金融庁が、3メガバンクによる円建てのステーブルコインの共同発行を支援する。
金融庁は2025年11月7日、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクを中心とする企業グループが実施する実証実験を支援すると発表した。3メガバンクは今後、規格を統一したステーブルコインの共同発行を目指すという。
日本国内では、10月27日にステーブルコインJPYCの発行が始まっている。JPYCの発行主体は同じ名前のJPYC社で、2019年に設立されたスタートアップ企業だ。JPYCの発行額などの情報を掲載しているウェブサイトJPYC Infoによれば、11月9日夜の時点で、JPYCの発行額は1億3000万円を超えている。
すでに流通が始まっているスタートアップ系のJPYCに対して、3メガ系のステーブルコインは、これから実証実験を始めますという段階だ。足の早さには差があるものの、3メガが共同発行を目指す動きは、日本のステーブルコインにとって、大きなインパクトがあるのは間違いない。
三菱商事がステーブルコインを使う
三菱UFJ銀行のプレスリリースによれば、実証実験には、3メガバンクに加え、三菱商事、三菱UFJ信託銀行、Prgmatの各社が参加する。Progmatという会社は、三菱UFJ信託銀行が中心となって設立されたフィンテック企業だ。三菱UFJ信託銀行が49%を出資しているが、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行も7.5%ずつを出資しており、3メガ系の信託銀行3行がそろって出資するフィンテック企業だ。
実証実験では、三菱商事が、日本国内の拠点と海外の拠点の間で、決済にステーブルコインを使用する。たとえば、三菱商事の米国の拠点として、北米三菱商事という会社がニューヨークにある。同じ三菱商事ではあるが、法人としては別だ。
東京の三菱商事から北米三菱商事に送金する場合でも、やはり国内の口座から米国の口座に送金することになる。おそらく、同じ三菱UFJ銀行の口座間での送金になるのかもしれないが、そうであっても手続きや、手数料といったコストは発生する。
こうした、同一の企業グループ内の送金でステーブルコインを使えば、送金は数秒で完了し、手数料も1円以下に抑えられる可能性がある。
信託銀行の参加がポイント
3メガバンクが共同発行を目指すステーブルコインの仕組みを理解するうえで、3メガに加えて、三菱UFJ信託銀行が実証実験に参加している点がポイントだろう。
ステーブルコインは、ビットコインのように価格が大きく変動しない。価格の変動を抑制するには、「裏付け」となる現金などの資産が必要になる。メガバンクは、同じグループ内の信託銀行に裏付けとなる円建ての資産を信託する。
信託銀行からスピンアウトしたProgmatが技術的な基盤を提供するのも、3メガが発行するステーブルコインの存在が重要となることの表れだろう。
今回の実証実験の範囲が、三菱商事のグループ内にとどまっているのは、おそらく「円建て」のステーブルコインの実験だからだろう。上記の例では、北米三菱商事はステーブルコインを東京から受け取っても、実際に米国のビジネスで活用するには米ドルや、米ドル建てのステーブルコインに交換することになるはずだ。
この点について、すでに注目すべき動きが出ている。10月10日のロイターは、米国、欧州、日本の大手銀行10行が、主要7カ国(G7)の通貨に連動するステーブルコインの共同発行を検討すると報じている。
この取り組みに参加しているのは、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行、UBS、三菱UFJ銀行などだ。顔ぶれは、米国や欧州、日本を代表する銀行が並んでいる。
このニュースは、現時点では情報が限られていて、どのようなステーブルコインが検討のテーブルに上がっているのか、はっきりしない。
米ドルやユーロ、英ポンド、カナダドル、円の間で1対1の関係で、通貨間の交換を簡単にする仕組みを目指しているのだろうか。それとも、G7の通貨圏で共通の単一のステーブルコインを共同発行するということになるのだろうか。

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