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SOUND TECTORのデスクトップゲーミングスピーカーはどのように作られた?

感動した俺は山形県に飛んだ、パイオニアのゲーミングスピーカーが「驚きの音の良さ」

2025年03月24日 12時00分更新

文● 貝塚 編集●ASCII

提供: パイオニア

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パイオニア、なぜゲーミングに参入?

 今回、様々な施設を見学した後、開発チームのキーパーソンに話を聞くことができた。彼らに共通するのは、「納得いくまで音を突き詰める職人気質」だった。

 話を聞かせてくれたのは、商品まとめ・ソフトウェア・音のチューニングを担当した髙垣洋平氏、主に音のチューニングを担当した玉井遥氏、回路設計を担当した設楽一美氏、機構設計と機器の動作確認やデバッグを担当した海和健史氏だ。

回路設計を担当した設楽一美氏(左)、商品まとめ・ソフトウェア・音のチューニングを担当した髙垣洋平氏(右)

──そもそものお話からうかがいたいのですが、ゲーミングスピーカーの分野に参入されたのには、なにか理由があるのですか?

髙垣「東北パイオニアは、長年車載向けのオーディオを手がけてきました。今回、ゲーム機器を開発したのは、サウンド事業の1部門として、カー以外の業務を請け負っている部門になります。市場規模や、若者へのパイオニアの知名度アップを考え、カーで培ってきた技術や経験、ノウハウを生かすことができるエリアとして、ゲームの世界を選びました。

 『挑戦を選び、挑戦を楽しむ』という企業理念を実践させてくれた経営陣にも大変感謝しています。この市場には沢山の商品が既に存在します。だからこそ、今までにないような『ゲーマー目線の尖った商品』を開発しましたので、是非多くのお客様に新しい体験をしていただきたいと思います」

──その中で、ゲーミングというカテゴリーを選ばれたというわけですね。実際に体験させていただきましたが、自然界で鳴っている音が再現されたかのような、ナチュラルで没入感の高いサウンドに驚きました。

髙垣「そう言っていただけて嬉しいです」

エンハンサー、独特な形状の秘密

開発初期のプロトタイプ。商品開発が手作りから始まることがよくわかる

──フロント、ウーファー、エンハンサーという3点セットの構成も珍しいです。この構成は、どのようにして誕生したのですか。

髙垣「自宅でゲームをするときにヘッドセットを使う方も多いと思いますし、私自身もゲーマーでヘッドセットを使っていたのですが、ヘッドセットではどうしても立体感の限界や、前後感の把握の難しさがあると感じていました。また、長時間の使用でヘッドバンドやイヤーパッドの締め付けによる痛みや蒸れ、髪がつぶれてしまったりする弱点もあると思っていました。

 『この不満はみんな持っているのではないか? 最高のゲームの環境ってどんなものなのだろう?』という疑問が生まれ、それをチームメンバーに話したところ、『7.1chの音響環境でゲームをやってみよう!』ということになりました」

──出発点は、ご自身の体験からだったのですね。

髙垣「はい、その通りです。弊社はスピーカーメーカーですので、開発にあたっての音響資材は部門に揃っていました。早速ゲーミングPCを軸にして7.1chの音響システムを構築しゲームをプレイしてみたところ、音の定位やプレイの快適さなど、全員一致で『これがいい‼︎』と意見が固まりました。

 ただし、当初のシステムのままでは機材の物量やスペース、配線などの問題があり、一般家庭への普及は非現実的だということに、チームメンバー全員がすぐに気が付いたのです。そこで、『7.1chの音響システムをコンパクトで手軽に再現する』ことを命題に掲げて検討した結果、『コンパクトサイズだが180度までの定位再現ができるフロントスピーカー』、『邪魔にならずにきちんと低音を再生できるサブウーファー』、『簡単接続で長時間使用でもストレスに感じないリアエンハンサー』という3点セットのシステム構成に至りました」

