米国の大統領選挙で、トランプ前大統領が再選される可能性が高まっている。
バイデン現大統領は、選挙を控えた立候補予定者の討論会などで精彩を欠き、高齢による衰えが指摘されたことを受け、日本時間の2024年7月22日未明に撤退を表明した。これに対して共和党は、13日にトランプ氏が演説中に銃撃され、右耳を負傷する事件が起きたことで、党内の結束が強まったとされる。
22日午前の時点で民主党は、カマラ・ハリス副大統領を軸に新たな大統領候補の選定を進めているが、トランプ氏が勝利する可能性は高いとの見方が強い。米メディア各社によれば、トランプ氏の支持率はハリス氏を数ポイントリードしている世論調査結果が多いが、一部でハリス氏がリードしているとの結果もある。
日本ではこれまで、ベストセラー小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(『もしドラ』)をもじって、「もしトランプ氏が大統領に再選されたら」(「もしトラ」)と言われてきたが、最近では、もはや「ほぼトラ」とも言われている。
トランプ氏が大統領に再び就任する場合、テクノロジーに関わる政策についても、かなり大きな影響があると予測されている。トランプ氏の周辺はすでに、AI(人工知能)をめぐる大統領令の草案を用意しているとの報道もある。このAIを巡る大統領令には、「マンハッタン計画」という名前がついている。
「AIマンハッタン計画」とは
「マンハッタン計画」という言葉を目にすると、どうしても気分がザワザワする。この計画は、第二次世界大戦中に米国が進めた原子力爆弾の開発計画を示すからだ。7月16日のワシントン・ポストによれば、この新しいマンハッタン計画で、トランプ大統領周辺は、軍事技術の開発を進めるため、不必要なAI規制を撤廃するという。このため、IT各社がAI関連の技術開発を進めやすくなるという。
バイデン大統領は2023年10月、AIの安全性の強化を目指す大統領令に署名しているが、「もしトラ」が実現した場合、こうした規制の撤廃に着手する可能性が高い。現在、米中両国を中心に、AI関連の技術開発競争は激化している。技術競争で米国が遅れをとった場合、競合国にサイバー空間で優位を確保され、攻撃を受ければ社会インフラが大規模なシステム障害に陥るおそれもある。こうした事態に備えるうえで、バイデン大統領が目指す「安全性」の強化は、トランプ氏側にとっては「不必要な規制」ということになるのだろう。
報道によれば、トランプ氏のAI政策の草案には、「総動員」を思わせる計画も含まれている。AI防衛を強化するため、民間のIT業界主導で新しい機関を設立し、AIモデルが、敵対する国家からの攻撃に対して十分な対策を備えているかについても評価するという。
ユーザーの安全よりも技術開発における優位の確保を優先する政策だが、現時点では「計画の計画」にすぎない。トランプ氏のAI政策が実行に移される場合、ユーザーの安全を巡って大きな議論を呼ぶことになるのではないか。
巨大IT企業との関係は好転も?
トランプ氏は自身のSNS上での発言を巡って、旧ツイッターやフェイスブックと激しく対立してきた。前のトランプ政権(2017年1月~2021年1月)では、グーグルをはじめとした巨大IT企業に対して独占禁止法をめぐる調査に乗り出すなど、厳しい姿勢を取ってきた。
「もしトラ」が実現した場合、こうした緊張関係が継続するのかどうかが注目点だ。これまで、マイクロソフトをはじめ米国のIT大手の経営陣は、民主党との関係が深かった。しかし今回の大統領選では、イーロン・マスク氏がトランプ氏に対する支持を明言するなど、こうした状況にも変化が生じている。マスク氏が2022年10月にTwitterを買収し、コミュニケーションに関わる重要なインフラを押さえたことも今回の選挙戦に影響するだろう。
IT大手各社とトランプ氏の関係についても変化する可能性がある。先ほど紹介した「マンハッタン計画」では、AI防衛を強化するため、民間企業主導の組織の創設を目指すという。こうした計画の実現には、IT各社と政権の協力関係が不可欠であるだけに、両者の関係性は意外と好転するかもしれない。
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