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固定・スマホカメラのハイブリッド対応、自動撮影・AI読取で巡回作業を効率化

AIoTクラウド、ソラコムと連携し工場設備の遠隔監視サービス市場に本格参入

2024年01月31日 07時30分更新

文● 大河原克行 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 シャープの子会社であるAIoTクラウドは、工場設備の巡回や点検業務の効率化を実現する「WIZIoT(ウィジオ)」を、2024年2月1日から提供開始し、工場設備の遠隔監視サービス市場に本格参入。カメラ導入や運用のコストを抑えながら、工場設備の遠隔監視を実現する。

 同サービスの提供にあたり、ソラコムと連携、同社のクラウド型カメラ「ソラカメ」を採用した「AI点検 for ソラカメプラン」を用意する。

遠隔監視サービス「WIZIoT(ウィジオ)」

 現在、工場などの現場では、高齢化や後継者不在による人手不足および、施設や設備、インフラの老朽化を要因として、センサーなどを活用した遠隔監視による点検業務や、データ管理業務の省力化および自動化が注目されているという。

 AIoTクラウド 代表取締役社長の松本融氏は、「WIZIoTは、IoTとSaaS、AIという最先端技術と既存技術の統合により、工場や建設現場などで働くプロフェッショナルが、専門業務に集中できるよう支援する。現場の人手不足や業務効率向上など、課題を解決する身近なIoTサービスを目指しており、DXのラストワンマイルをつなぎ、現場の持てる力をブーストする」と説明する。

AIoTクラウド 代表取締役社長 松本融氏

人材不足や人的ミスの課題を解決する遠隔監視サービス「WIZIoT」

 WIZIoTは、製造現場に設置されている目視点検用のアナログメーターやランプを、固定カメラやスマホアプリを用いて読み取り、AIで分析。遠隔地から監視業務を可能とするSaaS型のサービスだ。

 従来の点検方法は、工場を巡回して、設備のメーターを目視で確認して、現場で手書きで記録。それをオフィスに戻って、PCに数値を転記し、報告するという仕組みであった。2023年にソラコムの実施した実態調査では、約7割が複数拠点での見回り・点検業務を行っており、約3分の2が他業務と兼任で点検作業を行っているという。

 AIoTクラウド プロダクトマネージメント部 部長の宇徳浩二氏は、「人材不足によって、現地での作業がさらに大きな課題となっており、転記による人的ミスという課題も解決する必要がある。WIZIoTによって、工場設備などのメーター表示をカメラで撮影し、クラウド上でAIが値を読み取り、その結果を自動で点検台帳に記録できる」と説明する。

AIoTクラウド プロダクトマネージメント部 部長 宇徳浩二氏

 WIZIoTでは、固定カメラが、あらかじめ設定した点検スケジュールに従って、自動で撮影し、AIで値を読み取り、記録するため、巡回による点検業務が不要になる。また、1台の固定カメラで複数メーターを同時に読み取ったり、既存のスマホで巡回して撮影することもでき、カメラの初期導入コストを低減する。

カメラによるメーター撮影・AI読取サービスで、巡回点検業務を効率化

 固定カメラは、高い場所や暗い場所、足元が悪い場所に設置することで、正確性と安全性を確保できる。一方、スマホアプリは、メーターが多い場合もQRコードで判別でき、カメラ用の設置場所や電源、通信機器を用意する必要がないなど、それぞれメリットがある。WIZIoTは、固定カメラ・スマホカメラのハイブリッド対応なため、現場の特性に合わせて柔軟に導入でき、トータルコストも抑えられる。

固定カメラ・スマホカメラのハイブリッド対応

 また、AI読み取りや自動記録によって、従来の目視による読み取りミスや、手書きによる記録ミスなどの人的ミスを削減し、再点検作業も抑止できる。点検データはCSV形式で抽出でき、報告書にも活用できる。

サービスイメージ

 個別開発がいらないSaaS型で提供するため、プランを組み合わせるだけで、手軽に遠隔監視を始められる。機能アップデートも容易であり、今後は、AIを進化させることで、モニター表示された文字やランプの色など監視対象を拡げていく予定だ。

