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数千万円のハイエンドケーブルを売っているメーカーが忘れない「20ドルのハイエンド体験」

2025年03月07日 16時00分更新

文● ASCII

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 今年創業45周年を迎えた、アメリカのケーブルブランドAudioQuest(オーディオクエスト)。それを記念した国内向けのイベントが、輸入代理店ディーアンドエムホールディングスの本社で開催された。

 オーディオクエストは1980年にCEOとチーフデザイナーを務めるビル・ロウ氏が1980年に創業したブランド。B&Wなど有名メーカーがリファレンスケーブルとして採用していることでも知られている。

オーディオクエストの歴史をおさらい

 オーディオケーブルを変えることで音が変化すると言われ始めた1970年代。オーディオ用のケーブルという存在が注目されるようになった。1976年には、米国の有名ブランドであるPolk Audioがコブラケーブルという名称で日本製のケーブルを販売したことも追い風になったようだ。そんな中、ビル・ロウ氏は後にモンスター・ケーブルを創設するノエル・リー氏に、スピーカーケーブルを特注し、それに自らがケーブルの端にプラグを取り付けて最初のスピーカーケーブルを完成させた。このケーブルは評判となり、「20ドルで買える製品なのに、音に感動できる貴重なケーブル」として40以上の販売店で取り扱いが始まったという。

 翌年1月にはCESにも出展。その1ヵ月後にはヨーロッパや日本を含むアジア市場への展開を開始した。

 日本での販売は、2003年から日本マランツ(当時)が担当している。当時を知るディーアンドエムのシニアサウンドマネージャー澤田龍一氏は決定の経緯について以下のように語る。

 ビル・ロウ氏は「音が良くなるケーブルはない、ケーブルは必要悪だ」と明言。市場にはあえて音を変える仕組みのケーブルが存在し、スピーカーなどの機材に負担をかける恐れがあったが、そういった心配がない点も良いと判断したそうだ。また、ケーブルを使ってみたいのでサンプルを送って欲しいとAudioQuestに頼んだ際、普通ならトップエンドのケーブルを持ってきそうなところだが、ミドルやエントリーのケーブルばかりが用意されたという。これは「決してケチだということではなく、『理想を追求した最上位モデルではなく、リーズナブルなケーブルにこそ、“どこを捨てて、どこを残すのか”というエンジニアのセンスが光る』」ためだからだという。

 理想を追求できるトップモデルとは異なり、低価格のモデルではコストの制約に応じた取捨選択が必要になり、そこにエンジニアの思いが乗るということだろう。そんな姿勢からもオーディオクエストを信用できると感じたそうだ。

 オーディオクエストの製品は現在、世界74ヵ国で発売されている。オーディオ愛好家はもちろん、スピーカーメーカーなどからも高い信頼を得ている。冒頭で紹介したB&W以外にも、Southwater Research & Engineeringスタジオやマランツ、デノン試聴室でのリファレンスケーブルにも採用されている。

 マランツのサウンドマスターである尾形好宣氏は、オーディオクエスト製ケーブルの癖のなさがいいとコメント。試聴でも銅線を使ったミドルクラスを敢えて選ぶことが多いと語った。また、デノンのサウンドマスターである山内慎一氏は、価格帯に関わらず、フォーカスや奥行の表現が共通している点を特徴に挙げていた。

オーディオクエストケーブルの進化

 2004年には、オーディオクエストを象徴する技術である、誘電バイアスシステム「DBS」(ダイエレクトリックバイアスシステム)を発明。電池を搭載したケーブルの登場だ。電圧をかけることで信号導体の周囲の絶縁体を安定させ、結果として信号導体も安定した状態に導く技術。バーンインを必要としない電気的安定性を高められる効果が得られるという触れ込みだ。また、2008年には高周波ノイズに対策するための技術である「NDS」も開発。電子機器や携帯電話の電波などによって周囲には高周波ノイズがあふれているが、その対策ができる技術だ。ちなみに、ビル・ロウ氏はあるイベントでの経験を通じて、被膜の硬いケーブルの方が音がいいことを発見し、以後、「ケーブルの機械的安定性」を重視した製品開発をしている。

 ビル・ロウ氏はあるスピーカーメーカーのデモで有名ブランドの3mケーブル、8mのオリジナルケーブルをつないで再生。感心する聴衆に対して、同じケーブルだが長さが短い3mのもので再生をしたところ、8mのものよりもあまりいい結果がでなかった。通常であれば短い方がいい音になりそうだが、そうならなかったことにビル・ロウ氏は頭を抱えて、8mと3mのケーブルの違いを徹底的に調べ上げた。そこで気づいた違いが、透明な被覆の“硬さ”だった。8mのケーブルは長いこともあり、硬めの皮膜を採用していた。これがオーディオクエストの硬いケーブルのきっかけになったそうだ。

あえてチープな機器を選んだ試聴デモ〜Boom BoxDemo

 実はデモはオーディオクエストにとって、とても重要なイベントだ。これまでも「Boom BoxDemo」 という形で、体験試聴の機会を提供。高価なオーディオシステムではなく、ミニコンに代表されるような安価なシステムをあえて選び、音の違いやオーディオシステムにおけるケーブルの価値を理解してもらうことに力を入れている。ラジカセ、ベコベコとして音がいかにも悪そうな会議机の上など、視覚的なフイルターで誤魔化されない安価なシステムを使うのだ。

