DTVビザでタイにプチ移住! 海外ノマドフリーランスのリアルとは?
タイで2024年より導入されたDTVビザ(Destination Thailand Visa)。リモートワーカーやデジタルノマドに向けたこのビザは、最大180日間の滞在が可能で5年間有効、そして入国回数の制限がないマルチプル形式。さらに従来の長期滞在向けのビザと比べて格段に申請手数料が割安のため、お試し感覚で移住をしてみたいという人からも注目を集めている。そんなDTVビザだが、実際にどのように取得するのか、現地での暮らしぶりはどうなのか気になるところ。そこで現在、タイでのプチ移住生活を満喫しているフリーランスWebライターのりのさんに詳しく話を聞いてみた。
すべての画像を見る場合はこちら約4年の海外ノマド生活を経て、DTVビザでのタイへのプチ移住を決意
世界60か国以上を巡った自身の経験をもとにした著書「拝啓、世界であわてふためく女子たちへ」を出版後、フリーランスライターとなったりのさん。〝旅を仕事に〟するべく本格的に活動を始めた矢先、世の中はコロナ禍に突入。旅関連の仕事がすべて白紙になっただけでなく、大好きな海外への一人旅すらできなくなってしまう。
その後、海外への渡航・滞在の規制が緩和された2021年よりノマドワークを本格化。海外を拠点にフリーランスとして働くことを選択する。〝旅を仕事に〟という目標はかなわなかったが、「好きな旅を続けながら海外で仕事ができる」という日々に満足していたそう。
これまで海外ノマドとして訪れたのはハワイをはじめ、メキシコ、タイ、ベトナム、マレーシアの東南アジア各国、ギリシャやモンテネグロ、クロアチア、ハンガリー、オーストリア、イタリア、アラブ首長国連邦、オーストラリアなど。約1~2か月に1回拠点を変えながら、フリーランスWebライターとして仕事を続けてきた。
そんな海外ノマドワークを満喫していたりのさんだが、2025年4月よりタイでのプチ移住生活をスタート。きっかけはDTVビザが導入されたことだった。しかしながら、実はりのさんにとって、タイは苦い思い出が残る国でもあったという。
「タイは12年ほど前、貧乏バックパッカーをしていた時に、初めて足を踏み入れた国。お金がなかったので、窓もエアコンもない牢獄のような部屋を借り、屋台飯で常にお腹を壊しながら滞在していました。体調が常に悪く、初めて海外で入院を経験した場所でもあります。正直この頃は、あまりいい思い出が残っていません(笑)」
その後、フリーランスとして収入を得られるようになった彼女が、改めて訪れたタイで感じたのは「驚くほど快適で過ごしやすい国」ということだった。
「まず、12年前とはタイの環境そのものがだいぶ変わりました。また、私自身お金の使い方が大きく変わり、我慢しなくてよくなったというところが大きいとは思うのですが、タイ、とくにバンコクはとにかく〝欲張れる国〟なんです。
東京でワンルームを借りる家賃(8~12万円ほど)で、バンコクならジムやプール付きのタワーマンションに住める。配車や食事などはアプリで完結し、生活は便利。人々は穏やかで親切、英語が得意でなくても生活に困らない。
そんな環境は私にとって、日本の快適さを諦めずに、それでいて異国の刺激も感じられる、〝ハイブリッド型〟としてしっくりきたんです。それが今回、移住を決めた大きな理由の一つでした」
DTVビザをスムーズに取得するには、十分な情報収集と準備が成功のカギに
りのさんのタイへの移住を後押ししたのはもちろん、2024年に導入が決まったDTVビザ(Destination Thailand Visa)だ。
「DTVビザとは1回の入国で最大180日間タイに滞在できる、5年間有効のマルチプルビザです。タイを出国すれば滞在期間はリセットされ、再び180日間滞在が可能。さらに延長手続きを行えば、180日から360日に滞在を延ばすことができるのです。
一般的な入国条件では、空路からのビザなし滞在は30日間、イミグレーションで延長手続きをしても最大60日間に限られています。もっと長く滞在したい場合は、現地で働く就労ビザ、語学留学のような教育を目的としたEDビザ、あるいは数百万円が必要なエリートビザなどが必要で、手間も費用も大きな負担でした」
そうした従来のビザより手軽に、かつ長期で滞在できる新しい選択肢として登場したのが、このDTVビザだ。料金は申請する国によって異なり、日本国内であれば52000円。対象となるのは、タイを拠点にリモートワークで仕事をするデジタルノマドやフリーランスのほか、ムエタイやタイ料理などを学ぶ〝タイのソフトパワー〟関連活動を行う人。加えてDTVビザ保有者の配偶者もしくはその子どもも対象となる。
「私はワーケーションのカテゴリーでDTVビザを取得しました。このビザを取得するには、口座に50万バーツ(日本円で230万円ほど)以上の金額があることが条件。ほかにタイ国外の企業相手に、デジタルノマドやリモートワーカーとして働いていることを証明する雇用契約書、またはポートフォリオなどが必要です。
タイ国外にある大使館・領事館、または公式e-Visaサイトから申請ができ、条件を満たせば誰でも申請可能。ただし、取得できるかどうかは申請先の大使館次第です」
注意すべき点は、このDTVビザをどの国で申請するかが大きなポイントということ。そこでりのさんは、世界各国の人が属しているFacebookのDTVビザコミュニティに参加し、対策を練ることにした。
「ベトナムが取得しやすい、ラオスは書類審査が厳しい、マレーシアは承認までに数か月かかる、日本は世界トップレベルで厳しいなど、コミュニティではさまざまな実体験による情報が流れてきていました。私の友人のなかでも、すんなり取得できた人もいれば、提出写真の画質が悪いだけで再提出を繰り返された人も…!