リアサウンドエンハンサー「TQ-RG3000」は、耳のように飛び出したスピーカー部分が特徴

──よくわかりました。TQ-RG3000は、スピーカー部分がネックバンドから飛び出したような形状が特徴的ですが、この形状はどのようにして生まれたのですか。

髙垣「リアエンハンサーの役割は、『7.1ch音響システムの後方180度の音の再生』です。一般的なネックスピーカーは、それ1つでシステムを完結させますので、TQ-RG3000とはまったくコンセプトが異なります。ネックバンド式の形状を試していく中で、鎖骨あたりにスピーカーがあると、『肩のあたりから音が鳴っているように聞こえる』ことがどうしても気になりました。音が後から鳴っているように聞こえるためにスピーカーの取り付け位置を検討していった結果、この位置に落ち着きました」

設楽「最初のプロトタイプでは、ネックバンドに対して、もう少し水平気味に取り付けていました。途中からスピーカーの角度を調整できるようにプロトタイプを改造し、聞こえ方の調整をしていく中で、現在の位置と角度になっていきました」

──デザインも面白いですよね。シックな印象で、パイオニア感があるというか。また、ワイヤレス全盛の時代に、あえてワイヤードにしているのも気になるところです。

設楽「外観デザイン的には、ネックバンドとスピーカーのあいだに隙間を設けることで、軽く、スッキリした印象に見せるという狙いがあります。ワイヤレスは非常に魅力的な機能ではあるものの、遅延というデメリットも持ち合わせています。必然的にバッテリーを搭載する必要が出てくるため、商品自体が重くなってしまいますし、連続プレイ時間も、電池残量に左右されます。長時間のプレイを考えた結果、今回はあえてワイヤードを選択しました。また、ワイヤレスに比べ、商品売価を安く提供できるというメリットもあります」

サイズからは想像できない広がる音

──3点の中でメイン機とも言えるコンパクトフロントスピーカー「TQ-FG3000」は、サイズから想像できない音の広がりでした。

髙垣「はい、こちらはDirac Research ABのデジタル音場補正技術を用いて、広い音場感を実現しています。通常、2Wayのスピーカーでステレオ音源を鳴らすと、左ユニットからの出力が右の耳に、右ユニットからの出力が左の耳にも届いてしまいますが、信号処理技術で、右ユニットからの音が右耳だけに、左ユニットからの音が左耳だけに届くようにチューニングしています。そうすることで、スッキリと正確な定位の再現が可能になります」

──デジタル的な処理が、これほど出力音の良さにはっきり出るとは驚きです。サブウーファーからの重低音も、メインのスピーカーの音から浮いた印象にならず、きれいに帯域が溶け合ってつながっているように感じました。

髙垣「そこの調整も気を遣った部分ですね」

──こういった帯域の調整は、どういった手順で進めて、どれくらい繰り返すものなのですか?

海和「数えきれないくらい、繰り返します」

髙垣「手順としては、スピーカーユニットそのものが持っている特性も踏まえながら、まずフラットな出力に近づけて、そこから各帯域を調整していくような作業になります。今回の製品の場合、バランスだけでなく、音の広がり感や定位感も重視していますので、『帯域のバランスは完璧だけど、広がる感じがなく、定位感が悪い』といったこともありました」

──結果的に、ゲーム内の様子がよくわかる明瞭さはありつつも、誇張されすぎていない、自然なサウンドに落ち着くところがすごいですね。作業を繰り返す中で、「音が決まった!」と思う瞬間はあるのですか。

髙垣「というよりは、理想としている音像に、何度も調整を繰り返して、歩み寄っていくようなイメージでしょうか」

玉井「私は新卒で東北パイオニアに入社して2年目の社員なのですが、今回、はじめてサウンドチューニングの現場に入ったので、『ここの帯域を上げると、こういう印象が出るんだ!』など、毎日が発見でした。毎日チューニングを繰り返していくうちに、傾向が掴めてきて、そこからは本当に楽しかったです。

 実は私もゲーマーでして、休日にはよくFPSをプレイしているのですが、実際に自分が使うことをイメージしながらチューニングができたのもよかったと思っています。自分ごとというか、ユーザー目線で商品開発が行えました」

機構設計と機器の動作確認やデバッグを担当した海和健史氏(左)、主に音のチューニングを担当した玉井遥氏(右)

──そういった帯域の調整の作業に、どのくらいの時間をかけるんですか?

