参考写真 camilo jimenez | Unsplash
自民、公明両党が大敗した参院選で、SNSを通じた、外国からの選挙への介入が話題になった。
平将明デジタル大臣は2025年7月15日の記者会見で、記者からSNSを活用した選挙戦に対する所感を質問され、「外国においては、他国から介入される事例なども見て取れるので、今回の参議院でも、一部そういう報告もあります」と答えている。
平氏の言う「一部そういう報告」が、どの国によるどのような介入を指すのかは不明だが、各メディアやSNSでは、おおむねロシアの関与を指す言葉だと受け止められている。ロシアの政府系メディア「スプートニク」が、参院選公示後の7月14日夜に、参政党の立候補者さや氏のインタビューをXに投稿したためだ。翌15日の平氏の発言は、こうした動きを念頭に置いたものだろう。
一方で、青木一彦・官房副長官は16日の会見で次のように述べ、日本が他国からの「影響工作」の対象になっているとの認識を示している。「我が国もこのような影響工作の対象となっているとの認識のもと、国家安全保障戦略において、偽情報等の拡散を含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化することとしている」
青木氏は、あまりはっきりとは言っていないものの、7月20日に投開票された参院選でも「影響工作」があり、「情報戦」が展開されていたことを示唆する発言であることは間違いないだろう。
スプートニクは単なるプロパガンダ・メディアではなさそう
ロシアだけでなく、各国の政府が他国の言葉でウェブメディアを運営している例は少なくない。北朝鮮は、「ネナラ」というサイトの日本語版を運営し、「金正恩総書記がナマズの養殖を視察した」といった動静を日本語で報じている。中国は「人民網」などのメディアの日本語版を運営している。イランのParsTodayも、そうしたメディアの一つに挙げられる。こうしたメディアは「プロパガンダ・メディア」と呼ばれることもある。
スプートニクも、ウェブサイトの「プロジェクトについて」を確認すると、「2014年11月10日に、ロシア国営メディアグループ『ロシア・セヴォードニャ』によってリリースされました」とはっきり書いてある。
実際、こうしたメディアは、その国の方針に賛同できるかどうかは別として、他国の政府がどのような情報を発信しているのかを理解するうえで、重要な情報源でもある。しかし、最近のスプートニクの情報発信を確認すると、単にロシア政府の情報発信にとどまらず、幅広いニュースをXに投稿していることがわかる。
スプートニクは、日本の国内政治の情報発信にも力を入れている。たとえば、26日には、日米の関税交渉について、日本の大学教授のインタビュー動画をXに投稿している。また、日本で発生した、殺人事件の速報などにも力を入れているようだ。24日にはロシアと関係が深いとされる鈴木宗男参院議員のブログの紹介記事を、Xに投稿していた。
スプートニク日本版の情報発信は、Xでの投稿の回数が多く、ロシアからの発信だけでなく、日本の国内ニュースも手厚くカバーしている。つまり、スプートニクの役割は、ロシア政府の立場を伝えることにとどまらず、日本語で情報発信をするメディアとして、一定の影響力を確保することを目指しているようにも見える。スプートニクは27日の時点で、16万8500人のフォロワーがいる。参政党さや氏のインタビュー動画は約790万回再生されている。
スプートニク日本版は24日、参院選におけるスプートニクを巡る一連の報道に対して、次のような記事を投稿している。
「露外務省のザハロワ報道官は24日、日本の一部政治家やメディアが拡散した参院選の「ロシア干渉疑惑」について、『支持率が底をつきて、他に評価を上げる方法がないため、ロシアの介入について語っている』と指摘した」
最近では、スプートニクが日本の政治に関連する情報を発信するときは次のような「おことわり」をつけている。「スプートニクは、日本における特定の政党や政治家を支持・支援することは一切ございません」
北朝鮮のネナラは対照的に、金総書記の動静や、北朝鮮の内政、外交に関するニュースがほとんどを占め、日本の国内ニュースにはあまり関心がなさそうだ。中国の人民網は、中国の政治・経済、外交などのニュースが中心だが、7月22日には「日本の連立与党の参院選敗北が意味するもの」というタイトルで、日本の政局に関する記事を公開している。
中国が「れいわ新選組」を推した事例も

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