エンジニアにとってのAIエージェントへの向き合い方 JAWS DAYS 2025で聞いた
AIエージェントの登場で開発者はプルリクのレビュアーに成り果てるのか?
2025年04月18日 09時00分更新
南場さんの講演にインスパイヤ キーワードは「バーティカルAIエージェント」
「もう少し刺激的な話」として吉田さんが挙げたのは、DeNA南場智子氏がイベントで語った「今の半分の人員で現業を成長させ、残り半分でユニコーンを量産する」という話。「僕はこのYouTube、もう5回くらいは観ました。なんて素晴らしいんだ、南場さんと」(吉田さん)。
この講演では、B2BはバーティカルなAIエージェントにフォーカスし、B2Cは究極ののめり込みを目指していくという話もしていた。「バーティカルAIエージェントがキーワード。この答え合わせのように南場さんが話をしていたので、これは福音だと感じました」(吉田さん)。
もちろん、今の人員をいきなり半分にして、ユニコーンを量産するのは大変ではある。そこで重要になるのは生成AIのサービスデザインだという。新規事業で素早く企画を回していくためには、「ビジネスドメインに対する深い理解」と「AIに対する技術の理解」の両軸が必要になるという。両者が重なりあった部分がなければ、よいサービスは生まれない。
さらに部門間でこれらに対する合意形成がなければ、組織として一体として動くのも難しい。「だから、われわれ技術者としてはビジネスドメインの理解が必要だし、ビジネスの方はDifyなどで簡単にシステムができるので、技術の理解を進めてもらう。こうして重ね合わさった部分を最大化していく必要がある」(吉田さん)。
また、ただ試すだけで、予算も付かずにプロジェクトが『PoC死』してしまうのを避けるため、プロジェクトの目的や計画をきちんと立て、それらをブレイクダウンして事業計画化していくのが重要。「単に技術を試すだけではなく、なんのために試しているのかを明確にして、AIエージェントやLLMの活用を進めていくのが大事」(吉田さん)だと説いた。
誰でも使える、作れるAIの世界 競争優位性を確保するには?
吉田さんは「では、AIを経営に活かすとは?」というテーマをさらに深掘る。シンプルにAIを使うという文脈で、労働生産性の向上を目指すなら、議事録、日程調整、調査レポート、CRM/SFAなどでAIを活用するのがわかりやすい。「もはや議事録AI使ってないのは、完全に情弱だと思っています。まだ使ってない人、明日から使っていきましょう。めちゃくちゃいいですよ」と吉田さんは会場にアピールする。
一方、「AIで稼ぐ」という文脈であれば業種や業務に特化したソリューションやツールなどが考えられる。とはいえ、「AIは日々進化しており、誰でも思いつけば簡単に作れてしまう。こんな中でどうやって競合優位性を確保するのか?」という疑問もある。ある程度原価と労力をかけて構築するのであれば、やはり稼げるものにしなければもったいない。「Webアプリケーションではそれをやっているのに、AIだけ湯水のようにお金を使っておしまいというわけにはいかない」と吉田さんは語る。
サービス自体で差別化が難しいなら、なにで差別化するか? 吉田さんは「データしかない」と指摘する。「データの量と質が競争優位性を左右する」とのことで、良質なデータセットが蓄積する仕組みを構築することだ。顧客のオーダー、AIの出力、人間によって検証された正解データなどをデータセットとして保持し、データライフサイクルを確保する。
「たとえば、社内向けのQ&AサービスをAIで構築した場合、どんな質問が溜まったのか、どんな回答が出力されたのか。これらをきちんと保持できているか」が重要だという。現状はデータを散らかしたままということも多いが、データライフサイクルマネジメントを構築すれば、サービスの差別化を可能にする源泉にもなり、データ自体を販売するというビジネスも可能になるという。
JAWS DAYSの参加者に向けたトピックとしては、やはりソフトウェア開発の歴史的転換点としてのAIだ。「みなさんも、『AIといっしょにコーディングするなんてまゆつば』という状態から、この1~2ヶ月で『どうやら今後はこっちに乗るしかない』と腹の底から思うようになってきたと思います。実は僕もそうでした。2~3年はかかるんだろうなと思ったら、こんな数ヶ月で僕らはやらざるをえない状態になった」と吉田さん。
ここで吉田さんは会場にアンケート。「すでにコーディングの一部をAIでサポートしてもらっている人」と問うと、過半数の人が挙手する。「うまくいってるところ、いってないところあるけど、もう業界はこっち向きになっている。3~5年後にエディタでコーディングする人はかなり少なくなり、LLMでコーディングするのがスタンダードになっていく。これができないとGitHubでのプルリク開発ができないような“ロートル”になってしまいます」と吉田さんは指摘する。
数ヶ月の間にソフトウェア開発のパラダイムシフトを起こしてしまったAI。「これは他の業界でも起こる」と吉田さんは語る。建設業界でも、医療業界でも、「AIなんて使えない」が、「AI使うのが普通」に変わる瞬間が来る。「このパラダイムシフト全業界で起こる。ソフトウェアエンジニアとしては、LLMを使ったコーディングをやっていきましょう」と吉田さん。自身も転職サービス「HEROZ(ヒーローズ)」とAIコーディングを学ぶためのコミュニティを立ち上げ、エンジニアを支援していくと説明した。
環境に溶け込むAmbient Agentsの世界 キミはどう生きるか?
サーバーレスとAI開発の相性のよさについて説明した吉田さんは、最後「Ambient Agents」をトピックとして挙げた。現在、人間が指示を出す限り、AIは必ず人間と対になるため、動作はスケールしない。これに対してAmbient Agentsは、特定の環境内でエージェントが自由度を持って常時稼働できる。人間と切り離され、環境と溶け合うエージェントということで、Ambient Agentsと呼ばれる。
「たとえば新規事業開発エージェントを作って、100通り、1000通りのアイデアを出して、上限1万円の予算を付けて、LPを作ったり、広告を出して、新規事業が当りそうかを検証してくれたら、今の何千倍・何万倍も生産性の革命が起こる」と吉田さん。メールも同じで、必要なメールに返信したり、不要なメールをスパム送りにしたり、アポが必要なメールでは日程調整をしてくれるはず。人間が介在しなくても、AIの判断で自ら動作し、しかもそれだが並列で動作できれば確かに生産性は上がるだろう。
当然、課題としては人間が見ていない状態で動作するので、セキュリティが大事。不適切な行動に対するサーキットブレイカーや人間の介入をどうするか。「環境の中で動いているので、そもそもオペレーターが止め方を知らない可能性がある」とのこと。LangChainの参照実装として、実行中のLLMタスクを一覧化できる「Agent Inbox」もあるが、まだまだ未熟。「こうしたAmbient Agentsのセキュリティやガバナンス、モニタリングなどにビジネスチャンスもあるだろうし、対応しなければならない課題でもある」と吉田さんは語る。
最後、吉田さんは、「AIエージェントの設計は従来のソフトウェアアーキテクチャの延長線上で行ける」「現時点では完全自律エージェントは幻なので、バーティカルなエージェントを作っていこう」「競争優位性(MOAT)の鍵はデータセット」「LLMフレーワークとサーバーレスで高速開発」「創造的な仕事をするためにAIエージェントを作る・使う」「革新的なAIの活用にはクラウド基盤が前提」「安全に人間とのインタラクションから切り離すことが生産性向上の鍵」などとまとめる。最後、「10個くらいは持ち返れたましたか?」と聴衆に聞いた吉田さんは「AIエージェント、やっていくぞー!」と拳を挙げて、JAWS DAYS 2025の最終セッションを締めた。





















