2050年の東京を体験しよう! 「SusHi Tech Tokyo 2024」ショーケースプログラム
代替肉への期待/不安を話しながら考えてみる
人工的に作られた「代替肉」は絶望の“ディストピア飯”なのか、「君だけの最強の肉を作り出せ!」ができる希望の食材なのか 未来の食生活を想像してみた
「代替肉を食べる未来」をどう思うか話し合う
代替肉、代替ミートと呼ばれる食材、ありますよね。広義には、食用肉を代替する食材はすべて代替肉ということになるかもしれません。もっとも現状では、大豆を原料として肉のような食感と味わいを持つ「大豆肉/大豆ミート」を指すことが多いと思います。
ここ数年、飲食チェーンや小売店などでも代替肉を用いたメニューを見かけることがあるので、すでにその味わいを知っている人もいらっしゃるでしょう。
5月26日まで開催されていたSusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムで、代替肉を使ったメニューが提供されていました(※期間、本数限定提供で、すでに提供は終了しています)。
しかし、SF作品の見過ぎなのか、個人的には「代替肉を食べる未来」に対してポジティブなイメージが持ちづらいのです。アスキーグルメの編集部員・モーダル小嶋とSusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムを取材した際、一緒に代替肉(を使った料理)を食べる機会があったので、味や可能性について議論を交わしてみました。
代替肉を食べるようになる未来って、「希望」か「絶望」か
──そもそも、代替肉って食べたことありますか?
モーダル小嶋(以下、小嶋)「もちろん。何度か食べていますよ」
──ありますか。代替肉の味って、「おいしい」と言っていいのかな?
小嶋「うーん。『おいしい』の定義はむずかしいけど……おいしいかと聞かれたら、“おいしくもなる”って表現できるかな、と思っています。貝塚さんはそうじゃないんですか?」
──なんだかこう、代替肉をみんなが食べる未来って、ちょっと暗いイメージがあるんですよ。合成的に作られた“ディストピア飯”っぽいというか。「本当においしい肉を食べられなくなる」絶望感があるというか。
小嶋「ぜ、絶望ときましたか……。まあ、近未来の世界が舞台のSFとかだと、そういう描写もあるかもしれませんが。自分は、けっこう希望があるんじゃないかと思いますよ。『希望か、絶望か』という話になると、なんだか大げさになるけど、貝塚さんとはちょっと意見が異なるかな」
──そうですか? 自分はどうしても、代替肉には「代用品」というイメージがあります。本物に似せた、何か違うもの、みたいな。
小嶋「気持ちはわかります。名前も“代替”肉だし。ただ、それ自体の味がどうこうというよりも、味付けや組み合わせる食材で、食事として楽しめるものに調理できるメリットがあるんじゃないでしょうか」
──食材そのものが良いか悪いかということじゃなくて、作り方次第ということですか。ただ、それが広がっていくことで、「本物の肉」の味の価値とか、あるいは存在そのものがどんどんなくなっていくデメリットってありません?
小嶋「あー、本物の肉を食べたことがある人が少なくなると。『ウニがまずいと言う人は、本物のおいしいウニを食べたことがないんだろう』理論に近いのか。確かに、それはなくもないかな。代替肉が広まることで、手間暇かけて育てたブランド牛の価値が忘れられる、そもそも作られなくなる、みたいな……」
──古いイメージですけど、SFマンガとかで、科学的に合成された食材を食べながら「くそっ、本物の〇〇が食べたいぜ」と嘆くようなシーンがあるじゃないですか。あれが現実になっちゃうと嫌だなって。
小嶋「それは“ディストピア飯”というより、ポスト・アポカリプスの世界な気も……。でも、逆にいえば希少性が高まるということだから、既存のブランドにこれまで以上の価値が生まれる可能性もあると思うけど。まあ、今までのものが駆逐されてしまう危険性は無視できないですね」
「君だけの最強の肉を作り出せ!」という考え方
──ちなみに、SusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムにあった「ロボコのサステナ☆バーベキュー」というコーナーでは、「サステナブルな和牛や代替ミートなどの食材を、水素や電気等のエネルギーを使用したグリラーを使用」して調理しているそうです。
小嶋「さらっと言いましたけど、『サステナブルな和牛』ってなんですかね……?」
──「サステナブルな和牛」は、従来は食材としての価値を失っていた経産牛を、おいしく食べられる味わいにもう一度肥育した牛肉を指すらしいです。
小嶋「ほほー。実際に食べましたけど、食感はかなり肉に近いかな。何も言われなければ、代替肉とは思わないかも。『ちょっと違うかな?』ぐらいのことは感じる可能性はありますが……」
──自分も食べましたけど、ガーリックとか、香辛料の香りが強い気がしました。
小嶋「うん。ガーリックは少し強めだったかな。何より、バーベキューソースがいい匂い」
──肉そのものより、ソースのほうに注目するんですか?
