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業務を変えるkintoneユーザー事例 第286回

部長の机に積み上がる決裁書類は、kintone導入で解消されたか

“毎年3割が入れ替わる”特殊な組織でペーパーレス 地方にもDXを波及させた地域活性化センター

2025年09月19日 10時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 「毎年職員の3割から4割が入れ替わる、すごく特殊な組織です」 ―― 約7割が地方公共団体からの出向職員で占められている地域活性化センター。テレワークやフリーアドレスを導入する先進的な働き方を実践する一方で、“ワークフロー”だけは時代に取り残されていたという。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。2番手で登壇した地域活性化センターの西田周平氏は、部長の机に決裁書類が積み上がり、ロッカーにまで突っ込まれていたような非効率な決裁フローをkintoneで解消し、最終的には出向職員の地方自治体まで広がった“DXの連鎖”が生まれるまでの道のりを語った。

地域活性化センター 総務課 副参事 西田周平氏

フリーアドレスと紙決裁の最悪な相性、ロッカーに「突っ込まれる」決裁書類

 地域活性化センターは、「地域づくりはひとづくりから」を理念に、地方活性化や地方創生を担う人材の育成を事業とする一般財団法人だ。総務省の関係団体として1985年に設立され、今年で40周年を迎える。会員は1926団体に上り、ほぼすべての地方公共団体と、活動に賛同する民間企業等で構成されている。

 同センターの組織構成には大きな特徴がある。全79名の職員のうち53名、実に67%が地方公共団体からの出向職員で占められていることだ。しかも任期は原則2年と決まっている。

「毎年職員の3割から4割が必ず入れ替わる、すごく特殊な組織です。皆さん、想像してみてください。自分の会社の社員が毎年3割も入れ替わったらどうでしょう。ちょっとぞっとしませんか」と、数少ないプロパー職員であり、採用から情報システム、DX推進まで幅広く担当する西田氏は語る。

 kintone導入以前は、この組織の特性や働き方に起因して、深刻な課題を抱えていた。センターの業務は出張が多く、毎年、年間に800件にもおよぶ。また、テレワークやフリーアドレスも導入されており、西田氏も2021年の入職当時は、「なかなかイケてる働き方をしている組織」と感じたという。

 しかし、先進的な働き方を実践する一方で、“ワークフロー”だけは時代に取り残されていた。すべてが紙で運用され、昔ながらのやり方がそのまま残っていた。加えて、職員は出張で不在がちで、オフィスにいても誰がどこにいるか定まらない。この状況で紙の決裁を回すことは極めて非効率であり、当然膨大な時間を要していた。

ワークフローでは紙ベースの昔ながらのやりかたが残っていた

 当時の状況を象徴する光景がある。ある部長の座席の上には、承認待ちの決裁書類が文字通り山積みになっていた。「当時を知らない職員にこの光景を見せると、『仕込んだでしょう』と言われてしまいました」と西田氏。さらに、フリーアドレスを採用している課長以下の職員への回覧方法は、固定席がないため、担当者の個人ロッカーに決裁書類を「突っ込んで」回していたという状況だ。

S部長の机は決裁書類で山積みに…

 もうひとつの課題は、「情報検索の煩雑さ」だ。職員の入れ替わりが多いため、過去の情報を参照する機会が頻繁に発生する。膨大な紙ファイルから目的の書類を探す作業は大きな手間となっていた。データ化も進められたが、「確定版」や「最終版」といったファイルが乱立し、どれが正式なデータなのか判別がつかない。これらの課題を解決すべく、当時ひとり情シスだった西田氏を中心に、ワークフローのペーパーレス化を目指すプロジェクトが立ち上がった。

膨大な紙ファイルから目当ての書類を探さなければならなかった

5ヶ月間のアジャイル開発、特殊な組織環境で徹底した「迷わせない」設計思想

 ペーパーレス化プロジェクトは、2022年11月にスタートした。求められたのは、2023年4月の全面導入を目標とする、わずか5ヶ月というタイトなスケジュールだ。kintoneのオフィシャルパートナーであるダンクソフトの伴走支援を受けながら開発を進めた。

 短期間での導入を実現するために採用したのが、“アジャイル開発”である。完成形を最初に定義するウォーターフォール開発とは異なり、優先度の高い機能から順次開発を進め、徐々に完成度を高めていくアプローチだ。「アジャイルがkintoneと相性が良く、現場の意見を取り入れながらアプリが出来上がっていきました」(西田氏)

アジャイル開発を採用して短期間で開発

 出来上がった主なkintoneアプリは、決裁を回す「起案」アプリ、支出を伴う起案のための「経費支出伺」アプリ、そして旅費申請の「旅行命令簿」アプリの3つだ。これらのアプリで最も重視したのが、“ユーザーファーストの徹底”である。「毎年3割から4割の職員が初めて触れるため、ユーザーにとってわかりやすいか、触りやすいかという点にこだわって開発を進めました」(西田氏)

 具体的な工夫の一つが、承認フローを入力補助する仕組みだ。着任したばかりの職員は、組織の構造や他の職員の名前すら十分に把握していない。誰を承認者として設定すればよいか迷うのは当然だ。

 そこで、「承認フローマスター」アプリを別途開発。ユーザーは、起案の種類と最終決裁者、そして自身の所属を選択するだけで、適切な承認フローが自動設定される仕組みを構築した。

フローを選ぶだけで、必要な承認者がセットされるようにした

 旅行命令簿アプリにも、泊数によって役職に応じた宿泊費などが自動計算される仕組みを実装。入力ミスを未然に防ぐため、システム側でチェックをかけ、エラーメッセージも分かりやすく表示される。

 さらに、現場のニーズに応えて開発されたのが「至急案件の優先表示」の仕組みだ。至急扱いとなったレコードが、承認者側の画面で上位に分かりやすく表示される。決裁者は優先的に処理すべき案件を一目で把握できるようになり、迅速な意思決定を促している。

急いで決裁して欲しい案件には至急フラグを付けられるようにした

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