業務を変えるkintoneユーザー事例 第278回
ひたすら地味な自治体DX実現の道 キラキラを目指さず一歩ずつ
終わりのないDXの旅路 瀬戸内市が歩んだ5年間の意識改革
2025年08月19日 11時00分更新
ファーストペンギンからkintoneを試す 現場のアイデアがアプリへ
DX戦略室で最初に手がけたのは、現場部門(原課)のヒアリングだ。DX戦略室が業務内容を原課にヒアリングし、ひたすら課題を洗い出した。原課の担当者を募ってアプリ化を進めることにした。そんな中でファーストペンギンとも呼べる挑戦者になったのが、テレワークの実証実験を一緒に取り組んだ企画振興課であった。
企画振興課では、移住や定住を希望する人が手書きしていた相談シートや申請書をkintoneでオンライン化した。今までは庁舎や移住イベントで手書きした内容を職員がExcelに転記していたが、トヨクモの「フォームブリッジ」で申請内容をkintoneに登録できるようになり、リアルタイムに閲覧できるようになった。職員は相談業務に専念できるようになり、利用者も24時間いつでも申請することが可能になった。
また、原課へのヒアリングから洗い出した課題をもとに情報共有や業務改善のプラットフォームとしてのkintoneを原課で使いやすいように、ポータルやメール送信、地図の活用などの機能を整備。その後、研修会を経てアプリ化を進める原課の担当者たちの中に、後述する産業建設部建設課の課長や、上下水道部の下水道課に所属していた現DX戦略室の吉川氏がいた。
吉川氏はもともと長船町役場で勤務しており、合併後は福祉、税、健康保険などを担当。当時は下水道の管理を担当する下水道課に所属していた。「なにかと首を突っ込みたい性格。面白そうということでDX戦略室のkintone勉強会に参加したら、手取り足取り教えてくれました。原課に成果を持ち帰ったら、いろいろなアイデアを出してくれるメンバーがいたので、サンプルアプリからアプリを作り、困ったらDX戦略室の方に聞くというのを繰り返していきました」と語る。
こうしてできたアプリの1つが、下水道の合併浄化槽・認可区域確認アプリだ。下水道が整備されていない地域(認可区域外地域)に水洗トイレを設置するには、合併浄化槽の設置が義務付けられている。市では合併浄化槽を設置する方に補助金を交付する制度があるが、認可区域外地域かどうかを事前に市にFAXで確認する必要があった。そこで、この申請をオンライン化し、メールで回答すると共に、確認事業者向け専用ページで様式を閲覧できるようになった。こうして自治体の「名もなき業務」がkintone化され、気がつくと職員は楽に、市民は便利になっていく。これが瀬戸内市のDXの姿だ。
DX戦略室自体のDX化も進めた。今まで電話やメールなどで来ていた問い合わせはkintoneに一本化。「年間に2000件くらい問い合わせが来ていたので、それがkintone化されただけでも、効果はすごく大きかったです。あれを全部電話で受けていたら、とてもじゃないけど対応できなかったですし、問い合わせ内容も、誰が担当かも記録が残らない。問い合わせを引継ぎ忘れて、指摘されることもなくなりました」と二丹氏は語る。
職員の採用ができないという現場の悲鳴 課長の声が課長に届く
製品の説明や原課の伴走支援からスタートしたDX戦略室。原課のヒアリングを元にkintoneのアプリ化を進めてきた二丹氏は、原課の課題感もkintoneもわかるDX担当者としてスキルアップを遂げ、今では庁内のセミナーを担当するまでになった。「最初は原課の方も『難しそう』って言われるんですけど、私もそうだったし、いったん向き合えば絶対にできると思います」と二丹氏。実際に研修を受けて、kintoneでフォームを作るところまで進められるようになった職員もいる。
3年目からはDX人材育成に注力するようになった。これは各課で積極的なところ、興味のないところの差も出てきたからだ。「研修も伴走支援もやっていたのですが、どの課も一発でうまく動くわけではありません。そこでDX推進リーダーやDX推進委員の研修を始めるようになりました。年度末には各課のDX推進リーダー・DX推進委員が市長・副市長の前で、今年の成果を発表するという場を設けています」(太田氏)。
基本的にはキーマンがいるところはDXも進む。課長がキーマンで、積極的だと効果が大きい。スモールスタートでkintoneなどのITツールを導入し、現場が効果を感じると次へ、その次へと進むという。問題なのは、DXに興味を持たない原課だ。「せっかくDX推進リーダー・DX推進委員を設置しても、上司が乗ってくれない……みたいな課もありました。課題と感じたDX戦略室では、年3回課長職の研修をやることにしました」と太田氏は語る。
課長という同じ立場でDXについて腹落ちするのが目的の研修。建設課の課長が語った内容は、「専門職を募集しても、採用できない」という原課の悲鳴だった。「仕事は減らないのに、どんどん職員は少なくなっていく。みんな疲弊すると、ますます人が減る。こうした状況が見えているから、研修会にも参加し自分から動き始めた」と語り、庁内で共感を得たという。
研修会に参加した産業建設部建設課では、さっそく要望受付管理の地図アプリを作成した。これにより、申請書および関連する台帳をアプリ化。該当地点がマッピングされた受付台帳上で、自治会、関連台帳データの検索が可能となり、各種申請書への転記作業も不要となった。申請後の進捗状況、履歴管理や写真データの一元管理が可能となり、過去の要望書を探す時間が大幅に短縮された。

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