摂食障害と鬱で宝塚卒業を断念。心・体・食・眠を整えるダイエットトレーナーへの道のり

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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 愛知県長久手市で女性専用ダイエットサロンを運営する笹田なぎささんは、10代で宝塚音楽学校へ入学し夢を掴みかけるも挫折を経験。摂食障害や怪我、鬱に苦しむ20代を過ごした。転機が訪れたのは、30代。ヨガ講師として新しいキャリアをスタートした。現在のプロフィールからは、「成功している人」と感じられるかもしれない。しかし、その輝きの裏には、痛みやトラウマを抱えた笹田さんの長いライフシフトの物語があった。

ダイエットトレーナーの笹田なぎささんは愛知県長久手市で女性専用パーソナルトレーニングサロンを運営している。

宝塚退学後、毎日パチスロに通った、波瀾万丈な20代

左から、拒食期(17歳頃)32kg、過食期(20歳頃)62kg、現在(40代前半)49〜51kg。笹田さんは女性たちに「どれだけ綺麗かは、体重計だけでは測れない」と伝えている。

 笹田なぎささんは、10代で宝塚音楽学校へ入学した。しかし、過酷な環境のなかで摂食障害(過食・拒食)やうつ病、怪我を経験し、卒業を断念。夢を失った19歳の笹田さんは、寮を離れ、ある種の自由を得たものの、その反動で生活は大きく乱れていった。

 「退学後は何もかもがどうでもよくなって、心も身体も荒れていました。親に勘当されて、家を追い出されたほどです。昼夜問わずアルバイトを掛け持ちして、なんとか食いつないでいました。そんな生活のなかで出会った男性がきっかけでパチスロにハマり、毎日のように通っていた時期もありました。

 それまでの私はいわゆる箱入り娘。人間関係の危うさも知らず、"今が楽しければそれでいい"と思っていました。今思えば危険な生活だったけれど、いいこともあって。この頃、摂食障害の治療を続けながらカウンセリングや食事指導を受けていたのですが、心にゆとりが生まれて、障害も克服できたんです。だから、あの時間は私にとって大切な経験でしたね」

 その後、24歳で結婚するも1年で離婚。波瀾万丈な20代前半を過ごした。

 20代後半を迎える前に、安定した生活を手に入れたいと就職活動に挑戦。アルバイト時代にお世話になった方の後押しもあり、一般企業で営業職に就くことができた。29歳で再婚し、第一子を出産した。

 営業として勤続7年が経つ頃、育休中に夫の転勤が決まり、退職。愛知県へ移住することに。笹田さんにとっては、それが思いがけない転機となる。

 「いつからか、本当は身体を使ったことがやりたいと感じていましたが、会社を辞める勇気がなかった。だから良いきっかけをいただいたと思っています。知り合いが1人もいない新天地で、今から何をやろうかと考えた際に、会社員時代に出合ったヨガを思い出したんです。

 身体を使いたくても過去のトラウマから、観劇はもちろんクラシックやジャズを聴くことも、得意のバレエもできない。けれどもヨガなら、音楽もなく、人の目を気にせず、心と身体を意識し、自分と向き合うことができる。それがすごく心地よくて、愛知に移住してから夢中になっていきました」

 立ち止まる暇もなく働き続けてきた笹田さんにとって、「心や身体、呼吸に意識を向ける」というヨガの基本的な考え方や動きから得られる変化は驚きの連続だった。「癒されている」と実感できたことは何よりも大きな衝撃だったという。

 「ヨガは、目を閉じて呼吸を整え、自分の内側を感じる大切な時間。でも、意識しなければその時間を生みだすことは難しい。だからこそ自分自身も一生学び続けながら、その大切さを多くの人に伝えたいと思い、ヨガ講師になることを決めました」

海外転勤もチャンスに変えて。笹田さんのヨガ成長期

 

関東に戻る道もあったが、「住みやすさ」や人のあたたかさに惹かれ、笹田さんは長久手への移住を決めた。

  育児と両立しながら猛勉強を重ね、念願のヨガ講師となった笹田さん。大手ヨガスタジオでのレッスンを担っていたが、夫の海外転勤で渡米することになった。渡米後、現地で第二子を出産。3年間の滞在中、多くの学びを得たいと、現地のレッスンを受講。さらに日本人向けの無料レッスンを開催するなど、学びと実践を重ねた。