髙垣「うーん、さまざまなプロダクトに関わりながらになりますが、数ヶ月、半年近くは調整をしていたかもしれません」

──その期間、SOUND TECTORのことが夢に出てきたりしそうですね。

髙垣「はい(笑)。もう朝起きてから寝る直前まで、『あの帯域をこうしたら、こうなるんじゃないか』と考えていたりしましたね。でも、その作業が一番楽しいところだったりもするんですよ」

光るLEDは、プレイに役立つ「視覚的な武器」
そして原音重視のDNAについて

──3製品とも、あまりごてごてとしてゲーミング感はなく、どのような環境にも合いそうです。その中で、ゲーム内の音に合わせて光る「サウンドセンシングインジケーター(特許出願中)」はゲーミングデバイスらしいディティールですね。

コンパクトフロントスピーカー「TQ-FG3000」には、ゲーム内の音に合わせて光るサウンドセンシングインジケーター(特許出願中)を設けた

髙垣「これは、後ろからの情報を視覚的にも把握できる、(ゲームプレイにとっての)武器を作りたいという発想から生まれました。最終的には、前方と後方の左右4か所の表示に仕上げています」

設楽「構造としては、ゲーム内のオーディオデータを聞こえてくる方向ごとに振り分けて、対応する回路のLEDを光らせています」

──青と緑が目にキツくなく、でも視認性は高いので実用性があります。サブウーファーについても、もう少しうかがいたいのですが、メインとサブウーファーとの音のつながりも非常に自然だと思います。ウーファーの音だけ浮いてしまうような印象もなく。

設楽「このウーファーは、プロトタイプ時点では、車載向けのウーファーにスタンドをつけたものだったんですよ。HVTという弊社独自の特許技術を使っていて、デスクに置いても振動がほとんどありません。」

海和「集合住宅などでは、他の部屋に振動が伝わってしまうので、ウーファーが使いにくいといったこともあります。このスリムパワードサブウーファー『TQ-WG3000』なら、場所も取らず、振動が伝わる心配もありません」

──この自然な帯域のつながりは、どのように実現するのでしょうか? いい意味で存在を感じさせない、そこに設置されていることをあまり意識させず、重低音の圧をしっかり出してくれています。

髙垣「少し昔の話になりますが、入社してすぐ、TADの音を聴かせてもらう機会がありました。そこでTADの製品は『何も足さない、何も引かないをモットーに掲げて、音楽信号をできるだけ正確に再現する』と教えてもらったのを覚えています。

 パイオニアは、基本的に正確でリアルな音を追い求める姿勢を持っています。今回の商品は、無理に特定の帯域を強調するような音作りをしないように心掛けました。一方で足音や銃声、画面には映らない背後からの音のようなゲーミングデバイスならではの必要とされている音もあると思うので、2タイプのサウンドモード(GAME/ENTA)や3機種それぞれに個別ボリューム調整機能を備えて、ゲーマーの期待に応えられるようにしました」

TADは、パイオニア発のフラグシップブランド。ハイエンドモデルはスピーカー1本あたり880万円(税込)という高価格帯で、同社最高峰の音を鳴らす

──なるほど、あくまで自然に、コンテンツ内の音を鳴らす方向に設計していくわけですね。TADとうかがってピンとくるところがあります。今回、TADのスピーカーも試聴させていただいたのですが、音が鳴ると、スピーカーの存在感が消えて、音場の方に自然と意識が向いてしまうような、非常に濃密で繊細な音でした。ラインやシリーズ、価格帯は異なっても、パイオニアが目指している音の理想はいつも定まっていて、SOUND TECTORのゲーミングオーディオにも、その遺伝子が流れているのを感じます。

エンジニアのこだわりが伝わってくる音

 見学、インタビューを通じて、音響試験設備を駆使した開発環境、HVTといった技術の応用、まさしく職人気質のエンジニアたちの姿勢が、SOUND TECTORの完成度に直結していることがよくわかった。

 この3点セットは、単なるゲーミングスピーカーというよりも、パイオニアの長年のオーディオ技術が、ゲーミングという分野に結集した「デスクトップ・オーディオシステム」と言った方がいいだろう。驚きのサウンドのよさを、ぜひ体験してほしい。

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