『トップ5%』シリーズの越川氏が語る、チーム・イノベーションのつくり方
できるチームで7.5倍使われる“声掛け”とは? 17万人のAI分析からわかったリーダーの勘所
イノベーションは“自販機”の前で起こる
続いて触れられたのが、チームでの「イノベーションの創出」だ。
越川氏は、事業開発などにおけるアイデアは、「会議室では生まれない」と指摘する。同氏がこれまで19件の事業開発を支援してきた中で、会議室から良いアイデアが生まれたのはわずか2件のみだという。
それでは、どこでアイデアが生まれるのか。それは、会議室の手前や廊下、そして、自販機の前だ。会議室外での「今ちょっといいですか?」がイノベーションを生む。
ここでいうイノベーションは、技術革新ではなく、異質な要素を組み合わせて価値を創出する「新結合」を指す。「イノベーションは会議ではなく、会話から生まれる。日本では60分の会議が74%を占めているが、それだけの時間が必要なのかを再考する時期」(越川氏)
加えてイノベーションは、「単一の組織中では起きない」という。
あるITグループ企業における、イノベーション(利益率の高いプロジェクト)の発生率をみると、10年前(2012年)は関わった人数が多いほどイノベーションが発生していた。しかし、2024年のデータをみると、他部門のメンバー比率が高くなるほど、イノベーションが生まれやすくなっている。
「10年前よりプロジェクトのメンバーが少なくなっているのは、人手不足ではなく、アジャイルになっているから。そして、他部門のメンバーの比率を50%から60%に上げないとイノベーションが起こせない。なぜなら、顧客や社会の課題が複雑になり過ぎて、一人、一組織では解決できないから」(越川氏)
では、どう他部門のメンバーを巻き込んでいくのか。ひとつは、「ご機嫌戦略」だ。「相手を不機嫌にして得することはない。嫌な仕事ほど効果を上げ、楽しそうにやった方が良い。それは信頼されるからであり、仕事は“信頼の積み上げゲーム”」だと越川氏。
加えて、大事なのは、前述の「今ちょっといいですか?」から生まれる偶発的な会話だ。トップ5%のリーダーは、職場内での歩数が25%から30%多く、偶然の出会いを必然に変えている。
メンバーのやる気を上げるのは“働きやすさ”ではなく“働きがい”
こうしてイノベーションを実現すると、イノベーションをコストと捉えている企業からは、絶対的な信頼と信用を得られる。「皆さんが目指しているのは、正直なところ、会社の営業利益ではない。好きな人と好きな仕事を好きなようにすること。それを獲得するには、会社軸という仕事で信頼を積み上げ、自分軸のキャリアを積み上げていく必要がある」と越川氏。
とはいえ、こうして信頼性を獲得していく中で、やる気が落ちてしまうこともあると越川氏。そして、社員やチームメンバーにやる気を出させるには、「働きやすさはもう古い。今は“働きがい”」だと主張する。実際に、社員の「リモートワークが少ない」「最新のパソコンを入れろ」といった声に応えて、働きやすくなる施策を講じた8社の例では、いずれも従業員満足度が上がらなかったという。
もちろん制度などで、社員の不平不満を解消することは必要だ。「ただ、働きがいはプラス感情であり、不平不満というマイナスをゼロにしても働きがいにはつながらない」と越川氏。加えて、働きがいがあると感じる社員は、生産性が31%高くなり、創造性が2.8倍向上し、離職率が59%低くなるなど、会社にとっても、社員にとってもプラスに働く。
では、働きがいとは何だろうか。クロスリーバー社が17万3000人に対して、「働きがいを感じるのはいつか」と質問したところ、「承認」「達成」「自由」に類する回答が88%を占めた。「チームのメンバーが、承認や達成、自由、どこに働きがいを感じるかを理解する必要がある。これこそが多様性を理解するということ」(越川氏)
加えて、これらの働きがいは“順番”も大切だという。まず、「目標」がないと達成は得られず、達成しないと承認は得られない。そして、自由は職責と相反関係となっており、承認された人にしか自由は訪れない。だからこそ、目標を一緒に考えて、実行していくための「1対1の対話」こそがチームづくりにおいて重要になるという。
越川氏は、イノベーションのためにも、働きがいのためにも、「会議を少なくして、会話をしましょう」と呼びかけた。



