日本市場における成功の理由は「ドイツと似たビジネス文化」にあり!?
AIエージェント時代に不可欠なプロセスマイニング Celonis CTOが解説
2025年12月05日 08時00分更新
エンタープライズAIを機能させるには「プロセスインテリジェンス」が必要
そして現在、Celonisが強調するのは、エンタープライズAI実現における「プロセスインテリジェンス(PI)の重要性」だ。“プロセスインテリジェンスなしにAIはない(No AI without PI)”というストレートなメッセージを打ち出している。
「エンタープライズAIを機能させるには、プロセスインテリジェンスが必要。AIエージェントを実際に作成し、企業内で効率的かつ生産的に運用するための基盤になる」
数あるAIの活用領域の中で、業務運用での活用を考える企業は多いとハーグ氏。「顧客はいつだって、ビジネスオペレーションを実際に再発明し、より柔軟かつ機敏にし、効率も改善したいと望んでいる。そこで、PIとAIエージェントは大きな武器になる」と続ける。
そこで鍵となるのが、Celonisのデジタルツイン機能「Process Intelligence Graph(PI Graph)」である。これは企業のビジネスオペレーションの鏡のようなもので、ERP、CRM、ITSMなどのITシステムに接続し、請求書、チケット、商談案件などのデジタルオブジェクトを可視化する。
今年のCelosphereでは、この「PI Graph」を強化し、デスクトップ上のPDF、メール内の非構造化テキスト、生産現場のIoTデータなど、さまざまな種類のデータのサポートを追加した。「Microsoft Fabric」や「Databricks」との提携により、ゼロコピーでのデータ活用も実現している。「マルチモーダルなデジタルツインへと進化した」と、ハーグ氏は説明する。
「可視性が拡大することで、最適化の機会も増える。例えばSAPシステムで行われていないプロセスも最適化の対象に入ってくる」
また今回、AIシステムが相互に通信するためのプロトコル、MCP(Model Context Protocol)サーバーのサポートも発表している。プロセスインテリジェンス領域におけるMCPのサポートは、Celonisが初めてだと胸を張る。
「現実として、企業は複数のAIシステムを導入している。AWSで構築したAIソリューションもあれば、Microsoftで構築したものもあり、Databricks上にもAIソリューションがある。現在は島のような状態だが、MCPを使ってこれらを接続することで、意思決定の関連性や効率性を高めることができる」
プロセスマイニングの世界で“中立国”のポジショニングを目指す
プロセスマイニング市場では、Signavioを買収したSAPや、IBMなど大手ベンダーが展開している。そうした市場環境の中で、Celonisは「プロセスインテリジェンスのスイス(=永世中立国)」だと、ハーグ氏は表現する。PIに中立性が求められる理由については、次のように説明する。
「世界のどの企業を見ても、単一ベンダー戦略を取るところはない。つまり、ビジネスプロセスも、実際には一つのシステムだけで動いてはいない。最もシンプルなプロセスであるITSMプロセスでさえ、CRM、ITSM、メール、チャットといったシステムの連携で実現している。このような複雑な状況で、中立的なPIは重要な価値をもたらす」
さらにハーグ氏は、プロセスをエンドツーエンドで改善するためには、当然ながら、プロセスの全体像をエンドツーエンドで把握する必要があると強調する。中立性を持つCelonisならば「複数のシステムにまたがるプロセスのセマンティックレイヤー、あるいはデジタルツインを構築できる」ため、それが可能であり、大きな差別化のポイントになっていると述べた。
中立性はオープンなエコシステムももたらす。たとえばAIについて、MCPをサポートすることで、世界中の主要なAIプラットフォームとの互換性を実現していると話した。また技術的な優位性としては、最新のマルチモーダル性や高性能なデータ処理などの強みを挙げる。
日本市場における成功の理由は「プロセスを重視する文化」
Celosphere 2025には、日本からも多数の顧客やパートナーが参加していた。実際、日本はCelonisにとって「成功市場の1つ」だという。
日本市場の特殊性について、ハーグ氏は「日本とドイツには『プロセスを重視する』という共通点があり、『プロセスを継続的に改善していく』という意識も強い」と分析する。そして、プロセスインテリジェンスのプロジェクト成功には、こうした「プロセス重視の姿勢」が欠かせないという。
実際に日本のCelonis導入企業では、サプライチェーンの可視化に役立てるなど、先進的な使い方も多いという。導入企業の1社であるマクニカでは、商談から受注までのプロセスを可視化し、チェンジマネジメントを推進している。マクニカの執行役員でCIOを務める安藤啓吾氏は、“3つのP(People、Process、Platform)”の観点による変革に加えて、「早く成果を出す。これが全社でスピーディにプロジェクトを進める原動力になる」と、成功の秘訣をアドバイスしている。
ハーグ氏によると、今後のCelonisは「エンタープライズAI」と「コンポーザブル」という方向性で進化を続けていくという。コンポーザブルとは、大規模なシステムでプロセス変革を実現するのではなく、複数の要素を組み合わせるというアプローチだ。
イベント中の記者会見では、PI Graphを使って、異なるシステムや地域を横断するかたちでプロセスのコンテキスト(文脈)を理解し、改善するという、製造業における仮想事例のデモを披露した。
デモでは、この企業のある拠点で、Celonisがシステムに記録されていない手作業(メール)の営業プロセスを発見。このプロセスを改善するため、プロセス設計ツールの「Process Designer」とAIアシスタントを使い、「材料と顧客のマッチング」「返答がない場合は音声AIによる電話でフォロー」という2種類のエージェントを組み込んだワークフローを再設計して見せた。
ハーグ氏は、Celonisがこうした方向性をとることで、今後は「プロセスマイニング/プロセスインテリジェンス、自動化、BPMなどの境界線は、曖昧になっていくだろう」と予想していると語った。



