業務を変えるkintoneユーザー事例 第255回
推進の秘訣は「製造業あるある」の解消と情シスとの「橋渡し役」の存在
ロート製薬にみる工場DXの進め方 現場社員の“気づき”がkintoneで全社に羽ばたく
2025年02月12日 09時00分更新
工場におけるkintone推進のポイントは、「製造業あるある」の解消、情シス部門との「橋渡し役」の存在
このように、工場に変革をもたらしたkintoneは、どのように推進されてきたのか。ロート製薬のIT/AI推進室である柴田久也氏は、現場を巻き込むにおいて「製造業あるある」を乗り越える必要があったという。
あるあるのひとつ目は、現場メンバーは一人一台専用端末が貸与さておらず、それゆえに、全員がITサービスの個人アカウントを持っていないことだ。これは、前述のように、kintoneのプラグインで解決した。
もうひとつの壁は、「リテラシー」だ。「生産活動に従事していると、どうしてもオフィスITと接する機会が少なく、経験値が得られない」と柴田氏。そこで意識したのが、「優先順位」と「孤立させない環境」である。
ITに苦手意識を持つメンバーに配慮して、段階的にkintoneへ移行。最初は抵抗感の少ないデジタルからデジタル、Excelで管理していた領域からkintoneへの切り替えを進めている。加えて、各チームの代表者に使い方をマスターしてもらい、困った際にも近くに頼れる人がいるような体制を築き上げた。
もうひとつkintone推進のポイントになったのが、工場と情シスなどの管理部門の間に、“橋渡し役”の組織を設けたことだ。柴田氏は、「現場側は管理部門に、『自分たちにないアイディアで引っ張って欲しい』と求める。一方の管理部門は、『業務を把握している現場にリードして欲しい』と望む。こういった対立構図を抱える企業も多いのではないか」と語る。
同社では、柴田氏が「ミドルオフィス」と呼ぶ組織が、両部門と伴走しながらDXを推進した。例えば、現場に対してはIT用語を通訳し、管理部門には業務プロセスや商習慣などを共有するといった形で、両部門をつなぐ役割を担ったという。
元々、ロート製薬は、2019年に営業部門からkintoneの利用を開始し、翌年には、マーケや工場以外の生産、人事総務と主要部門へと活用を広げた。導入初期には、メリットを体験してもらいやすいkintoneアプリを量産して、成功体験を積み重ねることに注力したという。
その後、「kintone便利そう」、「競争の激しいビジネスにフィットする」といった理解の深まりに合わせて、利用範囲を拡大。2023年の工場への導入に至っている。すっかりkintoneが浸透した現在では、社員や管理職が自らkintoneアプリを作る、市民開発が本格化してきている。
柴田氏は最後に、「ぜひ、ITサービスを選定する際には、自社の社風にマッチするかどうかも検討項目に入れて欲しい。ロート製薬は、現場が強いという社風がある。現場主導で物事が進む製造業には、kintoneがすごく合う」と呼びかけた。
加えて、「業務改善には、ドラスティックな変更を伴う場面もあるが、ユーザー(社員)には説得ではなく納得してもらう必要がある。サービスを使うのは感情で動く人なため、情緒的なことを忘れてはいけない。気づきを投票する仕組みも、共感や称賛の意を表せるようにするため」と締めくくった。

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