本記事はソラコムが提供する「SORACOM公式ブログ」に掲載された「屋外でIoTデバイスを動かすポイントは? ― IoT-Tech Meetup レポート」を再編集したものです。
目次
【セッション1】IoTとは?屋外IoTの必要性と課題の整理【セッション2】防水防塵ハードウェア作りの注意点と実装
【セッション3】屋外IoTにおける通信技術の選び方と実装ポイント
Q&A セッション
次回の IoT-Tech Meetupは「OpenAI の API を IoT に活かす」
こんにちは、ソラコムの松下(ニックネーム: Max)です。
現場で起こっているコトをデジタル化してクラウドに集め、データをビジネスや社会に活かしていくのがIoTの本質です。この現場というのは、家やオフィスだけではなく、河川や山中といった「屋外」も対象となります。
2/7に開催したIoTの勉強会「IoT-Tech Meetup」では、屋外でのIoT運用に特有の問題の整理と今できる解決策をゲストと共に紹介しました。このブログでは、その様子をお届けします。
【セッション1】IoTとは?屋外IoTの必要性と課題の整理
冒頭のセッションは私(Max)より、IoTの全体像と屋外におけるIoTの課題の整理を行い、後半セッションに向けた情報共有を行いました。
IoTは現場をデジタル化して、そのデータをビジネスや生活に活かす技術です。その範囲は気象情報や河川の水位、スマート農業といった屋外にも広がっていることをSORACOMのIoT事例と共に紹介しました。
改めて、屋外現場のデジタル化を行うにあたり、考慮すべきポイントを整理したのが以下の図です。
大きくはデバイス自体の屋外対応と、無人もしくは非IT技術者でも運用し続けられるようにするソフトウェア面の2点があることを紹介しました。
デバイスにおいては、防水・防塵といった「保護等級」や、設置時に利用する金具等の規格、あとは法規制も配慮すべき事項です。しかし、すべてに対応することは難易度や費用に跳ね返ってきます。そのため、利用環境で不要なものの見極めが不可欠であることを解説しました。
資料はこちらです。
【セッション2】防水防塵ハードウェア作りの注意点と実装
続いてのセッションは、メカトラックス株式会社 永里氏をゲストにお迎えして、同社の防水防塵IoTゲートウェイ「Pi-protect(パイ・プロテクト)」を題材に、防水防塵ハードウェアの実装における注意点を紹介いただきました。ラズパイは本来非防水・非防塵ですが、そのハードウェアを防水防塵化したノウハウを、実機を基に特別に解説いただいたセッションです。
同社はハードウェアメーカーとして、特にマイコンボード「Raspberry Pi(以下、ラズパイ)」のビジネス活用のサポートをされています。Pi-protect は、ラズパイのソフトウェア資産を活かしつつ、屋外利用を想定した防水防塵化を実現しているIoTゲートウェイです。
セッション後半では、チャットによるリアルタイムなQ&Aを交えながら、手元のカメラで Pi-protect における防水防塵化のポイントを、私(Max)と共に見ていきました。
ケースの解説
まずはケースの解説からです。合わせ目の部分にはゴムパッキンがあり、ねじ止めすると密閉構造となります。いただいた質問には「密閉すると内部が高温になるのでは?」「低温化になった際の結露対策は?」「樹脂製のケースの理由は?」といったものがありました。
まず熱に関しては、使用部品を厳選することで対策しています。具体的には構成部品を-20℃~+60℃、もしくはこれらを超えるものを採用して実現しています。1つでも下回る部品が入ってしまうと、その仕様に引き下げられてしまうため、部品選びは重要です。
結露に関しては、基本的には「結露しない環境での利用を強く推奨」となっています。実利用としては、市販の乾燥剤を用いた運用も検討できそうだという解説でした。
樹脂製のケース採用の背景は、無線通信に利用する電波です。金属は電波を通しづらいため、金属製ケースの場合はアンテナをケース外に出す加工が必要となり、費用がかさみます。樹脂製にすることで、ハードウェア本体が持つ電波を通しやすくし、設置や費用面の負担を減らせるとのことでした。
また、ケースが透明なのも同社のこだわりとして紹介いただきました。継続的な運用には、ハードウェア状況が現場で即座に判別できることが求められます。透明化することで、防水性を担保しつつハードウエア本体のLEDの状態を把握できたり、内部に状態表示用の小型LEDパネルを追加するなどで、運用が容易というメリットがあるとのことでした。
ケーブルの取り回し
続いては、外部からのケーブルの取り回しです。電源やセンサー接続をするためには、ケーブルをケース内に引き込む必要があります。
Pi-protect では、電源はネジ固定型の電源コネクタの採用、そして他のケーブルはゴムパッキンとネジで締め上げることで引き込める機構を採用しています。ケーブルは太さが異なるため、Pi-protect ではあらかじめ複数のサイズに対応できるように多く準備されたとのことです。
電力確保とキャパシタ
屋外では電力が安定しないことも多々あります。例えば落雷による急な電圧降下や、日照不足によるソーラーパネルの発電量低下です。このような環境下でもハードウェアを安定稼働させる方法として、内部に電力を確保する手があります。
Pi-protect では、キャパシタを搭載することで解決を図っています。キャパシタとはバッテリーのようなもので、電源に問題があった際は、ハードウェア全体を安全にシャットダウンできる電力供給が可能になります。図のオレンジ色のシールが貼られているものと、その横の計2本が電源バックアップ用のキャパシタです。
