この先の住まいを考える40・50代必見! 専門家に聞く「人生の転機に寄り添う家選び」

文●源 詩帆  編集/山野井 春絵

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 「このまま家賃の支払い/ローンの返済を続けられるのか...」「でも不動産のことはよくわからないし、大きなお金を動かすことは不安」。

 子どもの自立、親の介護など、人生の転換期を迎えるミドル世代は、これまでとは違う住まいの悩みに直面しやすい時期です。さまざまな事情からやむを得ず転居するということもあれば、「老後を違う環境で暮らしてみたい」という能動的な転居もあるでしょう。また、持ち家(マンションor一軒家)か賃貸かの選択は、いくつになっても悩ましい問題です。

 「基本を押さえ、軸がぶれなければ大丈夫!」 そう語るのは、1999年創業、東京・麻布十番で地域に根差した不動産サービスを提供し続けている株式会社パシ・コム代表取締役の渡邉仁見さん。今回は住まいの最適解を見つけるヒントを伺いました。(シリーズ1/2)

この20年で大きく変わった家探しの常識

 「『不動産は怖いし、難しい...』そんなイメージを持ったことはありませんか?ミドル世代の皆さんが過ごし、学んできた20代前後から大きく変化した今があり、さらに法律や競争に密接に関わる不動産分野です。『苦手』『怖い』と感じられるのは当然です」

 そう語るのは株式会社パシ・コム代表取締役の渡邉仁見さん。

 結婚をしたら家を買うのが当然という考えが主流だった時代から、最近では賃貸に住み続けている方も増えています。暮らし方も生き方も、それぞれの価値観が受け入れられるようになりました。

 「20年前と比べて金利も大きく変わりました。銀行の預金金利も大きく下がり、預けておくだけではなく、今は運用を考える時代になっています。さらに、以前は不動産“投資”は一部の富裕層やファンド(法人)が行うものでしたが、今は個人も含めて国内外から投資家が参入しています。その結果、不動産取引件数は格段に増え、競争率も増しています」

 地域差についても顕著な変化があります。都市部への一極集中が進み、東京か地方かではなく、地方の中心地でも不動産価格上昇が起きています。一方、中心地を外れると過疎化が進み、不動産価格も一気に下がる傾向があります。

住まい選びの出発点。「理想の暮らし」をどう描くか

将来も同じところに住み続けるべき? 住まいについて考えているミドル世代は多い

 子育て、介護、仕事、家事……多方面にやることがあり、忙しいミドル世代。住まい選びにおいても多種多様な課題が顕在化し、状況によって大きく異なります。

 「長年この業界にいる私たちでも、万人に当てはまる答えを持っているわけではありません。毎回、クライアント一人ひとりと向き合い、ヒアリングを行っています」

 現在持ち家か賃貸かによっても、その後考えられる選択肢は多岐に渡ります。資産と現金はいくらあるのか、買い換えるにしてもローンは組めるのか。ひとえにミドル世代といっても、40代前半と50代後半では置かれている環境も体力も人それぞれ。子どもが独立した後は夫婦だけで住む場合もあれば、それぞれが親の介護のために地元に戻るケースも考えられます。

 「都心では車を持たない方も多く、行動範囲や移動手段によって必要なものやサービスは変わってきます。人の数だけ課題やニーズがあり、人それぞれの最適解が存在するのです」

旅行好きには身軽なマンション、ガーデニング好きには庭付き戸建て

自分が好きなものを見つめて、住まいについて考えてみたい

 では、実際の物件探しではどのような点に注意すべきでしょうか。「人それぞれの最適解が存在するからこそ、住まいの最適解を考える際に最も大切にしてほしい軸がある」と渡邉さんはいいます。

 「『これからどのように生きていきたいのか』『自分にとっての幸せな暮らしとは何なのか』という視点を軸に考えてみてください。不動産業界は損得の世界だと思われがちですが、本来は『安心して、快適に、幸せに過ごすため』に住まいがあるはずです。

 例えば、旅行が好きな方なら、設備が整ったマンションであれば鍵一つで出かけられますが、戸建ての場合は防犯対策が必要になるかもしれません。ゴミ出しや掃除のことを考えると、一戸建てよりマンションの方が楽だという理由で買い替える方もいます。反対に、ガーデニングや家庭菜園が夢という方であれば庭付き戸建てがおすすめですし、庭があれば家族や友人とBBQも楽しめます。このように、どう暮らしたいかに加えて、家族構成や普段お付き合いのある方の数によっても住まい選びの軸は大きく異なるのですね」

