世界を旅する作家・市居愛さん/「夫婦そろって無職」も経験。本に救われたからこそ書き続ける人生を

文●源詩帆  編集/山野井春絵

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 神奈川県藤沢市出身の作家、市居愛さん。現在は家族でマレーシアへ移住し、世界中を旅しながら本の執筆を行っている。以前は育児と仕事の疲れからメニエール病を発症し、退職を決意。その後すぐに夫の会社が倒産、まさかの“夫婦で無職”を経験したという。子どもと住宅ローンを抱える中、一冊の本に出合い人生が一変…。そんな市居愛さんのライフシフトの軌跡を聞いた。

マレーシア在住の作家・市居愛さん。年に数回、日本でも対面セミナーを開催。世界中を旅する市居さんの生き方に刺激を受ける人が続出している。

 

家事、育児、仕事に追われ、メニエール病に…!

会社員時代。仕事に誇りを持っていたものの、子育てとの両立は決して簡単ではなかったという。

 

 市居愛さんは、どこにでもいる普通の会社員として20代を過ごした。20代後半に結婚、出産、育休を経て、ワーキングマザーとして子どもの送り迎えに加え、自宅のある藤沢市から都内まで片道2時間の通勤。それでも、ヨガスクール事業という仕事に誇りを持っていたため、辞める気はなかった。

 しかし、子どもの発熱による早退や、自身も度重なる体調不良に少しずつ疲労が溜まった。そんな中、子どもの中耳炎が悪化し、毎日退勤後に保育園から耳鼻科に通う日々が続く。

 そして、31歳の時、市居さん自身にも異変が起きる。突然右耳が全く聞こえなくなったのだ。会社で社長に話しかけられても、気づくことすらできず、その後メニエール病と診断され、休養が必要と診断された。

 とはいえ、すぐには退職できなかった。しかし、貧血や疲労、免疫力の低下から子どもからうつされる感染症に抵抗できず、ついに倒れて入院することになる。

 「病院のベッドの上で、緊急対応の電話をすることになりました。会社に行けないことで、上司にも部下にも全員に迷惑をかけていると思ったらいたたまれなくなって。それで決意しました。もう辞めようって」
 

夫の会社が倒産。夫婦で残りの人生に向き合うために考えたこと…!

理想の暮らしを求めて選んだ自邸だったが、市居夫妻は本当の理想を追い求め、手放すことを決意した。

 会社に退職の意向を伝え、ようやく少し休めると思った1週間後、予想外のことが起こった。なんと夫の会社が倒産したのだ。

 「電車の中で突然夫からメールが来ました。そこには『会社がなくなっちゃった。もう明日からこなくていいって言われた』と書かれていて、何を言ってんだろう?って初めは文章の意味が全然わかりませんでした」

  夫が働いているからと退職を決意できた市居さんだったが、まさかの夫婦で無職。まったく収入がなくなるという事態に、市居さんは動揺が隠しきれなかった。

 「今振り返るとその頃の私は、お金のこと、世の中のことがよくわかっていなくて。人がいいと思うものに従おうという考えでした。当時、家族に勧められたマンションを購入したばかりで、なにがどう良い物件なのかもわかっていませんでしたし。だから当時は何もかも人のせいにしていましたね」

 夫婦喧嘩でぶつかることもあったが、市居さんの体調不良も、夫の会社の倒産も誰のせいでもない。だからこそ、最終的には責め合うことはなく、夫とは建設的に、そして互いを労わる姿勢を持って会話をすることができた。

 「次の仕事はどうするか、どのくらい働けそうか、など目先の収入に直結する話はもちろんですが、そもそもどんな暮らしをして、どんな人生にしていきたいのかを正直に伝え合いました。そしたら夫は『遊牧民のように世界中で暮らしたい』と言ったんです。今まで忙しくて、そんな人生があるなんて考えもしませんでしたが、よく考えたら私もそうだなって。その会話があったからこそ、家を売ることも決意できました」

一冊の本との出合いから、「人生の舵は自分で取る」と決意

当時のメモ。やりたいことと、そうでないことを明確にし、実現に向けて努力を続けた。特に「紙に書く」ことで思考の整理をしていたという。

 いつかは海外で暮らしたいという共通認識のもと、夫婦で仕事を探す中、すぐに希望に合う仕事は見つからなかった。そんな時市居さんは、一冊の本を手にとる。

 「元々、『思考は現実化する』という海外で有名な自己啓発本を先輩にいただいて、ずっと持っていたんですね。ふと、その本を手にとって。こんな大変な状況、私が望んで起きているわけじゃないし、思考が現実化するなんてありえないと思ったんです。でもだからこそ、実験してみようとも思って」

 こんな場合、まずは就職活動や資格取得など、家計に直結することだけに目を向けてしまいそうだ。しかし市居さんは自己啓発本とそれに近い思想のマーケティング本を手に取り、それらの本に書かれている人生を豊かにするアイデアを実践し続けた。 自分でビジネスを立ち上げたいという想いもあり、本に書いてある通り、期日を決め、計画を練り、お客さんに何を届けられるか、自分は何をしたいのか、2ヶ月間考え続けた。

 「動画やネットの情報はもちろん便利ですが、本は体系的に情報がまとまっていて、プロの編集者が間に入り発売される。良い本を選べば大抵の悩みは解決できますし、良い本に出合うのは、人生において良い人に出会うのと同じくらい大事なことだと思っています。」

起業家、そして作家として海外へ…!

