クレジットカード世界最大手のVISAが、シリアの決済ネットワークの復興に参画する。
このニュースは、2025年12月5日付のロイターの記事がソースだが、最初に見出しとリードを読んだ時、筆者には、にわかにイメージが浮かばなかった。シリアは、2024年末まで10年以上の長きにわたる内戦状態が続いていたからだ。
12月4日付のVISAのプレスリリースによれば、VISAは、同国の金融当局と金融機関と提携し、「戦略的ロードマップ」を実施するという。このロードマップでは、シリアが世界のデジタル経済に迅速に統合することを目指すという。シリア側の鼻息は、VISAより少し荒い。ロイターの記事によれば、シリアの中央銀行の総裁は「シリアをレバント地域の金融ハブにする」ことを目指すと述べている。
シリアのインフラに関する詳しい状況は不明だが、決済の高度化に必要なネットワークインフラは、内戦状態が長期にわたったことで、おそらくボロボロになっているだろう。そうだとしても、VISAとしては、ビジネスとして勝ち筋があると判断しているはずだ。内戦からの復興期にある国に、決済のデジタル化という政策は、親和性が高いのだろうか。
「21世紀最大の人道危機」と呼ばれたシリア
シリアは、1970年以降、父と子の2代にわたるアサド大統領が政権を維持してきたが、2011年、「アラブの春」と呼ばれた民主化運動をきっかけに、政府軍と反政府勢力の軍事衝突が長期化し、13年にわたって内戦状態にあった。人口の半数を上回る1200万人規模の難民が発生し、「21世紀最大の人道危機」とも呼ばれた。2024年12月、反政府勢力が首都ダマスカスを制圧し、アサド大統領はロシアに亡命し、暫定政権が成立した。
悲惨な内戦からの再出発をしたというところだが、経済の面ではある程度、ポテンシャルを期待されているようだ。とくに化学肥料の主原料となるリン鉱石の埋蔵量は、世界で五指に入るとされる。内戦の前には、欧州がリン鉱石のおもな輸出先だった。
また、内戦の前には、オリーブや小麦などの輸出でも知られ、復興が順調に進んだ場合、輸出国としての地位を取り戻す可能性が期待されている。
33兆円の巨額復興マネー
調べてみると、VISAが一番乗りということではなく、9月23日にはマスターカードが、シリアで決済システムの構築に協力することで、同国と合意したと発表している。VISAとマスターカードという、世界を代表するクレジットカード会社が相次いでシリアに進出した意図はどこにあるのだろうか。
おそらくこれが理由だろう、というニュースが10月21日にあった。世界銀行は、シリアの復興に必要な費用の総額が、2160億ドルにのぼるとする試算を発表している。この金額は、12月8日のレートで日本円に換算すると、約33兆円になる。
軍事的な衝突が再発しなければ、今後、欧州や米国、日本、中国などからの援助でシリアの復興が進められるはずだ。33兆円という巨額な資金で、人々が暮らす住宅や、電力、水道、デジタル決済に不可欠なネットワークインフラを復興する工事が進めば、当然ながら、国中で大小の支払いが発生する。これまで、シリアはほぼ、国際的な決済システムからは孤立した状態にあったが、VISAとマスターカードは、国中で発生する支払いを見据え、決済システムを押さえに行ったとみるのが妥当だろう。
いや、ちょっと待て。VISA、マスターカードと言えばクレジットカードだ。両社の得意な分野は一般消費者の決済であって、建設工事の契約などの大きな金額は、銀行送金の領域ではないのだろうか。

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