 この説明会でもデノンのネットワークCDレシーバー「RCD-N12」とダリのスピーカー「OBERON1」というシンプルな組み合わせで「ビリー・ジーン」(女性ボーカル)を再生。通常のケーブルからはじめて、オーディオクエストの「Rocket11」「Rocket88」「Robin Hood-ZERO」と順に線材や構造の異なるケーブルに切り替えていき、音の印象の変化を示した。

 「ケーブルで悪い信号を良くはできない」「信号にできるだけダメージを与えない」という「Do No Harm」思想はオーディオクエストの根底に流れるものだと紹介したが、そのために重要なのは「単線」「方向性」「ノイズ消散システムの装備」「導体の品質」の順であるという。一般に重視されがちなどんな導体かが最後に来るというわけだ。また、バーンインのプロセスを製品出荷前に入れている点も面白い。オーディオクエストはアメリカ(アーバイン)とオランダに倉庫を持つが、ACケーブル、インターコネクトの中〜高級品については、出荷前の72時間、高電圧をかけているので、箱の封を切った瞬間からほぼ慣らし運転が終わっている状態だという。ちなみに、このプロセスはNASAやアメリカ軍の設備でも採用されているもののようだ。

 ちなみにBoom BoxDemoで聞いた印象は下記の通り。 

Rocket 11 14AWG: 低域の量感など音自体はやや細いのだが、だぶついて不明瞭だった音が明らかにクリアで引き締まった音調になる。中高域の美しさ、伸びが印象的だ。

Rocket 88 13AWG: PSC、DBS、単線のケーブル。中低域がずっしりした音になって、安定感が出る。高域の明瞭感は変わらずに低域がしっかり出るようになった印象だ。

Robin Hood-Zero: ハイエンドケーブル。ケーブル自体は細くなるが、極性やノイズ耐性に違いが出る。声の色気、リスナーと演奏者の間にたとえば煙がたゆたうような空気感など雰囲気の表現が感じ取れるようになる。こういった情報も実はソースの中に含まれていることを実感させるし、こうした周囲の空気感の上にフォーカスが明瞭なボーカルがより際立つようになる。

 これを一言で言うと、Rocket 11ではまずトレーニングで贅肉を削ぎ落とし、細マッチョな体型を獲得。Rocket 88ではこれに筋トレを重ねて強くしっかりとした体作りを実践。Robin Hood-Zeroではその結果として、音が本来持っていた魅力や色気がムンムンと漂うようになるといった感じだろうか。

まずはHDMIケーブル1本から始めるのもありかも

 こうした印象の変化は、オーディオだけでなく、シアターシステムでも有効だ。デノンのサウンドバー「DHT-S218」を用意し、BDプレーヤーと接続するHDMIケーブルをオーディオクエストのものに変更し、音の違いを聴くデモも実施された。用意されたの付属ケーブル、「Cinnamon48」(1m/1万7600円)、超ハイエンドの「Dragon48」(1m/35万3100円)。「グレイテスト・ショーマン」の「This Is Me」のシーンをピュアモードで2ch再生する。なお、BDプレーヤーは2系統の出力を持つので、音の信号のみをサウンドバーに入れている。

Cinnamon48 最初の効果音から違うことを実感した。S/N感の良さ、高域の明瞭感などはもちろんだが、低域のボアつきがなくなるのも効果的だ。標準ケーブルでの再生では量感のすごさを感じたが、ビートなどに不明瞭感もあった。さらに、音の広がりや臨場感、引き込まれる感じなど全ての面で違いがある。HDMIケーブルだけでこんなに変わるとは驚きだった。

Dragon48: 機器本体を大きく上まる金額のケーブルを繋ぐことは通常はなさそうだが、音はクリスプ。そして面白いと思ったのは、映画館で体験するような音がするという点だ。

 映画館のような音というのは、100人を超える人が一緒に入れるような広い空間で、スクリーン裏や壁面からなるスピーカーの音を聞くような感覚に近いということ。大きな音がエネルギーを損なわず、客席まで飛んでくる力感と間の空間感、防音が効いた空間だからこそ感じられる音のディティールなどが印象的だ。たとえば、足音の微細な音、立ち上がりの速さ、たくさんの人数で歩く人たちのそれぞれの足音の違いなどが極めて明瞭に伝わってくるし、周囲で飛び交う人の噂話の声、コーラスとメインボーカルの描き分け、ダイナミクスと明瞭感など、ホームシアターとは異なる、映画館だから感じられる体験が再現されていると感じた。

 そして、ケーブルの違いによる印象は、Boom BoxDemoの時と同様、まず贅肉を削ぎ落とし、その上でソースが本来持っていた必要な筋肉を取り戻していくという形の変化になっているのが面白い。

 もう一つ説明を受けて印象的だったのは「普通の人は付属ケーブルだけで聞いていて、仮にオーディオクエストとしては安価なCinnamon48のケーブルであっても、買う人にとっては高いハードルを超えて購入するハイエンドのケーブルである」という点をメーカー側がしっかりと認識しているという点だった。

 つまり、ケーブルメーカーにとってエントリー機種であっても、それはユーザーが最初に手にするハイエンドケーブルであり、いいケーブルを使うことに対する期待を決して裏切ってはいけない。そのことをオーディオクエストは決して忘れないということである。ハイエンドケーブルのメーカーというイメージに反して、「20ドルで買える感動」、そのために何を抜き、何を残すかにこだわり続けているブランドという点に好感を持った。

 なお、AudioQuestのケーブルは7月1日から、ラインナップの整理と値上げが予定されている。スピーカーケーブルのラインナップが見直されるほか、新製品も予定されているが、値上げが予告される機種についても6月30日までは、全製品が従来通りの価格で販売されるそうだ。興味を持った人は、早めに検討した方が良さそうだ。

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