ベビーマッサージ事業で起業した、JABC日本ベビー&チャイルドケア協会。主に子育て中の女性たちが中心となり、活躍している。

 

 2009年、初めての起業。主にベビーマッサージの通信講座を行った。当時人気があったベビーマッサージを、自宅で学べる協会はなく、やりがいとビジネスチャンスを同時に見つけることができた。仲間も生徒も増え、売り上げも順調に伸びた。数年後、第二子にも恵まれた。 その後も多くの本から、自分の世界の見方次第で人生が変わると身をもって経験した市居さんはさまざまな事業を立ち上げ続け、2015年、女性の生き方や起業支援、コミュニティ運営を行う株式会社マザーミーを設立。

 そして2016年。ついに、市居さん自身も本を出版する。

「元々私は欲しいものは買う、財布の中はカードとレシートでぐちゃぐちゃというタイプ。夫婦無職で不安だった時、本で学んだお金との向き合い方を元に、自分なりにノウハウを確立していきました。それは自分の人生と向き合う時間でもあり、その時の経験をまとめたのが『お金を整える』という本です」

 この「お金を整える」を機に、市居さんは中国でのセミナー開催など海外でも注目されるようになった。

3,500人のお金の悩みを解決したノウハウを凝縮。65,000部のベストセラーに。

人生を逆算して、やりたいことは全部やりきる…!

著書『お金を整える』は、中国語・韓国語・タイ語にも翻訳された。2017年には上海で年4回のセミナーを開催。

 

 多くのプロジェクトに日々挑戦する市居さん。その都度の選択に、迷うことはなかったのだろうか。

「ベビーマッサージの事業で出会った方々に、お金の話ばかりして悲しませることにならないかと悩んだ時期がありました。でも、子育ても落ち着いてきて、見える景色も感じることも移り変わる中で、やりたいことがずっと同じということはないと思うんです。

私は残された人生で、これをやらないと私の人生は終われないと思うことを、どんな些細なことでもいいから全部やりたい。健康な状態で行きたい場所に自分の足で行けるのはあと何年なのか考え、そしてやりたいことの順番を整理すると、案外時間がない。 だからこそ40代、50代のうちに人生の終わりから目を背けず、思い切って決断し行動していくことが大事だと思っています。

また、40代になって気づいたことがあって。昔は、仕事の喜びとは“仕事の内容”で決まると思っていたんですね。でもある先生にそれは“誰とやるか”で決まると言われて。その時はまったくピンと来なかったのですが、今はよくわかります。

どんなに1人で稼げたとしても、その喜びを分かち合えないのならつまらない。逆に自分がどんな仕事をしていても長く付き合ってくれる仲間やお客さんと喜びを分かち合える瞬間が間違いなく仕事の喜びです」

未来の人々の人生をも動かせるような本を書き続けたい…!

市居さんの海外経験を活かし、バリでリトリートツアーを実施。日本と海外をつなぐ架け橋となるべく、市居さんの挑戦は続く。

 市居さんの野望は止まらない。今後はどのようなプロジェクトを手掛けるのか。

「2018年にオンラインで仕事を続けながら家族4人で世界一周を経験し、去年は子どもたちの進学のタイミングでマレーシアへの教育移住も叶えました。マレーシアを拠点にさまざまな国へ出かけ、2ヶ月に1回のペースで日本にも帰国しています。 これまでは海外にいながらも日本での仕事を中心としていたので、日本との距離が程よい点や時差が1時間しかないことがマレーシアを選んだ理由でしたが、今は海外での活動も積極的に行っています。

そんな中、日本の思想や文化について興味を持ち、感心してくれている外国人の方も多くいると実感していて。それに『人間の悩みって、世界共通なんだ』と気づいたんです。

だからこそ、これからは自分でもメッセージを直接発信していきたいと感じています。日本の素晴らしい思想や文化を世界に伝え、同時に世界中の人が抱える悩みや願いを一緒に解決できるように発信したい。


また、本も書き続けたいという気持ちがあります。
私は自分が辛い時に本に救われ、人生を変えてもらったから、私は本という形で出版業界や作家、作家の人生に関わった人々に恩返しがしたい。そして自分も作家として人の人生を動かせる本を書きたいというのが私の原動力です。

英語で出版ができれば、世界中の人に届きます。そして私が書いた本が、これから生まれてくる子どもたちの手にいつか渡る可能性を秘めていると思うと、ワクワクします。まだまだ私は未来のために書き続けないと」

Profile:市居愛

いちい・あい/マレーシア在住、2児の母。株式会社マザーミー代表取締役。31歳のときに育児と仕事のストレスから身体を壊し、メニエール病を発症。 リーマンショックの影響で夫の会社も倒産。子どもを抱えながら、夫婦無職でお金がない恐怖を体験する。 「お金の通り道」を整えることで、ムダな出費が自然と減り、お金が貯まりだすことに気づき、その経験をもとに刊行した著書『お金を整える』(サンマーク出版)はベストセラーに。 現在は、お金の管理や起業支援にとどまらず、「人生を変える気づき」を届ける活動に力を入れている。 願望を現実にする考え方や、自分らしい生き方を見つける方法を伝え、これまでに1万人以上の女性が夢を叶えるサポートをしてきた。講演・セミナーも多数開催。 著書 『お金を整える』(サンマーク出版) 『「お金じょうずさん」の小さな習慣』(PHP研究所) 『ヒル先生、「思考は現実化する」って本当ですか?』(PHP研究所)など


市居愛さんのinstagramはこちら。

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