いろいろ話を聞いて、もっとも取得しやすそうだと感じたのがインドネシアのタイ大使館でした。そこで、当時滞在していたマレーシアからバリ島に飛んで、DTVビザを申請することに。できるだけマレーシアで必要書類を準備し、バリ島到着の翌日に申請。
申請してからは、追加書類なしでたったの3日で承認されました。却下されたらどうしよう…と不安でしたが、あっさり承認されてびっくり(笑)。さまざまなパターンを見てきましたが、これはかなり最速なほうだと思います」
りのさんがインドネシアのタイ大使館に提出した書類は以下の通りだ。
・パスポートのコピー
・6か月以内の顔写真
・滞在場所を示す書類(バリ島で取得したため、インドネシア入国のスタンプページのコピー)
・DTVビザを申請する国の滞在証明書(バリ島のホテルやAirbnbの予約書類を提出)
・申請国の入国ビザ(インドネシアに入国するために取得した書類をすべてコピーして提出)
・50万バーツ以上の英文残高証明書
・タイ滞在ホテルの予約確認書
・タイへの航空券
・持っているWebサイトのスクリーンショット
・英文ポートフォリオ
・過去6ヶ月の口座明細書
・年間支払調書と各月の支払通知書
「私が提出したなかには、公式で発表されている必要書類にないものも多いです。また、どの国のタイ大使館で申請するかによっても若干必要書類は異なります。ただ、FacebookのDTVビザコミュニティでは、多くの人が『追加書類を求められた』と取得に苦戦していて。じゃあ、不足するよりはいいだろうとできる限り書類を集めることに。
追加書類一切なしの一発承認を目指すため、このコミュニティで語られていた『求められた追加書類』をすべて用意し、完璧にして提出したんです」
りのさんはワーケーション枠で申請するにあたり、職業を証明する書類として必要な企業との業務委託契約書を持っていなかった。そのため、フリーランスとして十分な収入を継続的に得ていることを証明するために、英文のポートフォリオを作成。さらに企業から受け取っている支払調書、お金の動きを証明できる口座の明細書のコピーを添付した。
「もともと持っていたポートフォリオを、ChatGPTでより魅力的な英語にしてもらってCanvaで仕上げ。Canvaはデザインのテンプレも多いので、作成はとても簡単でした。
一方で地味に苦労したのが、英文の残高証明書や口座の明細書。直接受け取りに行かないと取得できない銀行が多く、海外にいた私には不可能。そこで、手数料を支払えばPDFでダウンロードできる銀行に資金を移すなどして取得しました。
また、どれくらいでビザが承認されるかがわからなかったため、タイへの航空券やタイでの滞在ホテルはすべてキャンセル可能なタイプを予約。すべてにおいて、隙のない状態で申請に臨みました」
結果的に書類自体は1〜2週間で用意できたが、情報収集や情報の精査に時間を費やしたため、プチ移住を決意してからビザをする取得までおよそ2か月がかかったという。
さて、DTVビザ申請の方法やコツがわかったところで、次に気になるのは移住にまつわる費用のことだろう。りのさんのケースだと、まず必要となったのはビザ申請料の560万ルピア(約50000円)に加え、タイまでの航空券50000円、家が見つかるまでのコンドミニアム代18万円、入居時の予約金とデポジット50万円だ。
「仮住まいの料金は、私の場合かなり高めだと思います。短期で1人暮らし用のコンドミニアムを借りるなら10万円前後からでもありますし、長期割引がきけば70000円を下回る部屋もちらほら。私はどうしても住まいにこだわりたくて、今回はちょっと高額になってしまいました。家が決まってから払うデポジットは通常家賃の2~3か月分で、退去時に問題がなければ戻ってきます。
実際、生活をはじめるにあたっては、スマホのSIMが1年で10000円ちょっと、Wi-Fiが月2500円くらい、調理器具や掃除用品が50000円くらい。これは人によっては不要かもしれませんね。基本的にタイのコンドミニアムには家具や家電がついているので、入居した日から普通に暮らせます」
りのさんの場合は海外ノマドワーカーのため、日本からの移住とはかかる費用は若干異なるかもしれないが、それでも初期の必要経費という面では大きく変化はなさそうだ。
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