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喧騒を忘れる「109シネマズプレミアム新宿」

日本唯一の35mmフィルム上映、特別な映画館で観るランティモス監督『憐れみの3章』

2024年10月03日 18時00分更新

文● ASCII

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フィルムで見る映画はレトロな懐古主義ではない

 ランティモス監督のフィルム撮影へのこだわりは並々ならぬものがあり、作品を初披露した第77回カンヌ国際映画祭では、全ての上映を35mmフィルムで実施したという。そんな特別な意味を持つ35mmフィルムでの上映を初日に109シネマズプレミアム新宿で体験してきた。

 上映の断り書きにもあるように、フィルム上映はコンディションによる影響を受けやすい。レコードなどと同様に物理的な傷やホコリなどの影響を受けることがあるし、音声もフィルムに書き込まれているので傷があれば音が飛ぶこともある。実際は、専門の映写技師が現場についているので問題になることは少ないと思うが、観る側もおおらかに構えたいところだ。

 フィルム上映ということで構えて席に着いたが、映像は非常にクリアで美しい。傷か何かだろうか、映写が始まってすぐに、少しだけ映像が乱れるシーンもあったが、あとはノイズらしいノイズはなく整った映像の世界に没頭することができた。音声も非常にクリアで、ここは普通の劇場にはない最新感を感じさせる部分でもあるので、「レトロ感のある上映」という印象は全くなかった。

上映に合わせて作品の世界に近づける展示が実施されていた。

 細かく見ると、解像度のせいなのか、フォーカスのせいなのか一般的な映画よりもエッジがほんのりとぼやける感じがあったり、色ノリに独特の風合いやグラデーション感があったりした。ノイズが自然に乗るので、リアルに近い感じも出る。

 しかし、ストーリーが進めばすぐにそういった部分を意識することはなくなり、作品世界に没頭してしまうことになるだろう。それが自然だし、そういうストーリーに魅力のある作品こそが素晴らしい作品であると言えるだろう。

 細かく観れば、デジタル上映との違いは多くあるだろうが、目くじらを立ててその違いを追いかけるよりも、フィルム撮影(とフィルムに上映されること)によって製作者が表現しようとしたことは、それがしっかりと伝わるようにプロがしっかりと整えた環境で再現されているはずだ。観客はそれを率直に受け止めて行けばいいのだと思う。

 この作品には劇場で観る意味が大いにあるし、その結果として意識的にも、無意識的にも作品の世界により深く触れることが可能になるはずあ。配信やテレビで見るのとは違った、劇場で観る映画という意味を実感することができる。

 フィルム上映は演出や色付けのようなものではない。作品の本質により近づき、映画という体験の質を高める舞台装置の一つなのだ。35mmのフィルム上映を実際に体験することでそれを確かに実感できた。

 体験という意味では、この上映に合わせてメインラウンジに用意された特別展示であったり、この映画館の特徴である広く座り心地のいいシートであったり、エレベーターで上がってきた途端、新宿の喧騒を忘れさせるこの劇場ならではの演出だったりとさまざまな要素が絡み合って実現されるものである。

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