第10回 チームワークマネジメント実践者に聞く

改めて考える、Backlogで実現したい理想の働き方とチームとは?

Backlogを育てたチームワークマネジメント ヌーラボ代表橋本氏と探る

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ヌーラボ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 プロジェクト・タスク管理ツール「Backlog」は、開発元であるヌーラボの働き方や組織、チームワークの理想像が色濃く根付いたサービスだ。ヌーラボの組織作りを描いた書籍「会社は『仲良しクラブ』でいい」を皮切りに、そのヌーラボのコアにあるチームのあるべき姿をヌーラボの代表取締役である橋本正徳氏と探っていく。

「会社は仲良しチームじゃないと、最高の成果がでない」 そのための組織づくりとカルチャー

 ヌーラボの創業は今から20年前の2004年。2005年に提供を開始したプロジェクト管理ツール「Backlog」は、今や140万人を超えるユーザーが利用するサービスとなった。当初はITエンジニアのプロジェクト管理がメインだったが、直感的な使いやすさやコラボレーションを促進する各種機能が決め手となり、エンジニア以外の利用も増えてきた。特に事業会社が外部パートナーと連携するプロジェクトでの人気は高く、ASCIIでも西部ガス桐井製作所パシフィコ横浜などでの事例を紹介してきた。

 Backlogはもともとヌーラボが社内で利用していたツールを外販している。こうした経緯を持つため、Backlogの設計思想は、橋本氏が描く働き方やチームの理想像が色濃く反映されている。

「自分たちが使うために作ったツールを外販するというのは、当時まだ珍しかった。社員全員が使うサービスを世に出すということは、僕らの働き方がこのBacklogの仕様になる可能性が高い。だから、社内カルチャーにはかなりこだわって経営してきたと思う」(橋本氏)

ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳氏

 そんなヌーラボの働き方やチームを、橋本氏の半生とともに書き連ねた書籍が、2021年に刊行された「会社は『仲良しクラブ』でいい」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。コロナ渦の最中、多くの企業の経営者が会社組織や社員とのコミュニケーションについて再考を重ねていた中、「仲良しクラブでいい」と断言したこの本は、個人的には大きなインパクトがあった。ヌーラボも、Backlogも知らない、JTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる日本の伝統的企業勤務のうちのかみさんがこのタイトルを見て、「そうよね。仲良しクラブでいいよね」とつぶやいたのだ。書籍の反応について橋本氏はこう語る。

「本が出たときはすごく賛否別れましたね。『仲良しクラブでいいわけないじゃん』という声も多かったけど、大谷さんの奥さんのような『そうだよね』という声もけっこうありました。まあ、僕の前だからそう言ったのかもしれないけど(笑)」(橋本氏)

 本書を読むと、チームワークを醸成するBacklogを生み出すヌーラボという組織がいかにコミュニケーションにこだわってきたかがわかる。Googleが採用基準に掲げる「良い人=グッド・ネイチャード・パーソン」は有名だが、このグッド・ネイチャード・パーソンが集まった仲間たちと、気持ちよく働くためにはどうしたらよいか? そのためにヌーラボがどのような組織作りや企業カルチャーを作ってきたかが大きなテーマだ。

「やっぱり仲良い人の方が仕事はやりやすいじゃないですか。『なあなあなのはよくない』という意見もあったけど、本には『なあなあでいい』なんてことはまったく書いていない。タイトルだけで判断したのかなと思っていますが」(橋本氏)

リモートワーク、多様性、仕組みづくりで働き方の課題は解消できる

 コロナ禍で多くの企業がリモートワークに舵を切った。ヌーラボもそんな企業の1つだが、創業時はオフィスを持たずに、仕事していたという。福岡に本社をかまえるヌーラボだが、今では国内に複数のオフィスを持ちつつ、全員がリモートワーク前提で業務を遂行しているという。

「創業当初はオフィスも持てなかったので、自宅で仕事していました。メンバーも、もともとOSS関係のプロジェクトに携わっていたので、顔を合わせたことのないメンバーといっしょにプロダクトを作るのが普通だった。その後、オフィスを持てるくらいに成長したけど、コロナ禍でリモートワークを導入して、僕らが元からやっているスタイルに戻った感があるんです」(橋本氏)

 もちろんリモートワークに不向きな仕事もあるが、そこは仕組みとITで解決した。印鑑はなくし、リモートワークをしやすい環境を整えた。たとえば、自宅で1人で対応するのが大変なときもあるカスタマーサポートの担当に向けては、ハラスメント方針を明確に定め、社員を守っている。

 社内カルチャーの醸成にあたって重視したのは「多様性」だ。現在ヌーラボにはさまざまな国籍のメンバー、さまざまな地域のメンバーが所属し、Backlogを用いて共通のゴールに向かって業務を行なっている。しかし、どんな企業でもそれを実現できるわけではない。特に日本の伝統的な会社はハードルも高い。どうすればよいのだろうか?