小嶋「そこがポイントじゃないかな。代替肉って、香りを本物の肉の料理に寄せるのが大事だと思うんです。もちろん、このメニューは和牛も使っているので、その味も含まれていると思うけど」
──香りを……肉に?
小嶋「そうそう。肉じゃない香りがすると、肉っぽさが薄れてしまうから。このメニューは、香辛料をうまく使って、香ばしい肉の味わいをうまく作っている」
──なるほど。味付けで肉っぽさを強めているということですか。でも、それって本来の肉の味から遠いから、人工的に味を付けないと食べられないということでもありますよね。
小嶋「ああ、自分はそこを『メリット』だと思ってるんですよ。好きな味にできるという未来っぽさがあるというか、アレルギーなどで肉が食べられない人でも“肉の味”を楽しめる。『君だけの最強の肉を作り出せ!』みたいな考え方もできるのかなと」
──小嶋さんは、「味付けや組み合わせる食材で、食事として楽しめるものに調理できる」という話をしましたもんね。それを良いと取るか、悪いと取るかという考えになるのか。
食感を再現できるかどうかもポイント
小嶋「とにかく、SusHi Tech Tokyo 2024で食べた代替肉は、食感がかなり肉だった。本物の肉で作ったつくねっぽい食感」
──うん、舌触りが完全に肉でした。代替肉のメニューって、食感が異様になめらかなときがあって……。
小嶋「あー、ありますね。肉の食感とは違うものが」
──本当の肉は、いろいろな方向に走っている動物の筋繊維が不揃いに口の中で崩れていく感触とか、内側から脂がにじんでくる感触がありますよね。
小嶋「生々しい表現を使いますね……。ともかく、SusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムで食べたバーベキューは、和牛のゴロゴロ感というか、肉の自然な食感も再現できていると思う」
──自分は、やっぱり代替肉の味自体が気になったんですよ。個人的な好みだと、もう少し香辛料を弱めてもいいかなと。
小嶋「いや、そこが代替肉のおもしろいところで。香辛料の種類とかバランスで、肉の方向性を決められると考えているんですよね」
──牛のハンバーグっぽくもなるし、鶏のつくねっぽくもなるし……みたいな?
小嶋「そうそう。たとえばSusHi Tech Tokyo 2024で食べたものは、“味わいの強いバーベーキュー感”を出そうとしたと思うんですよ。肉自体は脂が出る感じで、バーベキューソースで香りを足して、みたいに」
“肉”の中に入っているものを明らかにしてほしい
──ただ、その“肉”の味わいを作る手順で、代替肉が添加物まみれになるというリスクもありませんか。添加物を入れるのが悪いわけじゃなくて、コストなどの問題で、過剰に入れすぎてしまうとか……。
小嶋「それはあるかもなあ……」
──たとえば、「大豆ミート」ってよくあるじゃないですか。その名前だから、大豆を使っていることは、まあ間違いない。じゃあ、他に何を入れているのか、そこに入っているものを明らかにしてほしいという気持ちがあるんですよ。
小嶋「うん、鋭いところを突いているというか。それは代替肉のメリットでもあり、デメリットでもあるところで。好きなように味わいや食感を変えられる一方で、何を入れてもいい、言い換えれば『何が使われているか、言われないとわからない』という。そこを不安視する意見は正しいと思います」
──「和牛です」とうたって脂分を大量に混入させていたら問題になるかもしれないけど、「和牛っぽい味の代替肉です」と表現したら、極端なことを言えば何を入れてもいいわけじゃないですか。それって、いよいよディストピア感がありません?
