福岡大学・縄田氏が語る「成果を生むチームの本質」とは
“リモートチーム=低パフォーマンス”ではない 社会心理学から知るチームワークの高め方
心理的安全性が高いとは、“ぬるま湯”ではない
ここからは本題である、チームワークを高めるために大切なことだ。
縄田氏は、チーム力の上げ方を、「4階建ての家」に例える。まず土台となるのが、1階にあたる「リーダーシップ」と、2階にあたるメンバー同士の「コミュニケーション」だ。これらが築かれることで、3階にあたる「目標共有とフィードバック」「相互協力」といったチームワーク行動が取れるようになり、さらには、4階にあたる“よいチームな状態”を自律的に保つ「チーム学習」へと進むことができる。
4階建てモデルで鍵となるのは、リーダーシップとコミュニケーションであり、「土台をしっかりさせないと3階、4階を積み上げることができない」(縄田氏)という。
セッションでは時間の都合上、コミュニケーション、つまりは「心理的安全性」の形成について語られた。心理的安全性とは、学術的な定義において、「対人的なリスクのある行動を取っても、このチームは安全だとすべてのメンバーが信じている状態」を指す。
ここでいう、対人的なリスクとは、質問をする、間違いを指摘する、新しいアイデアを提案するといった、「もしかしたら嫌われちゃうかな」と感じてしまうような行動である。
心理的安全性は多くの研究対象となっているが、縄田氏らの分析によると、心理的安全性が高いチームほど、ストレスが低く、チームワーク行動が取れ、チームの成果が上がり、リーダーシップが取れた状態であるという。
また縄田氏は、よくある誤解として、「心理的安全性=なれ合い・ぬるま湯」ではないと指摘する。なれ合いやぬるま湯の環境は、居心地がよいが、決して成果は上がらない。心理的安全性が高いチームは、厳しいコメントや反対意見などがあっても排除されないだけではなく、“積極的”にこれらの行動が取られる“チャレンジング”なチームであるという。
リモートワークでこそ“対面以上”にチームワークが必要
最後に、チームを取り巻く代表的な時代変化である、「リモートワーク」環境でのチームワークについて触れられた。
コロナ禍によりリモートワークが普及したことで、いわゆる「バーチャル・チーム(ICTを通じたリモートチーム)」について研究が進んだという。特に、議論に挙がるのはリモートワークのデメリットのひとつである「コミュニケーションの取りにくさ」だろう。
ただ、現実組織での実証においては、バーチャリティによる効果は正と負、両方が確認されており、「総論としてプラスともマイナスともいえない」(縄田氏)という。少なくとも、日本の調査結果では、明瞭な悪化は見られていない状況だ。
そこで、バーチャル・チームの要素を分解してみてみると、マイナスの影響を与える「地理的分散」と、プラスの影響を与える「テクノロジー利用」の2つに分けられるという。「この2つがチームワークに対して逆向きの影響になっており、全体としては“相殺”される。テクノロジー利用が適切であると、地理的に離れていても悪影響がでにくい」と縄田氏。
その上で縄田氏は、「バーチャル・チームでこそ対面チーム以上に、“バーチャル以外”の要素の影響が大きくなる」という逆説を紹介する。「制度やツールの整備だけではなく、通常のチームワークの要素を確保しないとバーチャル・チームが回らないことを示唆している」(縄田氏)
鍵になるのは「信頼」である。リモートワークでは、委ねられることが多くなるからこそ、メンバーの自律性を高めておく必要がある。加えて、バーチャルでは信頼構築は難しいため、初回の立ち上げは対面形式にし、その後も時折顔を合わせることが効果的だという。
最後に、縄田氏は、研究者の話は「理想論」に聞こえるかもしれないが、現実の組織データの実証研究に基づく、良い結果に結びつくものだと語る。「理想を理想で終わらせず、どう実現するかを一緒に考えましょう」と呼びかけ、セッションを締めくくった。



