「AIは万能ではない」「業務フローに合わせる」「現場を巻き込む」が普及のポイント
AIチャットボットが定着しなかった理由とは? サイボウズ社内AI活用のリアル
2025年03月18日 09時00分更新
“業務フロー”に合わせた別のAIツールが成功事例に
AIチャットボット普及の活路が見いだせない中で、たまたま社内からの依頼を受けて開発した「AI検索ツール」が、AI導入の初めての成功事例となる。
サイボウズのカスタマーサポートでは、顧客からの製品要望を「要望登録」アプリに蓄積していくのだが、重複しないように既存の要望を都度検索していた。しかし、kintoneの標準の検索では、要望の書き方が人それぞれなため上手くいかない。「例えば、『閲覧できる一覧を絞りたい』、という要望を調べようと思うと、『一覧、権限』、『一覧、閲覧』という検索ではヒットせず、『一覧、アクセス権』でやっとヒットするといった、手間が発生していました」と鶴本氏。
そこで、AI検索のツールを作ったところ、単語や文章の意味を理解した検索ができるようになり、前述の「閲覧できる一覧を絞りたい」といった表現の揺らぎがある要望もヒットするようになる。同ツールはリリース初週に1週間あたり約500回の利用があり、その後も安定して使われた。
AIチャットボットよりも高機能ではないのに、約5倍も使用されたAI検索ツール。その理由は“業務フロー”にあった。従来から、要望登録前に「検索が必要」という既存の業務フローがあるため、“使用する動機”が生まれやすかったのだ。AIチャットボットのように、今までになかった業務フローにAIを差し込むのではなく、すでに存在する業務の延長上に組み込むことで、自然に利用が広がった。
次に開発したのが、メール対応の業務フローと直結するAIツールだ。もちろん、「業務フローにマッチしたツールを作る」という方針を新たに取り入れた。
メール対応の基本フローは「メールを開く」→「情報を検索する」→「回答文を作成する」→「チェックして送信する」となっており、それぞれのステップにAIを組み込んだ拡張機能を作った。ブラウザ画面の右側に固定表示される「CySup Copilot」と呼ばれるツールだ。
メールを開くと同時にAIが参考資料を提示し、必要に応じて横断検索で追加情報を探せるようなつくりになっている。回答文を入力する際にも、AIが文章を補完、入力した文章をドラッグして選択すると、要約や誤字脱字の指摘をしてくれる。もちろん最後には文書のチェックも任せられる。
「AIは万能ではない」「業務フローに合わせる」「現場を巻き込む」がAI活用のポイント
こうした既存の業務フローの中でAIを活用するという方針をさらに押し進め、電話対応の現場にもAIを取り入れ始めている。サイボウズのコンタクトセンターでは、電話後の対応履歴を「メールワイズ」に手動登録していたが、そこでAIが自動で電話内容を要約し、履歴として残す機能を実装している。
AIがタイトルや質問内容、回答概要などを簡潔にまとめることで、1通話あたり後処理時間を2分半削減することに成功。全体にすると1日あたり11時間の業務削減につながっているという。
こうした成果がメンバーに伝わると「ここもAI化したい」という声が自然に増えていき、社内コミュニケーションが活性化する好循環が生まれた。かつては「使いどころがわからない」と言われていたAIチャットボットも、既存フローに溶け込むようブラッシュアップしていく予定だ。
池田氏は、「AIは万能ではないということを理解すること。既存の業務フローに合わせること。そして、現場のメンバーを巻き込むという3点が、AI活用を進める重要なポイントです。既存の業務フローがあるということは、既存の文化があるということで、この文化を乗り越えていかなければならない。そのために、今まで以上に現場のメンバーを巻き込んでいきたい」と締めくくった。











