先週の土曜日、JAWS DAYSが5年ぶりのリアル開催。900人を超える多種多様なクラウドユーザーが池袋サンシャインシティの展示ホールに集まり、セッションを楽しみ、新たな出会いと再会の機会を得た。コロナ禍前、当たり前のように行なわれていたリアルイベントの価値を取り戻した「祝祭」だった。
長崎社長、最後の登壇はコミュニティイベント
1年に1度開催されるJAWS-UGの大型イベントであるJAWS DAYS。エンジニアを中心としたAWSユーザーが集まり、セッションや展示、そして交流を楽しむクラウドの祭典だ。コロナ禍前に利用されていた五反田の会場が閉鎖されたこともあり、5年ぶりの今回は池袋サンシャインシティの展示ホールとなった。ちなみに自宅から近い私のホームタウンとも呼べる場所なので、Facebookには地元愛丸出しの飲食と観光ガイドを書きまくってしまった。
久しぶりのリアル開催ということで、今回は告知施策にも力を入れたという。池袋駅から会場に移動する際に通るサンシャイン通りにはストリートフラッグ、東池袋駅のポスターボードが用意され、JAWS-UGのイベントを高らかにアピール。開場は9時だったが、私が行った頃にはすでに多くの参加者が会場入りしていた。
イベントは実行委員長である早川愛さんの挨拶からスタート。まずは1000人規模のイベントを支える実行委員のメンバーを紹介しつつ、79社の企業サポーター、80名の個人サポーター、100名のボランティアスタッフに感謝を送る。さらに参加登録が満員の1000人を超え、キャンセル待ちが出たことも合わせて報告された。
基調講演に登壇したAWSチーフエバンジェリストのジェフ・バー氏が冒頭にサプライズゲストとして招き入れたのは、先日退任を発表したAWSジャパンの長崎忠雄社長だ。退任前の最後の登壇がコミュニティイベントということで、詰めかけた聴衆からは大きな歓声が上がった。JAWS DAYSの赤いTシャツを着た長崎さんは、イベントを支えるメンバーやサポーターにまずは熱い謝意を伝えた。
長崎社長が初めてJAWS-UGに参加したのは、社員が両手の指くらいで済んでいた2011年。アダム・セリプスキー現AWS CEOも連れて行ったという。そこからすでに十年以上の歳月は流れ、パブリッククラウドはすっかり浸透したが、JAWS-UGはアクティブに活動を続け、今に至っている。JAWS-UGが成長し続けてきた理由について、長崎さんは「JAWS-UGのメンバーがバトンをつないで来た証」とコメントした。
長崎社長は、「日本はものすごく可能性がある。私のミッションはまだ道半ばだが、世界に誇れるユーザーコミュニティであるJAWS-UGのみなさんの熱量は、日本をさらなる高みに導ける」とコメントし、AWSジャパンの社長として最後の登壇を終えた。
自身のコミュニティ体験とアジアのコミュニティ成功事例を披露
基調講演を行なったバー氏は、AWSの最古参のブロガーであり、JAWS-UGのイベントにも何度も参加してきた。「他国からコミュニティの成功例を紹介して欲しいと言われたときは、必ずJAWS-UGが頭に浮かぶ。私はつねに温かく迎えてくれ、フレンドリーで素晴らしい時間を得ている」と語る。
1970年代からテック業界に関わってきたバー氏は、初のパーソナルコンピューターとも言われる「ALTAIR 8800」が発売された1975年を振り返る。Intel 8080と256バイトのRAMを搭載したこのコンピューターが革新的だったのは、従来に比べて1/100近い439ドルという価格。ALTAIR 8800を紹介した「Popular Electronics」の誌面では、「一家に一台というコンピューターという時代が来る」とその革命を予感したという。バー氏も「当時の自分にとっては未来の入り口だった」と語る。
コンピューターショップに勤め、このALTAIR 8800を販売する立場となったバー氏は、地元のシアトルにあったパシフィックサイエンスセンターで開催されていた「Northwest Computer Club」に参加する。ここでの体験がその後のバー氏のコミュニティ人生を決定づけた。「誰でも参加できた。コンピューターが好きであれば、スキルも年齢も関係なかった。これがとても心地よかった」とバー氏は振り返る。その上で、聴衆に向け、「みなさんは休日の土曜日にも関わず、自発的にここに来た。この自発的ということがとても意味があることだ」と語りかけた。
後半はアジア各国のコミュニティストーリーについて説明した。たとえば、多言語を用いるベトナムでは、AWSコンテンツのローカライズにコミュニティの力がフル活用され、「The First Cloud Journey」という多言語対応の初心者向けコンテンツリポジトリが構築されている。「健全なユーザーコミュニティは新しい人たちがつねに学べるコンテンツを用意している。スキルを持つユーザーにとっては当たり前のことでも、ビギナーにとってはとても価値あるもの。多言語で利用できるのは素晴らしい」とバー氏は語る。
またネパールでは、テック業界での女性比率が0.5%ときわめて低いという課題があり、この比率を高めるための活動をコミュニティ主導で行なった。ネパール初の女性AWSコミュニティビルダーが主導した「She Can」と呼ばれるこのプログラムでは、ネパール各州の7人の女性がAWSエキスパートからメンタリングを受け、AWSの認定を取得したという。「たった7人ではあるが、この7人にとってはとても大きい出来事だった」とバー氏は振り返る。
さらに韓国では、コミュニティの世代交代を促すべく、入学と卒業を繰り返す大学生のコミュニティで次世代リーダーを育成。日本の事例としては社内での勉強会やコミュニティ活動が、社外と連携するようになったNRIとKDDIが紹介。社外への登壇や社外コミュニティとの連携によって、外からの目線を得ることができ、会社によい影響が与えられているという。
最近展開しているのは、人前で話すことに苦手意識を感じる人のための「Open mic」という取り組み。フレンドリーな環境で短めのLTを行なってもらうことで経験を積み、自信を持って話せるようになるという。
最後、バー氏はJAWSの歴史を改めて振り返り、「The Future is up to You」という言葉を聴衆に掲げた。「この先も、きっとすごいことが待っている。皆さんにもその一端を担って欲しい」と会場にエールを送った。