 また、ミドル世代では部屋の広さを重視するケースも多く見られるといいます。大切な思い出が詰まったものや衣類、趣味の道具を収納できるかどうか。家族とは程よい距離を保つことで円滑に生活できている方の場合、部屋数が重要な要素になります。これまでさまざまな経験を積んできたからこそ、「質を落としたくない」という方が多いそう。

 「質の優先順位を明確にし、何があれば自分らしくストレスなく暮らせるのか。しっかりと自分の本心と向き合うことで、物件選びの解像度が格段に上がります」

 条件を広く設定して探すと疲れてしまいますし、相場感が曖昧なままでは、良い物件に巡り合っても適切な判断ができません。理想の暮らしを明確にすることで、エリアを広げる、予算を見直すといった「次の判断・アクション」が取りやすくなると渡邉さんはいいます。

心地よく暮らせる「街」を「信頼できる人」と選ぶ

じっくりと話を聞いてくれる、不動産のパートナーを見つけることが大切

 「いざ物件探しを行う際には、自分にとっての『幸せ』を同じ目線で考え、長期的に付き合ってくれる信頼できる不動産会社を見つけてください。具体的には、あなたの話をよく聞いてくれるか、無理に契約を急かさないか、分からないことを丁寧に説明してくれるかを見てみてください。良い不動産会社は、あなたが納得いくまで物件探しをサポートし、引っ越し自体を延期したとしても関係性を大切にしてくれるはずです」

 不動産会社の担当者には年収や信用情報の履歴、どうしても譲れない希望など、身近な人にも話さないような個人的な情報を不動産会社には伝えることになります。それであれば、あなたの幸せを一緒に考えてくれるパートナーとして物件選びを進めてほしいと渡邉さんはいいます。

 「実際に、不動産会社に急かされてプレッシャーを感じ、図面だけを見て家を決めてしまった方がいました。契約後に見に行ってみると、図面通り窓はあるものの隣の家の壁が至近距離にあり、近くにコンビニもなく、駅まで徒歩15分以上かかることが判明しました。『これを毎日続けられるだろうか。シニア世代になってからも大丈夫だろうか』と考えた結果、すぐに買い替えを決断されたそうです」

 もちろん、本当に急いで決断しなければならない人気物件もありますが、室内が見られなくても、せめて周辺環境は実際に確認したほうがいい、とのこと。現地に足を運ぶと、新しい駅や店舗、取り壊し予定のビルなど、インターネットでは得られない生きた情報に出会えることもあります。遠方で環境を見にいくことが難しい場合は、不動産会社に周辺の写真や動画を撮影してもらうなど、依頼してみてください。

終の住処に選んだ田舎町。決め手は、車なしでも暮らせる住環境だった

旅で気に入った街に何度も足を運んでみるのも、将来の住環境を考えるヒントに

 「知り合いの外国人の方は、定年後の日本移住を希望され、何度も日本を訪れていました。最終的に選ばれたのは四国のある街。公共施設も駅も充実しており、坂が少なく車がなくても生活できそうだと判断されたからです。このような住環境の詳細も、データだけでは把握しきれない部分です」

 一人ひとりがオリジナルの最適解を見つける作業は人によっては長時間に及ぶこともあります。候補となる街の周辺環境を知るための小旅行を行うなど、じっくりと自分の理想を見つける作業をおすすめします。

 「住まい探しとは、“家”という箱だけで決めることではありません。理想の街を見つけ、その街で人生を歩むことです。ぜひ、これからの人生にとって少しでも理想に近い住まいを思い描き、良い物件での暮らしを実現していただきたいです」

立ち止まって考えたい。「私にとって幸せな暮らし」とは何か

 住まいについて考え始めると、莫大な情報量と上昇し続ける販売価格や家賃に圧倒され、「現状維持でいいか」と自分を納得させてしまう人も多いのではないでしょうか。情報過多で疲れてしまう前に、一度立ち止まって「自分にとっての幸せな理想の暮らしとは何なのか」をゆっくりと見つめ直すこと。渡邉さんのお話には今までとは違う視点で住まい探しを楽しめるようになるヒントがありました。

 次回は「賃貸派のミドル世代が確認すべき6つのポイント」について、渡邉さんにさらに深くお話を伺っていきます。

Profile:渡邉仁見

わたなべ・ひとみ/株式会社パシ・コム代表取締役。公益社団法人 東京都宅地建物取引業協会 第六ブロック 副ブロック長・麻布地区長・レディス部会会長。

1999年、麻布十番にて株式会社パシ・コム設立。不動産の管理、賃貸、売買、仲介、企画事業など幅広くビジネスを展開する。2019年には海外不動産事業を開始。規模の大きな案件も得意とする一方で、「クライアントに満足してもらうこと」=「会社としての最大の利益」と考え、地域に根ざした不動産サービスを提供している。

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