SaaS型だから機能アップデートも容易

 固定カメラは、ソラカメを採用したことも特徴だという。「ソラカメは、コンパクトで、リーズナブルなクラウド型カメラであり、設定や操作も簡単に行える。ネットワーク専門知識がなくても、手軽に遠隔監視が開始できる」と宇徳氏。

ソラカメによる測定イメージ

 簡単に導入でき、現場を楽にしたいという要望に応えて誕生したのがソラカメであり、電源とWi-Fiがあれば、3分程度で初期設定は完了、工事も不要で、すぐにクラウド録画が利用できる。また、APIにより、クラウド上のAIアルゴリズムも含む様々なシステムと連携が可能だ。

 ソラコムの執行役員 日本事業責任者である齋藤洋徳氏は、「今回のAIoTクラウドとの連携は、要望が多かった見守り点検業務に特化したソリューションになる。ソラカメAPIにより、業務アプリケーションまでワンストップで提供でき、IoTの専門知識がなくても、ノーコードでアナログメーターの可視化を実現できる」と語った。

ソラコム 執行役員 日本事業責任者 齋藤洋徳氏

製造業からスタートしビル・建設・インフラ業界へ ― 他サービスも含めて2027年度までに100億円の売上を目指す

 WIZIoTの利用料金は、ソラカメ(固定カメラ)を利用した「AI点検 for ソラカメプラン」が、カメラ1台あたり月額2300円のほか、ソラカメの本体価格(1台あたり3618円)およびサービス利用料金(1台あたり月額900円)が必要。スマホカメラを活用した「AI点検 for モバイル」は、メーター1個あたり月額600円。
 
 いずれも初期費用として3万円が必要になる(両プラン組み合わせて契約の場合も3万円)。価格はすべて税別。2週間試用できる無償トライアルも用意している。

WIZIoT サービス利用料金

 同社の試算によると、点検箇所が20カ所、1日3回点検、2人1組で実施した場合、ソラカメとスマホのハイブリッド利用により、月間140時間の作業時間が削減でき、年間約350万円のコスト削減効果が生まれるという。「WIZIoTは、競争力がある価格設定にしている。点検する箇所や規模が増えるほど、コスト削減効果は大きい」(宇徳氏)。

 なお、WIZIoTの名称は、WIZとIoTを組み合わせた造語で、Wizには、達人のノウハウで、IoTを簡単に利用するためのWizardと、パートナーとのつながりにより、新しい価値を創造するwithの意味を持たせている。

 今後は、遠隔監視サービスのほかに、工程管理や設備管理、安全管理などにもサービスの幅を広げるほか、製造業に加えて、ビルや建設、インフラ分野にもターゲットを拡大する。市場のニーズにあわせて、工場設備の機器メーカーとの連携や、過酷な環境での監視に適したカメラを活用した提案も検討していくという。

WIZIoTの事業目標

 AIoTクラウドは、2019年8月に、シャープのIoT開発部門が母体となって設立。IoT、AI、クラウドを活用し、BtoB市場に向けたSaaSビジネスを展開している。シャープのAIoT家電向けのクラウドサービスを提供するとともに、IoT機器と他社クラウドサービスとの連携、クラウドプラットフォームの外販展開を推進している。

 昨今では、道路交通法改正にあわせて製品化したアルコールチェック管理サービス「スリーゼロ」を提供。2023年11月に開催したシャープ独自の技術イベント「SHARP TECH-DAY」では、画像認識AIの学習コストを大幅に削減できる「AIゼロショット画像認識・状況判定」を展示して注目を集めた。

 松本氏は、「約10年に渡って、様々な機器とクラウドを連携したシステム開発や運用経験を持つこと、家電メーカーを母体とするクラウド企業ならではのIoT対応力、機器から得られたデータのAIを処理する技術力、業務効率向上につなげる応用力が特徴である。今後は、IoTと生成AIの融合により、専門知識が不要で、誰もが現場で簡単に利用できる革新的な監視テクノロジーを提供していきたい」と強調した。

 AIoTクラウドでは、2027年度までに売上高100億円を目指す計画を新たに打ち出し、そのうち、WIZIoTにより、50億円を想定。「スリーゼロとWIZIoTの2つのSaaS製品を柱として事業を拡大させる」(松本氏)との方針を示した。

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