 「アメリカでの2人育児はもちろん大変でした。でも、せっかく日本で学んだヨガを忘れたくなかった。スタジオ勤務はできませんでしたが、そこにある環境でできることに取り組んで、ヨガ講師として成長できた3年間でした」

 帰国後、複数のスタジオでレッスンを担当していたが、1年ほどで新型コロナが流行。対面レッスンを行うことができなくなった。

 「所属していたスタジオが閉店せざるを得ない状況で、オンラインレッスンへの移行を余儀なくされました。以前から近所の産婦人科で妊産婦さん向けのヨガをやらないかという提案をしていたので、まずは無料オンラインレッスンを始めました」

 その後、オンラインでも収益化に成功した笹田さん。コロナ禍が落ち着くと高齢者施設やスポーツセンターでもレッスンを行い、地域に根付いた活動も展開した。

摂食障害の経験を生かし、包括的なダイエットサポートを提供

 

クライアントの身体を真剣に見つめる笹田さん。トレーニングを通じて、本質的な健康を手にする女性の輪が広がっている。

 笹田さんはヨガ講師として12年間活動を続ける中で、一つの気づきを得たという。

 「ダイエット目的でヨガに通う方がとても多いと実感しました。もちろんヨガは心と身体にはとてもいいのですが、痩せるための近道ではない。しかも、ヨガは熱心に続けているのに、食事は適当、もしくはほとんど食べない方も多くて。私自身の過去の失敗があるからこそ、女性たちに伝えられることがあると強く思うようになりました」

 心身に寄り添う包括的なダイエットサポートがしたい。そう考えた笹田さんは、パーソナルトレーニングと食事指導を学んだ。専門書や講座で知識を深める一方で、かつて摂食障害の治療の一環として受けた食事指導の経験も、今に活きているという。

 また、自宅でヨガ教室を開くのが夢だった笹田さんは、新築のタイミングで、女性専用パーソナルトレーニングサロン「Nalu(ナル)」をオープンさせることを決意。空間の設計だけでなく、コンセプトにも強いこだわりをもった。

 「もちろん体を鍛える時間も大切にしていますが、ネイルサロンや美容院のように、自分を整え癒す場所として存在したいという思いを込めて、“ジム”ではなく、“サロン”にしました」

 2024年2月にオープンした「Nalu」は、今では月に約30名が通う人気サロンに成長。初めはSNSでつながっていたヨガ講師時代の生徒が中心だったが、Google Mapへの登録や地元誌への掲載を機に、新規の予約も増えた。

 「Nalu」を訪れる女性たちにとって、笹田さんはどんな存在でありたいのだろうか。

 「女性って、思春期だけでなく、結婚、出産、更年期など人生の中に本当に多くの節目がありますよね。家庭を優先してきた女性がようやく自分のために動き始めた時には、代謝が落ちていて思うように痩せられない。そんな悩みを抱えた方をたくさん見てきました」

 長く生きていれば、誰もが浮き沈みのある経験をする。笹田さんのもとには、離婚や精神的な困難を経験した女性たちも訪れるという。

 「みなさんが安心して話せるように、私自身がオープンでいることを心がけています。『Nalu』を通して過去・現在・未来に寄り添いながら、心を通わせ続ける存在でありたいと思っています」
 
 若くして多くの経験を重ねてきたからこそ、笹田さんにしかできないことがある。「50代、60代になってもこの仕事を続けていたい」と語るその瞳は、まっすぐに輝いていた。
 

Profile:笹田なぎさ

ささだ・なぎさ/女性専用パーソナルトレーニングサロン 「Nalu(ナル)」運営。ダイエットトレーナー/ヨガインストラクター/スポーツフードアドバイザー
神奈川県出身、愛知県長久手市在住。幼少期からクラシックバレエに親しみ、宝塚音楽学校に進学するも、摂食障害やうつ、怪我の影響で卒業を断念。その後、一般企業での勤務を経て、ヨガインストラクターに。現在は、自宅で女性専用パーソナルトレーニングサロン「Nalu」を運営。運動・食事・睡眠・心のケアを含めた、包括的なダイエットサポートを提供している。


笹田なぎささんのinstagramはこちら。

笹田なぎささんのHPはこちら。

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