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業務を変えるkintoneユーザー事例 第276回

アセスメントと目標管理で妊産婦のなりたい姿をサポート

生まれて間もなく消える命がある 妊産婦を支援するNPOから見た「命を救うkintone」

2025年08月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●サイボウズ

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 予期せぬ妊娠・思いがけない妊娠で生まれて間もなく亡くなった子供は、20年間で228人に上る。こうした悲劇を防ぐべく、妊産婦に寄り添うNPOが「全国妊娠SOSネットワーク」だ。

 kintone hive 2025 hirosimaの4番手として登壇した田中実花氏は、そんなNPO内でのkintone活用を披露。妊産婦支援の品質を向上させ、活動を見える化するためにkintoneをどう作り込んでいったのか?

一般社団法人 全国妊娠SOSネットワーク 田中実花氏

「誰にも言えない妊娠」を相談できる全国妊娠SOSネットワーク

 「kintone hive 2025 hirosima」の登壇したのは一般社団法人 全国妊娠SOSネットワークの田中実花氏だ。大学で保健学、公衆衛生学を専攻し、社会福祉士の資格を取得し、3年前から広島で活動している田中氏。「妊産婦を救う現場で泥臭くkintoneを導入したお話」と題して、NPO法人でのkintone活用について説明した。

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 田中氏がまず会場に披露したのは、妊娠を巡るさまざまな数字だ。2023年度の出生数は72万7288人になっているが、さまざまな理由で人工中絶に至った件数は12万6734件に上る。そして、生まれて間もなく親から殺害・遺棄などされた赤ちゃんの数は20年間で228人。0日児の死亡事例で見ると、加害者の87%は実母で、出産場所の63%は自宅だった。

生まれてまもなく親から殺害・遺棄などされた赤ちゃんの数は185人。加害者は87%が実母

 「このような背景には、『妊娠を誰にも言えない』『産んでも育てられない』などの事情があります」(田中氏)とのことで、妊産婦のケアがなにより大事。こうした予期しない妊娠・思いがけない妊娠となった妊産婦をサポートし、亡くなる子供を1人でも救いたいという想いで、専門職の有志によって立ち上げられたのが全国妊娠SOSネットワークになる。

 全国妊娠SOSネットワークでは、専門職を対象といた研修や、妊娠相談窓口や妊婦の居場所を立ち上げための伴走支援、周知・啓蒙、政策提言などを手がけている。「妊婦さんは匿名で相談ができ、多職種のチームで対応します。妊婦に対して情報提供をしたり、病院や行政機関にいっしょに足を運んであげる同行の支援、行政との連携などを行なっています」とのこと。

 現在、妊娠相談窓口は全国で50ヶ所、養子縁組支援を含めると70ヶ所に上っているが、47都道府県あまねく設置されているわけではないという。「私たちの願いはすべての都道府県に質の高い窓口を置くこと」と田中氏は会場にアピールする。

妊産婦の相談内容をデータベース化 クロス集計も容易に

 さかのぼること4年前の2021年。田中氏が見たのは、助産師、看護師、保健師、保育士、社会福祉士など、専門性のあるメンバーが熱い想いを持って奔走している現場だった。一方で、相談記録を紙やExcelで杏里していたり、非営利故にシステム化にコストが欠けられなかったり、年齢層高めの相談員がITに不慣れという課題があった。

2021年当時の全国妊娠SOSネットワークの課題

 こうした現場では、複雑な課題を持つ妊産婦さんへの対応が共有しづらいという状況があった。相談員が適切な支援を行なえているのかの振り返りができず、バックグラウンドや経験値の異なる相談員の人材育成が進まないという課題だ。もう1つは業務の活動量や効果の見える化や数値化ができず、活動の意義をステークホルダーに上手く示せないのも難点だった。

 こうした課題への対応策として田中氏が出会ったのがkintoneだ。予算のかけられないNPOということで、ライトコースの標準機能のみを使ってアプリを構築。kintoneエバンジェリストの支援を得ながら、さまざまな工夫でアプリを仕上げた。

 2021年6月に完成した「妊娠SOS相談アプリ」は、妊婦管理を行なう「妊娠SOS相談マスター」、相談内容や対応を記載した「妊娠SOS相談記録」「関係機関リスト」の3つのアプリが連動する。妊娠SOS相談記録では、出産1週間を切るような緊急度の高い場合は、全員に通知が行くように設定した。グラフ作成も容易で、未受診の詳細を分析できる受診状況や年代のクロス集計、あるいは相談手段と相談内容のクロス集計も可能になった。業務内容に応じたカスタマイズが可能なkintoneの真骨頂と言える。

妊娠SOS相談アプリ

 妊娠SOS相談アプリの導入により、相談履歴の5W1Hを全員で共有できるようになり、支援の振り返りも可能になった。また、相談対応が可視化され、相談同士で学びが得られる。さらに緊急性の通知やコメント欄の活用により、共通認識を持つことも可能になった。「メンバーは必ずしも同じところにいない。そんな中でも、大事なところを共通認識として持つことができるようになった」と田中氏は語る。

 さらに「支援の濃さを可視化できるようになった」のも大きい。システマチックな対応の見える化が可能になり、グラフや表の活用によって「切れ目のない支援」からこぼれ落ちる妊産婦の実情や活動の意義を可視化できるようになった。

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