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山谷剛史の「アジアIT小話」 第217回

3Dプリンターで製品を作って商売しまくる中国 「3D打印農場」が増えすぎて早くもバブル崩壊!?

2025年07月21日 10時00分更新

文● 山谷剛史 編集● ASCII

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では3Dプリントファーム事業は実際に儲かるのかどうか

 そんな夢はともかく、本当にその事業が儲かるかどうかについては中国人が気にするところで、多数の検証記事がある。

 たとえば、起業するにあたり3Dプリンターを10台購入し、3ヵ月稼働するとする。1台あたり約4000元(約8万円)で、10台では4万元(約80万円)だ。1台あたり1日平均500gの材料を使用し、1kgあたり66元(約1350円)として、1台あたりの材料費は1日あたり33元(約680円)だ。10台で1ヵ月(30日)の材料費は9900元(約20万円)で、3ヵ月なら約3万元(約60万円)になる。加えて土地代や運営費もかかる。

 さらに工場用に100平方メートルの敷地を借りるとして、月額賃料は2000元(約4万円)で、3ヵ月で6000元(約12万円)。建物の改修を2万元(約40万円)でして、敷地費と改修費の合計は2万6000元(約54万円)で、そこに電気代を加える。

 機械1台は24時間稼働で3kWhの電力を消費。1kWhあたり0.67元(約14円)で計算すると、機械1台あたりの電気代は1日約2元(約40円)、3ヵ月で10台分の費用は合計1800元(約3万7000円)。10台の3Dプリンターを備えた小規模農場の初期投資総額は約10万元、日本円で200万円となり、さらに人を雇う必要がある。

 成果物はグラム単位の重量課金で計算するのが一般的な手法だ。以前は1gあたり0.2元(約4円)だったが、0.12元(約2.5円)まで下落しているという説がある。0.2元のときなら、1台あたり平均500gの材料を使用するので1日1台で100元(約2000円)、10台なら1000元(約2万円)、3ヶ月稼働させれば9万元(約18万円)となり、10台保有する3Dプリントファームは3ヵ月で投資をだいたい回収できる。ただし0.12元か、もっと単価は安くなると、回収には時間がかかるようになる。

3Dプリントファームのバブル化で製品が過剰供給
近いうちに中古の3Dプリンターが市場に大量に出てくるのでは?

 なぜ成果物の買い取り価格が下がるかというと、中国で何度となく繰り返される参入者の殺到による過剰供給が原因だ。中国各地で、参入ハードルの低いファームがつくられ、均質な生産能力で生産するので価格競争待ったなしの生き残りチキンレースとなる。

 生き残るのは独自の強みがあるところだが、それが企業への試作品生産といった真っ当な話ならいいが、デザインにこだわりという話であればすぐに真似されて、ECサービスで同じものが激安で売られるはめとなる。ともなるとやがて倒産ラッシュとなり、その先には使用時間がやたら長い3Dプリンターが、大量に中古市場に流通しそうだ。そのことをわかったうえで割安で購入するのならお得に入手できるかもしれない。

 中国の3Dプリント界隈が気になったら8月末に深センで開催される3Dプリンター関連のイベント「Formnext Asia Shenzhen 2025」(https://formnext-sz.hk.messefrankfurt.com/shenzhen/en.html)に足を運んでみると最新トレンドが把握できるだろう。また日本企業とマッチングしたい現地企業を知ることができるはずだ。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク

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