レトロなインスピレーションとマット素材の挑戦
――デザインのインスピレーションはどこから来ているのでしょうか? 筆者的には「初音ミクカラー」にも見えますが。
黒住 ですよね(笑)。しかし、ミクとは関係なく、90年代後半から2000年代初頭の、透明なボディー(スケルトン)を持つガジェット、たとえばボンダイブルーの初代iMac、ゲームボーイカラー、初代PlayStationの透明なコントローラーなどからインスピレーションを受けています。当時の日本の勢いというか、世の中がパッと明るくなったような、前向きな力強さを表現しました。
また、本体に使われているティール(Teal)色は、おっしゃるとおり日本人には「初音ミクカラー」として親しまれる色味で、好まれやすいデザインだと思います。
――それでは、ソフトウェア(UI)の変更点はありますか?
黒住 機能面はベースモデルとまったく同じです。しかし、ハードウェアデザインと一貫性を持たせた新しい壁紙のデザインと、クリエイターのアイデアに基づいた新しいクロックフェイス(時計表示)が搭載されています。この時計のために専用の書体(フォント)が起こされており、ポップでレトロ、有機的な印象を与えるデザインとなっています。
数量限定1000台の「記念碑的」価値
――CEは世界限定1000台と聞いています。この台数に限定した理由は何でしょうか? もっと売れそうな気もしますが。
黒住 これは、ビジネスを成長させるためのものではなくて、コミュニティの方たちと一緒にこのプロダクトを祝い、感謝の意を表すための“記念碑的なプロダクト”だと考えているためです。あまり台数をたくさん作ってビジネスをどんどん取ろう、という類のものではないのです。
――今回は初めてアクセサリーが同梱されるそうですね。
黒住 はい、世界限定1000台のCEを購入していただいた方には、Nothingの特徴である「Ndot」のデザインで細かくデザインされたサイコロ型のアクセサリーがついてきます。これは新しい試みです。
――日本での事前登録の反響は大きかったのでしょうか?
黒住 日本はすごいですね。国単位で見た時に、抜きん出て高い数字でした。他国では「Nothingの世界観と違う」という拒否反応が出ることもある中、日本のユーザーの方たちは、なぜNothingがこのデザインを採用したのかという背景にあるストーリーや、レトロフューチャー的な要素がNothingの原点である、という点を理解しようとしてくださいます。その理解を含めて、ものすごい高い率で登録してくださっています。
──もうこの記事が載る頃には完売しているかもしれませんね。次のプロダクトも期待しています。
【まとめ】絆を力に変えるNothingのブランド哲学
CEの成功は、Nothingがコミュニティを単なる消費者としてではなく、ブランド創造のパートナーとして見ていることの明確な証左です。特に日本市場における反響は驚異的であり、事前登録の状況は国単位で見て「抜きん出て高い数字」を示しており、日本人の購入者も多いそうです。
これは、日本のユーザー(ガジェオタ)に響くNothingの世界観が受け入れられているからでしょう。すぐに拒否反応を示すのではなく、Nothingのストーリー性を深く理解しようとする文化的受容性の高さが日本のユーザーにはあるのです。単なる限定品ではなく、ブランド哲学を体現したデザインとして受け入れていると言えます。
ビジネスの合理性を度外視してでも、ファンとの「共創」と「お祝い」を優先し、長い時間と手間をかけて1000台の記念碑的作品を世に送り出すNothingの姿勢は、極めて誠実であり、現代のテクノロジーブランドが失いつつある人間的な魅力を提供しています。このファンとの強い絆こそが、今後のNothingの飛躍を支える最大の力となるでしょう。




