「もともと僕も多様性を重視するタイプではなく、むしろ逆で昭和っぽい考え方だったかもしれません。でも、商売をやっていく上では、自分とまったく違う人に商品を売っていく必要があるので、多様性はあった方がいい。でも、そう考えたのは、今まで学んできたことがむしろ”先入観”になっていたからです。このバイアスを外さなければならないと思った。本当に変わらなければいけないのは、自分の方ですね」(橋本氏)

 2019年の働き方改革、2020年以降のコロナ禍を経て、深刻な人手不足に陥った昨今、前述したJTCと呼ばれる日本企業も変革を余儀なくされている。先進国で最下位となる生産性やエンゲージメントスコアを改善すべく、経営や組織作りも大きく変わっている。

「最近は仕組み化した上で、エンゲージメントスコアのような方法で、継続的に観測できるようになっているので、ノウハウや方法論が検証しやすくなっている。方法論が確立してくるとソフトウェアとして作ることも可能になります。人手不足に関しても、単に働き手が少ないのではなく、業種・業態でけっこう違うと思うんですよね。だから、仕組みを整えれば、きちんとマッチングできるはず」(橋本氏)

チームワークマネジメントの概念は昔からあった でも時代の要請が変わった

 そして、2024年に創業20年を迎えたヌーラボが打ちだしたコンセプトが「チームワークマネジメント」だ(関連サイト:チームの力を最大化し、組織の競争力を高める 「チームワークマネジメント)。

 チームワークマネジメントは「組織や所属の枠を越えて集まった人々がワンチームとなり、1つの目標に向かって協力し、効率的かつ効果的に業務を推進するためのプロセスや手法」と定義されている。橋本氏はチームワークマネジメントについて「突然新しい概念が出てきたわけではない」と指摘する。

「『タスクフォース』と呼ばれていた概念のラベルを貼り替えた感じだと思っています。たとえば、『会社のミッション、ビジョン、バリューを決める』といった特定の目標に対してタスクフォースチームを組織して、短期的に仕上げるプロジェクトのように昔からあったもの。でも、昔は組織の中で人を集めていたタスクフォースチームが、今ではかなり広範囲に人を集められるようになった。会社の外から集めてきて、ちょっと複雑になってしまいがちになるのを、うまくやるための方法というとわかりやすいでしょうか」(橋本氏)

 部署や組織を横断して、時限的に成果物を作るというプロジェクトは確かに昔からあった。出版社に所属している私も、昔は「電子書籍化」というテーマに対して、編集部、営業部、生産管理部など異なる部署で議論を戦わせ、提言を行なうというプロジェクトの経験がある。しかし、最近では外部のプロフェッショナルがプロジェクトに参加してくることが珍しくない。前述したミッション、ビジョン、バリューの策定などは、社員だけではなく、外部のコンサルティングやデザイナーなどが参加することも多い。

「先ほど話した人手不足に関わる話ですが、人手不足というより、今の組織はスキル不足なんですよね。でも、足りないスキルは外部から補うのが普通になっている。社員はいわゆる『良い人=グッド・ネイチャード・パーソン』で構成し、スキルを外部から調達するというやり方でチームを構成するわけです」(橋本氏)

一人でできないことでもチームなら Backlogもみんなで作ったプロダクト

 ここで重要なのは透明性やオープンマインドという点だ。組織や地位のような壁を越えて、なるべく情報をオープンにし、障壁を減らす。

「せっかくスキルを借りてきているのに、内緒なことが多いと、ミスも多くなる。お医者さん連れてきているのに、患部がどこか教えなかったら、治しようがないですよね。だから、極力情報はオープンにして、コミュニケーションを密にした方がいい。長く付き合うのも効果的だし、仲良くなるのはある意味「戦略的」でもいい。本質的に仲がよいことを目指さなくてもいいと思う」(橋本氏)

 この「チームで透明性を確保する」というのは、Backlogの設計思想でもある。もちろん権限を絞ることもできるが、基本的にはメンバーごとに見られない情報をなくし、等しく情報を公開できるのがBacklogのユニークな点。縦割り・サイロ型の組織ではなかなか理解されないが、チームはこうあるべきという思想が詰まっているわけだ。他ユーザーからの賞賛を表せる「スター」やユーザー課金になっていないライセンス体系も、Backlogがチームワークマネジメントに向けて提供してきたものだ。

「当初は無駄なものがいっぱい付いてると言われてきたけど(笑)、今のSaaSはそういう機能が当たり前になってきた。楽しく働ける工夫はやっぱり必要だと思う」(橋本氏)

 先日、ヌーラボが発表したチームワークマネジメントの調査では、ビジネスパーソン1200人という回答者のすべてが「社内外のメンバーとの共同業務を経験している」という結果が出ている。所属の異なるメンバーとの共同作業はすでに当たり前になっているわけだ。

 また、「個人よりも部門を超えたチームで業務を遂行する能力」が求められるようになり、「多様な価値観をもつメンバーとの協働が増えたと実感している人が多くなった」という。ワンチームとして成果を出すこと、そのための障壁を取り払うことは、マネージャーのみならず、多くのビジネスパーソンにとって重要な課題というわけだ。

「やっぱり1人でできない大きなことにトライできるのがチームで働く意味だと思います。『2人いたら2人月ですね』ではなく、2倍進めるということだし、2人じゃないといけないところにいけるということ。これは書籍にも書いたことだし、ずっと変わっていない。Backlogだって、誰か一人が作ったんじゃなくて、みんながワイガヤしながら作ったプロダクトですから」(橋本氏)

 今回、改めて感じたのは、Backlogは橋本氏やヌーラボ組織の思想がきわめて強く根付いているプロダクトということだ。「仲良しクラブ」「多様性」「透明性」など、今回の橋本氏の取材で出てきたいくつかの言葉は、実はBacklogのユーザー取材でも出てくるワード。外部のパートナーに対してもワンチームとしてオープンに付き合い、プロフェッショナルとしてお互いを尊重し、チームとしての生産性を高めるべく、個人が自らの役割を果たす。こうしたチームワークマネジメントのあるべき姿が、Backlogで具現化されているわけだ。

過去記事アーカイブ

2025年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2024年
04月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2020年
01月
08月
09月
2019年
10月
2018年
05月
07月