LINEヤフーの情報漏えいを巡る一連の問題が、日本と韓国の関係に影響しかねない状況になっている。
LINEヤフーは2024年5月8日の決算会見で、情報漏えい問題への対応を明らかにしている。おもに、以下の3点が同社の対応の中心だろう。
●ネイバー出身の慎ジュンホCPO、ソフトバンク出身の桶谷拓CSOが退任
●親会社NAVER社への業務の委託をゼロにする
●LINEヤフーとNAVERのネットワークの分離を前倒し
日本側から見ると、業務委託先のNAVER側のPCがマルウェアに感染し、結果として52万件の個人データの漏洩が起きただけに、LINEヤフーは、NAVER側との関係の見直しを強く打ち出したものと理解できる。
しかし、韓国側はこうしたLINEヤフーや日本の総務省に対して激しく反発している。
日本の総務省は、3月と4月にLINEヤフーに対して2度の行政指導を行い、情報漏えいの原因となったとされるNAVER社との関係の見直しを求めている。これに対して、韓国政府や韓国メディアが「日本がLINEの経営権を奪おうとしている」と、反発している構図だ。
韓国メディアの激しい反応
現在のLINEヤフーを巡る状況を理解するうえで、韓国側の反応を押さえる必要があるが、中央日報の記事が参考になる。中央日報は韓国の大手日刊紙で、日本語版のサイトでは韓国語のニュースを短時間で日本語に翻訳して配信している。
5月8日のLINEヤフーの決算会見以降の中央日報を見ると、複数の記事を配信して、手厚く韓国側の反応を取り上げている。
たとえば、10日付の記事では、韓国の科学技術情報通信部の幹部がメディア向けのブリーフィングの中で、「日本政府は行政指導に持ち株売却という表現がないと確認したが、韓国企業には持ち株売却圧力と認識される点について遺憾を表明する」と述べている。
ちょっとわかりにくいので意訳すると、「日本政府はNAVERに株を売れなんて言っていないとしているが、株売却の圧力ととれる点があるので残念」というところだろうか。
11日には、「韓日戦に広がったLINE事態」と、「戦」の文字の入った強い見出しの記事を配信し、連載を開始している。同紙はこの記事を、「LINEヤフー事態が両国の政府が加わる韓日戦に拡大している」と書き出している。
日本からは、そこまで尖った事態という実感はないが、韓国側のメディアの認識では、LINEをめぐる日韓両政府の戦いが始まっているというところなのだろうか。
いびつな受注発注関係
韓国側の激しい反発の発端になったのは、3月5日の総務省の行政処分だ。
総務省の公表資料を読むと、次のような記述がある。
「貴社の親会社等も含めたグループ内において、委託先への適切な管理・監督を機能させるための貴社の経営体制の見直し(委託先から資本的な支配を相当程度受ける関係の見直しを含む。)や、適正な意思決定プロセスの構築等に向けた、適切な検討がなされるよう、親会社等に対しても必要な働き掛けを行う」
LINEヤフーは親会社にあたるNAVERに対して、多くの業務を委託している。業務委託先の仕事の品質や情報管理に問題があれば、発注元が指導をするのが健全な受注発注の関係だろう。しかし、委託先が親会社の場合、LINEヤフーが問題を認識したとしても、あまり強くは言えない。総務省は、こうしたいびつな関係を見直せと言ったものと理解できる。
松本剛明総務相は、5月10日の記者会見で、次のように述べている。
「安全管理措置等の強化、そして、資本的な支配を相当程度受ける関係の見直しや、親会社等を含むグループ全体でのセキュリティガバナンスの本質的な見直しの検討の加速化などの措置を講じるように求めたところでありまして、経営権といった視点から資本の見直しを求めたものでない」
ポイントは最後の「経営権といった視点から資本の見直しを求めていない」という発言だ。日本政府は、NAVERとLINEヤフーの関係の見直しは求めているが、株を売って経営権を手放せとまでは言っていないという立場だ。
ソフトバンクは過半を握りたい
さらに事態がややこしくなる要因として、ソフトバンク側の立ち位置がある。
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