業務を変えるkintoneユーザー事例 第217回
苦労した定着、経営と現場で異なるアプローチ
若手がレガシーに魂を吹き込む 帯広の印刷会社が歩んだkintone定着への道
2024年04月30日 09時00分更新
2024年4月26日、kintoneのユーザ事例発表イベント「kintone hive 2024 sapporo」が開催された。トップバッターは帯広の印刷会社であるクナウパブリッシング。20年間使ってきた印刷工程管理ソフトをkintone化するにあたって得た学びを、副社長と若手エンジニアの掛け合いで披露した。
2年ぶりで4倍増の参加者となった札幌でのkintone hive
時計台にもほど近いクリエイティブスタジオで開催されたkintone hive 2024 sapporo。小規模なライブハウスで開催された前回の4倍となる200名以上の参加者が詰めかけ、会場も熱気に包まれる。今回の登壇は東北・北海道の6社で、参加者の投票で決められた地区代表は秋口に行なわれる幕張メッセのサイボウズデイズで、他地区のkintone AWARDを競い合うことになる。
冒頭、登壇したサイボウズ北海道営業所の山本祐弥氏はノーコードでアプリを作れるkintoneの契約社数は3万4000社を超えたことをアピール。単に事例を聞くだけではなく、「ノウハウの引き出しを増やす」「業務改善のプロセスを学ぶ」「学んだことを共有する」などkintone hiveの楽しみ方を解説し、最初の事例発表であるクナウパブリッシングを紹介した。
クナウパブリッシングは北海道帯広市に本社を置く印刷・出版会社。1954年に印刷会社として創業し、今年で70周年を迎える。現在では出版業、広告業、デジタルコンテンツ製作業、旅行業、店舗経営など複数の事業を手がけている。ちなみに社名のクナウはアイヌ語でフクジュソウを意味する「クナウノンノ」が由来だという。
登壇したのは動画制作が得意な取締役副社長の田中良治氏と、田中氏とは親子ほどの年の差がある若手IT担当の荒 圭太郎氏。紙であふれかえった勤務管理と属人化されまくった印刷工程管理のレガシーをkintoneで改善した話を披露した。「20年前のレガシーに対して立場も考え方も違った社員が挑んだ壮大なストーリーを聞いていただきたい」と田中氏はストーリーを始める。
まずは紙だらけの勤務管理からスタート
ことの発端は20年以上使ってきた印刷工程管理ソフトの保守切れ。止まると仕事ができないのだが、もはや更新も難しく、リプレースが必要になった。とはいえ、導入を検討していた2020年頃は、コロナ禍で業績が不振に陥っており、とにかく安価にシステムを構築する必要性に迫られていた。ここで白羽の矢が立ったのがノーコードで自前でアプリを作れるサイボウズのkintone。エンジニアが3人に増えたこともあり、副社長の田中氏は荒氏にkintoneアプリの開発と運用をお願いすることにした。
最初に手を付けたのは、本丸の印刷工程管理ではなく、紙であふれかえった勤務管理。いままでタイムカード、紙の捺印、総務への提出という紙のフローだった勤務管理を、kintoneのテンプレートをベースにしたアプリに置き換えた。「基本カスタマイズは抑えて使うことにした」(荒氏)。これにより、社員一人ひとりが自分の勤務状況をすぐに把握できるようになったほか、総務課が手作業で行なっていた集計作業が自動化された。また勤務管理にあわせて、出張や休暇申請もあわせてkintone化した。
とはいえ、出退勤時に打刻するだけのタイムカードに比べて、Webブラウザを開いて打刻するのは面倒と思う社員もいる。「使いにくい」「今までの方がよかった」という意見も出たが、荒氏はそういった意見が出てくるも予想していたという。「業務でパソコンを使うので、あらかじめログイン設定しておけば、どこでも打刻できてめちゃくちゃ便利」(荒氏)と意に介さない。これまで3~5人を経ていた捺印を、直属上司一人だけに絞るという仕組み上の変更も行なうことで、利用を根付かせることができた。
レガシーを引き継いだkintoneアプリ 強制移行に向かった理由
続いて本丸である印刷工程管理ソフトのkintone化。そもそも印刷工程の管理は営業が案件を受注して納品に至るまで、起票、用紙発注、制作、校正、断裁、製版、印刷、製本などの数多くのフローが存在し、それぞれの業務に担当を付けなければならなかった。クナウパブリッシングの場合、「数えてみたら名刺1つ作るのに11人が張り付いていた」(田中氏)とのこと。もちろん、納品が完了したら、顧客に対しての請求と入金までを行なわなければならない。これらの作業指示を管理していたのが、20年前に導入した印刷工程管理ソフトになる。
この印刷工程管理ソフトをkintone化するにあたって、荒氏は膨大な項目のほぼすべてをそのまま引き継いだ。項目を減らすことも考えたが、現場と調整した結果、すべての項目に意味があったからだ。見た目はタブなどを駆使してすっきりさせ、さらに営業精算金額の入力タブを追加した。「案件がきちんと儲けにつながっているのか、利益への意識を高めるための入力項目を作った」と田中氏は語る。
こうして鳴り物入りで登場したkintoneの印刷工程管理アプリだったが、田中氏の号令もむなしくまったく使われなかった。「いいから使えと言い続けました。でも、こっちは本当に全然使ってもらえなかった」(田中氏)。一方、荒氏はこんな状況でも腐ることなく、現場とのコミュニケーションを続け、使ってもらえるように話を進めたという。コツは「一度持ち帰って、少し時間をおいてから返答するようにすること」。問題に対して、お互いが考える時間を確保し、少しずつ浸透させることができたという。「大人でしょ、みなさん(笑)。僕がいいから使えと言ってたときに、荒君はこんなことをしてくれたんです」(田中氏)。
ただ、全社的に使うようになったのはハードランディングな出来事があったから。なんと以前から使っていた印刷工程管理ソフトが本当に壊れてしまったのだ。もちろん、田中氏が壊したわけではないが、「しめしめ。これでkintoneに強制的に移行する」と思ったのは事実なようだ。ただ、kintoneアプリを使わなければならなくなり、殺到したリクエストに対し、荒氏は1つ1つ丁寧に対応。「荒君が現場からの信頼を勝ち取っていくことができた」(田中氏)ということで、定着に結びついたという。
kintoneは人材育成になる
苦労して定着させたkintoneの効果も披露された。まず勤務管理アプリ群は時間の集計が自動化されたことで、総務課の作業時間が30%、使用される紙の量も20%削減された。印刷工程管理アプリはさらに劇的で、最大11人が関わっていた製造工程が5人まで圧縮された。コスト意識の高まりもあり、会社全体の経費もコロナ禍前の2019年に比べて20%削減された。「システム更新にかかると思われた2000万円も不要となった」(田中氏)とのことだ。
今回のポイントとなったのはレガシーの考え方。「レガシーは悪いものばかりじゃなかった。レガシーは歴史の積み重ねであり、古いものを使って新しいものを生み出すことができる。そして生み出すためには別の能力や考え方を持った新しい誰かが受け継ぐ。それぞれの視点が欠かせない」という学びがあったと田中氏は指摘する。
荒氏の成長を見てきた田中氏は「kintoneは人材育成になる」と指摘。荒氏も「入社して4年になりますが、人とのコミュニケーションの大切さや難しさをkintoneを介して学ぶことができた。今後もkintone開発でどんどん成長していけたら」と抱負を語る。次は最後に残った請求と入金の部分までkintoneをベースに作っていきたいという。
2025年3月末までの限定公開です

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