中国が、レアアースの輸出規制強化を打ち出した。
2025年10月9日、中国商務省は一部のレアアースの輸出や、関連する技術の輸出の規制を強化すると発表した。規制対象の製品を輸出する際には、中国政府の事前承認が義務づけられる。一部の品目については、新たな規制が発表された10月9日から実施されている。
中国政府が公表したリストには、電気自動車や半導体、医療機器などに使われているレアアースが含まれている。さらに、米国を中心に強い懸念が示されているのは、戦闘機や巡航ミサイルといった兵器に使われているレアアースが含まれている点だ。米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は9日に公表した分析記事で、「新たに発表された規制は、中国が防衛産業を標的としたこれまでで最も重大な措置だ」と述べている。
トランプ政権は、レアアースを巡る中国政府の新しい規制に対して、激しく反発している。
米国のトランプ大統領は、10月29日から韓国を訪問し、中国の習近平国家主席と会談する予定だったが、SNSのTRUTH SOCIALに、「今では、そうする理由がなくなったようだ」と投稿した。
中国の新たな規制は、米中関係の悪化だけでなく、さまざまなハイテク製品の製造に広範な影響を及ぼす可能性がある。
中国の軍事力拡大の背景にレアアース
漢字では希土類と呼ばれるレアアースは、17種類の元素の総称だ。レアアースを使うことで、製品の性能が大幅に向上することがあるため、「産業のビタミン」とも呼ばれている。
とくに電気自動車では、レアアースの存在は重要だ。レアアースから製造する磁石を使うことで、小型で軽量だが、強力なモーターを製造することができる。電気自動車の航続距離を伸ばすうえでは、レアアースの存在は欠かせない。小型で軽量なモーターは、風力発電などにも使われている。スマートフォンに搭載されるディスプレイにもレアアースが含まれている。
米軍の戦闘機やミサイルといった装備も、今回の規制で大きな影響を受けると見られている。冒頭で紹介したCSISのレポートは、F-35戦闘機、潜水艦、トマホークミサイル、レーダーシステムなどの製造に影響があるとみている。さらに、米国がこうした装備の製造に苦戦する一方で、中国は、豊富なレアアースの保有を背景に、急速に兵器の生産能力を拡大していると分析し、「中国が米国よりも速いペースで軍事力の拡大を加速させることになるだろう」と述べている。
この連載のテーマを踏まえると、やはり半導体産業への影響も気になる。14nm未満の先端半導体、次世代メモリ装置や、半導体の製造装置、試験装置にもレアアースは欠かせない。しかし、中国政府の新たな規制では、先端半導体やその製造装置などに使われるレアアースは、中国当局の「個別審査」の対象となる。このため、当局の意向次第では、レアアースの輸出が不許可になったり、審査に時間がかかって輸出が遅れたりするといった事態が懸念されている。
レアアース生産の7割を中国が占める現状

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