS DAYSが開催されている東京池袋のサンシャインシティ。オフラインのみの開催ということもあり、休日の土曜日でありながら、朝早く多くのエンジニアが会場に参集した。

 冒頭、登壇したのは今回のイベントの運営を手がけた「みのるん」こと御田稔さん。まずは今回のAI Builders Dayのイベントが、650人の募集に対して、800人以上の参加登録があったことをアピール。参加人数も20~70代まで幅広く、約半数はオフラインイベントの参加自体が初めてというアンケート結果も披露された。総じて、従来のJAWS-UGと異なる層まで巻き込んだユーザーコミュニティイベントになったと言えるだろう。

JAWS-UGイベント初参加の割合も高く、オフラインイベントが初という参加者も多かった

 続いて御田さんは「まだ間に合う! Agentic AI on AWSの現在地をやさしく一挙おさらい」というタイトルで、生成AIのブレイクから現在に至るまでのエンジニアの課題とサービスのトレンドをわかりやすく説明してくれた。「午後からのセッションを最大限満喫いただけるようにおさらいします!」(御田さん)という内容で、誰もおいていかないイントロのキーノートとして最高にわかりやすかったので、以下レポートしていく。

AIをアプリの組み込むためのAmazon Bedrock RAGの隆盛と課題

 御田さんは、KDDIアジャイル開発センター テックエバンジェリストとしてAIエージェントの開発や啓蒙を担当している。「AIが好きすぎて」(御田さん)ということで、すでに三冊の著作があり、先月は日本で初めての「AWS AI HEROS」の称号も得たという。

 インフラエンジニアだった御田さんがAIにはまったきっかけは、2022年11月のChatGPTの登場だ。公開初日からChatGPTを使っていた御田さんは、その人間らしい応対に衝撃を受けた。「そこからは生成AIという言葉を聞かない日はなくなりましたよね」と御田さん。以下、エンジニアにとってのAI開発の課題とそれに対応するAWSのサービスの進化について御田さんは説明する。

御田さんがショックを受けたChatGPTの人間らしい対応

 2023年の春頃には多くの会社がこの生成AIを自社システムに組み込もうと考える。ここで生まれた「生成AIのAPIを自分の会社のアプリから安全に呼び出したいとみなさん考えた」というニーズに応えたのが、2023年9月にGAした「Amazon Bedrock」になる。

 Amazon Bedrockを利用すれば、ユーザーは「基盤モデル」と呼ばれる各社のLLMをAPI経由で安全に利用できる。サーバーレスで、トークン単位の従量課金なので、コストもリーズナブル。たとえば、「メール一通を日本語から英語に翻訳してください」というリクエストであれば、Claude Sonet 4.5を利用した推論にかかるのは1~2円くらいだという。

 しかし、AIを社内システムで運用しようとすると、いくつもの課題にぶち当たる。最初にぶち当たったのが、AIが堂々と嘘をついてしまう「ハルシネーション(幻覚)」の課題だ。モデルの進化とは別に、ユーザー側でどうしたら嘘を付かないかを考えた結果、取り入れられたのが、ご存じRAG(Retrieval Augmented Generation)になる。

ハルシネーションつらい

 Cohereのデータサイエンティストが論文で提唱したRAGは文字通り検索によって、生成AIの回答を補う方法。ベクターストアにベクトル形式のデータを蓄積し、自然言語で意味ベースの検索を行ない、事実に基づいた正しい回答を生成することができる。

 2024年、RAGはAI業界を一世を風靡したが、RAGのパイプライン構築は正直ハードルも高かった。そこでAWSから提供されたのは、「Knowledge Bases for Amazon Bedrock」になる。これはS3バケットに社内文書などを保存しておくと、文書をベクトル変換し、埋め込みモデルを使ってベクターストアに保存しておける。データの類似度を参照できるベクターデータを用いると、AIでも検索が可能になり、近傍検索で精度の高い回答を生成できる。操作もマネージドコンソールからファイルを放り込むだけなので、非常に楽だという。

Knowledge Bases for Amazon Bedrockの仕組み

 また、RAGにはランニングコストが高いという問題もあった。AWSでもOpenSearch ServerlessやAmazon Kendraなどが用意されていたが、月数万円から数十万円かかってしまう。そんな課題から生まれたのが、先日GAになった「Amazon S3 Vectors」だ(関連記事:AWSガーマンCEOが10分で怒濤の新発表25連発 LTチャレンジにレガシーAWSファンも大歓声)。「Amazon S3をベクターインデックスとして利用できる。S3だからめっちゃ安い。セマンティック検索もできて、精度もそこそこいい」と御田さんは評価する。

AIエージェントの基本概念「ReAct」とBedrock Agents

 技術とサービスが洗練されたことで、チャットボットは非常に実用になった。ただ、テキストでの一問一答はシンプルだが、やれることに限界があった。そこで提唱されたのが論文で提唱された「ReAct」という概念だ。

 ReActはReasoning(思考)&Acting(行動)を意味する用語で、AIが思考し、行動を起した上で、その結果を観察する(Observation)という一連のループを表す。こうしたループを重ねることで精度が上がる試行錯誤がReActで、現在のAIエージェントの動作原理になっている。

Reasoning(思考)&Acting(行動)、そしてObservation(観察)

 たとえば、人間が「アンケート結果を集計し、パワポにまとめて」とリクエストを投げると、AIエージェントはこのリクエストに答えるため、なにをすればよいかを思考し、まず行動計画をリスト化する。そして、この行動を実行するため、AIエージェントはツールを使って、APIを叩いたり、社内システムにアクセスしたり、ファイルを生成する。これらのツールの実行結果は、ReActの考え方に基づいて、きちんと観察され、評価が高くなかった場合は、再度行動計画が修正される。「今ではAIエージェントのツールとして、RAGを使うアプローチの方が主流」と御田さんは解説する。

 こんなAIエージェントを簡単に作りたいというリクエストに対して、2023年にリリースされたのがGUIでAIエージェントを作れる「Amazon Bedrock Agents」だ。さまざまな基盤モデルをAIエージェントの思考エンジンとして利用し、ツールとしてLambda関数やナレッジベース、ガードレールなどを利用できる。ちょっと複雑な処理を複数のエージェントで分担するマルチエージェントもGUIから開発できるのがBedrock Agentsのすごいところだ。

GUIでAIエージェントを作れるAmazon Bedrock Agents

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