「いつか経営者に」と思ったことがあるなら。ミドル世代女性だからこそ成功できる事業承継

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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 「いつか自分で事業を始めたい」そんな目標を一度でも持ったことはありませんか。一方で、「今から何を始めたらいいのかわからない」「もう遅い...」と諦めてしまうミドル世代女性は少なくありません。

 日本企業の約5割が“後継者不足”に悩まされている昨今、これからのキャリアや生き方への悩みに直面しやすいミドル世代の女性にこそ「事業を譲り受けるという形のライフシフトを提案したい」と語る事業承継コンサルタントの田邊さおりさん。今回はミドル世代女性の強みとその可能性を伺いました。(シリーズ1/2)

100社以上の支援で確信。成功も失敗も経験済みのミドル世代の強み

 2024年の帝国データバンクの調査によると、日本の半数以上の企業が後継者不在の状況で社会課題の一つとなっています。一方で、事業承継コンサルタントの田邊さんは「ミドル世代女性こそ、事業承継することで素晴らしい経営者になる可能性を秘めている」と確信しているといいます。田邊さんにその考えを伺いました。

 「これまで100社以上の支援をさせていただく中で確信に変わりました。ミドル世代は、人として醸成し、社会で培ってきたネットワークがある。物事は簡単に白黒つかないと理解し、成功も失敗も経験している方もいます。子育てや介護を通じて、他者への理解力も深まっている。全てに当てはまらなくても、総合的にバランスが取れ、多角的に物事を判断できる、経営者に向いた世代だと感じています。

 もちろん初めから完璧な経営ができる人なんてほとんどいません。ですが、必要なスキルさえ獲得していけば、経営経験がなくても成功できる可能性は十分にあります。

 だからこそ、事業を譲り受ける形でのライフシフトを提案したいです。0から起業するのも大変ですし、同じようにリスクもある。でも、自分のやりたいことと後継者不足の企業の利害が一致すれば、第三者承継が最善の選択になり得ます。

 お勧めしたいのは、時代が変化しても普遍的な価値を提供できている事業。最先端を追うのではなく、長く愛されている事業です。身近な商店街にも目を向けてみてください。地域のベーカリー、カフェ、定食屋、雑貨屋など、個人経営の小規模事業でも後継者不足に悩んでいる方がいるはずです」

「なぜ儲かっているのか」を理解できるかが成功のカギ

 事業を継ぐチャンスに恵まれた際、必要なスキルとは何でしょうか。

 「経営者として、税理士や金融機関との打ち合わせは必須ですし、基本的な知識はもちろん必要です。でも、それは順を追って学んでいけばいいだけ。それ以上に重要なのは、会社と事業への本質的な理解です。

 例えば、クッキー屋さんの事業を譲り受ける場合。

 『なぜ事業がうまくいっているのか=クッキーが売れているから』

 これは表面的な理解です。本当に必要なのは、

 『クッキーが売れているのは、良い取引先があるから』    
   『特別な材料が評価されているから』    
   『ブランディングがうまくいっているから』

 というように、なぜその事業が儲かっているのか、最も価値を生み出している強みは何かを深く理解すること。もしその強みが、前社長の個人的な人脈だけで成り立っているなら、再現性がありません。そうなると、事業承継自体を再検討する必要も出てきます」

答えではなく、必要な問いを与えてくれるメンターを持つ

 田邊さんは、事業承継において安定したメンタルを維持するために、「信頼できるメンター」の存在も重要だと強調しています。

 「後継者は、先代と比較されるなど、孤独を感じることがよくあります。そんな時に支えになるのが、信頼できるメンターの存在。メンターは誰でも良いわけではありません。答えよりも、適切な『問い』を投げかけてくれる人を選ぶことが重要です。経営には正解がないことも多い。だからこそ、自分では気づけない視点から問いを立て、壁打ち相手になってくれる存在が必要です」

 田邊さん自身も、これまで多くのメンターに支えられてきました。

 「例えば、事業がV字回復して自信がついた時期に、あるメンターから『現時点だとお遊びだね』と言われ、相当なショックを受けました。海外ブランドとの取引で業績が伸びていただけで、自分の経営力による成功ではないことに気づいてもいなかった。

 『そのブランドとの取引が終わったら、会社も終わりなの?』そう問われて初めて、冷静に考えることができました。そこから次の戦略を建設的に考え、行動できるようになっていったんです」

 このように、メンターの役割は経営者が自ら考え、決断できるよう導くことだと田邊さんは考えています。

 「長期的な視点を与えてくれる一方で、『決めるのはあなた』と最終的な判断は本人に委ねる。そのバランスが、経営者としての成長を支えてくれます。特に事業承継の場面では、感情的な判断をしてしまいがちです。だからこそ、冷静に問いを立ててくれる第三者の存在が重要です」

最も大事なのは「やりたい」という気持ち

女性経営者・後継者向けの講演会。穏やかな空気と専門家としての濃い内容が評判。

 事業承継で経営者になるために必要なスキルやメンターの存在について伺いましたが、田邊さんが考える、ミドル世代が未来を切り開いていくために最も大事なこととは何でしょうか。

 事業承継を考え始めると、不安になる方も多いと思います。でも、ほとんどの悩みには解決策があります。手続きや人間関係に不安があるなら、同じ目線になってくれる士業の方を紹介してもらったり、ご縁が循環する人間関係を築いたり。行動次第で、不安を取り除く方法はたくさんあります。

 だからこそ、最も重要なのは心に芽生えた『経営者になりたい』という気持ちです。その出発点を大事にしてください。

 ご自身のやりたい気持ちと、世の中からまだ求められている事業が出合い、承継されることは、とてつもなく尊く貴重です。それはミドル世代になるまでに培った知識と経験あってこそのチャンス。ご自身の経営力と人間力で、未来を切り開いていけると思っています。

 ここまで提案をしてきましたが、検討を重ねた結果、経営者にはならないという生き方も人によっては最善の選択の一つだと思っています。女性たちが経営に挑戦できるよう私はこれからも自分にできることを続けますが、最終的には自分で決めることが大事。経営者になる、ならないに関わらず自分の本当の望みを信じ、後悔しない選択をしてくださいね」

 「家業がない自分には関係ない」。そう思われやすい事業承継ですが、地域のカフェやベーカリーが後継者を探している例は少なくありません。事業を引き継ぐことは、単なるビジネスの承継ではなく、その店を愛してきた人々の想いを受け継ぐことでもあり「事業承継をもっと身近に感じてほしい」と田邊さんはいいます。次回は、事業承継の基本と、経営者に欠かせない「ある力」について話を伺います。

 

Profile:田邊さおり

たなべ・さおり/UnitedVision 合同会社 代表取締役/事業承継コンサルタント
大学卒業と同時に経営難に陥っていた父の会社に入社。経営者として事業を立て直す。その後事業売却、経営顧問、M&A仲介、代表理事を経て、2024年8月に後継者教育・伴走型経営コンサルティングサービス「BATONEER(バトナー)」をスタート。「承継女子」として日々奮闘中。


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