このような配慮は屋内利用のデバイスと大きく異なる点であり、独自に実装する場合でも考慮すべきポイントです。
セッション前半の資料はこちらです。
【セッション3】屋外IoTにおける通信技術の選び方と実装ポイント
続いては、屋外のIoTデバイスとクラウドをつなげる通信について、ソラコム ソリューションアーキテクト横田(ニックネーム: Shun)から紹介しました。
通信も電力を消費します。しかし屋外ではこれまで解説してきた通り、電力確保が困難なため、通信自体の省力化が求められます。また、屋内に比べて通信の品質が低下しがちであるため、通信が切れた状態、もしくは回復といった考え方も不可欠です。
まず通信自体の省電力化は、省電力の長距離無線としてLPWA(Low Power Wide Area network)というカテゴリーがあります。この中にいくつか通信技術がありますが、このセッションでは SORACOM でも取り扱いのある2つの通信技術「LTE-M」と「Sigfox」を紹介しました。
特に Sigfox はデータ送信のサイズは12バイトと小さいものの、LED の点灯と同レベルの電力消費であるため、屋外で使う通信技術に向いていると言えます。
続いては、通信環境が悪い中でもデータ送信を実現するための実装について解説いただきました。屋外では通信が切れることを前提にしたソフトウェア実装が求められます。例えば再送処理です。その再送も、単純な繰り返しではなく、ネットワークへやサーバーシステムの負荷低減を目的とした実装が存在します。その1つとして「Exponential Backoff」があります。
また、データの欠損の識別を生成 AI で判定させることも現実的になってきました。2023年7月にリリースした「SORACOM Harvest Data Intelligence」は、1つの方法です。
まとめとしては、屋外における電力事情や通信環境の信頼性低下を前提に、省電力化やクラウドとの通信部分の実装に気を付けたいということで締めました。
資料はこちらで公開しています。
Q&A セッション
Q. (Pi-protect のケーブル引き込み部を見て) 丸形ケーブルだけでなく、平型ケーブルを引き込む事はできますか?
A. Pi-protect の標準実装では丸型ケーブルが対象です。Pi-protect は仕様を公開しています。Pi-protectの引き込み部のサイズに合ったケーブルグランドをお探しいただくのが良いでしょう。
Q. ケースが透明とのことですが、直射日光には耐えられるのでしょうか?
A. 直射日光は避けてご利用ください。また、ご自身でケースを手配されたり、また設置する場合も、直射日光は配慮すべきと考えます。
Q. LTE-M の通信では、画像のような大容量データの送受信は可能ですか?
A. LTE-M の規格上の通信速度は約350Kbps(全二重の場合は1Mbps程度)です。また、LTE/5GやWi-Fiと同様に連続したデータ通信が可能です。この数字を踏まえたうえで、適したデータを送信することが望ましいでしょう。一点注意があるとすればデータ送受信時は、最大に近い電力消費となります。すなわちデータ送受信を行っている時間を最短にするアプローチが全体の省電力につながるため、例えば消費電力は高くとも高速な通信(Cat.1など)にして、送受信時間を短くする設計も検討してください。
Q. 省電力にしたいとき、eDRXやPSMを使う場合と、通信モジュールの電源を切る場合とがあると思います。どのように使い分ければよいでしょうか?
A. eDRXやPSMは省電力化に大きく貢献しますが、TVの待機電力のように、少なからず電力を消費しています。一方で、通信モジュールの電源OFFは電力消費自体をカットできますが、電源ON後のネットワークセッション作成に大きな電力が必要です。そのため、eDRXやPSMの待機電力の累積と、通信モジュールの電源ON時の電力の消費量を比較することで、実装方針が見えてくるでしょう。
Q. 省電力化の方法として SORACOM のサービス(データ転送サービス「SORACOM Beam」 等)を利用する場合、LTEによる無線区間が平文でも問題ないと解説いただきましたが、平文なのはセキュリティ上の懸念は無いのですか?
A. LTE 等セルラー通信は、それ自体が暗号化通信です。また、基地局から通信キャリアのネットワーク、そしてSORACOMに至る経路も閉域網(閉じている、管理されたネットワーク)です。そのため、通信デバイスから SORACOM 間の通信が平文でも懸念は無く、省電力化にも貢献できます。
次回の IoT-Tech Meetupは「OpenAI の API を IoT に活かす」
次回の IoT-Tech Meetup は「OpenAI の API を IoT に活かす」です。
ChatGPT を提供している OpenAI 社には、生成 AI が基になった様々なサービスが API で提供されています。ここでは、ChatGPT の API 利用をはじめとして、OpenAI 社の API サービス群を眺めつつ、IoT でどのように活用できるかを考えていきます。
日程は3月中旬を予定しています。募集は connpass で行いますので、ご注目&ご参加ください!
次回もオンラインでお会いしましょう!
― ソラコム松下 (Max)
投稿 屋外でIoTデバイスを動かすポイントは? ― IoT-Tech Meetup レポート は SORACOM公式ブログ に最初に表示されました。
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