小嶋「製造の過程に『透明性』みたいなものは求められるかもしれませんね。『何を入れてます』とか、『この食材はこうやって作られました』とか。そこをブラックボックスにしないというのは、代替肉の文化が広まっていくうえで大切なことでしょう」
ウソやごまかしがあってほしくはない
──自分が代替肉に「絶望」を感じた理由って、心配しすぎなのかもしれないんですけど、「本当の肉が食べられなくなっちゃうんじゃないか」みたいところだと思うんです。
小嶋「みんな代替肉になっちゃって、家畜の肉が貴重になるみたいな?」
──それもあるし、世に出回る多くの「肉」が、言い方が悪いけれども“ニセモノ”になる可能性があるわけじゃないですか。歴史のある肉料理の文化とか、畜産文化にも影響が出るんじゃないかと。
小嶋「あー、自分はその流れを新しい『選択肢』が生まれるものだと考えているんですよ。楽観的かもしれないけど。次世代の文化が生まれるかもしれないし、だからといって今までの文化がなくなるわけじゃないし」
──じゃあ、自分は悲観的ってことなのかな。良い影響もあるかもしれないけど、伝統に裏打ちされた作り方で生まれる食材、調理法が消えていく可能性もあるんじゃない? と考えていて。
小嶋「たとえば普通に牛肉を食べている人が、いつもと違う気分で肉料理を食べたいから代替肉を選ぶとか、ちょっとカロリーを気にしてヘルシーな代替肉を食べるとか。シンプルに、可能性が広がると思うんですよね。どんな味も再現できる、便利な食材としての希望が見える」
──その中で、今までの肉食文化、畜産文化も残っていくだろうと小嶋さんは考えている。
小嶋「SusHi Tech Tokyo 2024で展示されていたテクノロジー……モビリティーもロボットもそうだったけど、いきなり何もないところから文化が生まれるわけではなくって。今までの歴史と技術の積み重ねがあって、そこから何かが花開く。代替肉が広まっても、調理の仕方はこれまでの料理の延長線上から出てくると思いますね。前の文化が突然消えもしないし。その上で、突然変異的なものが出てきたら、また楽しいでしょう」
──ただ、しつこいようですけど、ウソやごまかしがあってほしくはないんですよね。技術が進歩してきたとして、代替肉を「ブランド和牛です!」として売るとか、「無添加です!」って言って添加物を入れているとかはやめてほしい。それこそディストピアっぽいじゃないですか。
小嶋「偽装は良くない、と。代替肉に限ったことではなくて、食品業界全般に言えることですけどもね。さっきも言ったけど、『何を入れてます』『この食材はこうやって作られました』ということを公開していく姿勢は、代替肉には強く求められるのかなと。味わいや香りを変えられるとなると、これまでの食材より『どう作ったのか?』ということが気になってくる」
──たとえば、肉が食べられない人が代替肉を選んだのに、「それ、実は一部に動物の肉を使ってました」などとなっては本末転倒になりかねませんからね。そのあたりのルール整備は、しっかりやってほしいです。
小嶋「『代替肉はウソじゃん!』という意見に対して、『本物だよ!』と言いたいわけではないんですよ。『動物の肉ではないけれど、こういうメリットがあるよ』と希望を主張したいわけで。そこで『本物の動物の肉です』と詐称するとか、『使ってないと言ったけど、動物の肉を使ってました』とかになると、絶望感が出てきますよね。ウソはつかない、ということが大切でしょう」
当たり前の選択肢になる未来があるのかも
代替肉が使われたメニューを食べてから話すことで、代替肉の将来について、あらためて考えることができました。
「肉のような食感を持つ、味わいの方向性を変えられる食材」と捉えると、単に肉の代わりになるだけではない、代替肉の違う可能性も見えてきそうです。
一方で、その製造過程で、生産者側には以前にも増して「透明性」や説明責任が求められるようになるかもしれません。作る過程に“ウソ”がある代替肉が偽りの説明とともに広まったら、さまざまな問題が生じる可能性があるでしょう。
代替肉が使われる機会が増え、さらに広く受け入れられるようになったらどうでしょうか。その先には、肉や魚、あるいは野菜と同じように、食材として当たり前の選択肢になる未来があるのかもしれません。それは希望でしょうか、絶望でしょうか。みなさんはどう考えますか?
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