みんなが聞きたかったkintone導入のもっと手前の話
挑戦のプロセスを語ろう!裏kintone hive「CHALLenGERs」初開催
2024年01月30日 09時00分更新
2023年12月18日、エン・ジャパンはkintoneのコミュニティイベント「CHALLenGERs(チャレンジャーズ)」を初開催した。kintoneコミュニティやサイボウズイベントの登壇者が、本編で語られなかった業務改善やプロジェクトの裏側について語るという、いわば「裏kintone hive」とも言える中身。4人の登壇者から生々しいチャレンジの様子が披露された。
挑戦のプロセスから学ぼう そして気にしよう
CHALLenGERSはkintoneを用いた業務改善やDXに関わる人が経験を語るイベントで、名前の通りチャレンジにフォーカスを当てている。イベントを企画したエン・ジャパンは2017年からkintoneを導入し、長らく現場による内製化を推進してきた(関連記事:エン・ジャパンがkintoneで進めた内製化 成功の理由は情シスへのリスペクトと役割分担)。もちろんイベント名の小文字の「en」は主催したエン・ジャパンを意味しており、西新宿にある同社の会議室に多くのkintoneユーザーが詰めかけた。
発起人のエン・ジャパン 事業推進統括部 DX推進グループ 高橋淳也氏は、現場主体の業務改善を中心に据えたkintone界隈で情報発信をする中で、kintoneのプロジェクト管理と業務での挑戦を学ぶ必要性を指摘。コミュニティでプロジェクトを学ぶことで、「挑戦を語って、振り返って、つながりを作れば学びは加速する。そのとき、失敗か、成功かはいったん置いておく。挑戦のプロセスにフォーカスするのが今回の趣旨」と語る。
そのため、各セッションでのテーマは、「なにに挑んだのか? そして挑んだことでなにを得るのか?」だ。以下4つのセッションは、kintone前提ではあるが、kintoneが主役というわけでない。「合い言葉はナイスチャレンジにしようと思っている。ドンマイは気にするなという意味だけど、ここでは気にしようということ」と高橋氏は語る。参加している人たちに学びを深めるため、登壇者をたたえるため、多くのアウトプットを期待していると挨拶した。
担い手は「『これ、面白そう』に挑戦してくれる人」(きったん)
最初に登壇した「きったん」こと喜田晃大氏は、八代製薬の経理部門に所属しており、12年間の業務改善職のkintoneノウハウを積極的にアウトプットしている(関連記事:導入2000社を突破したkrewシリーズ 初のユーザー会「Ship」が船出)。
業務改善職は挑戦の毎日だ。入社当時は、経理もITも未経験で、紙オンリーの業務でパソコンもなかった。そこからPCを導入してテレワークにまでこぎつけ、「社内独自の労働基準法」にも異議を申し立て、改善意識のない人をたきつけてきた。kintoneを使うかどうかを別にして、これらすべてがチャレンジだったという。
今回紹介したのは苦労した担い手の育成。「ずっと1人で業務をなんとかしようとしてきたが、やはり担い手が必要。今の仕事をExcelでやってみる?とか、経理興味ない?とボールを投げてみますが、そんなすぐに担い手が見つかるわけもない」ときったんさんは語る。
その一方で、今から考えると、担い手の育成は業務改善と同じように捉えていたため、重荷になっていたのも事実。「まだ乗り越えてはないんですけど、コミュニティに参加して、みなさんの話を聞いたことに加え、自分が発信し、フィードバックをいただいたことが大きかった」と2つのきっかけについて説明した。
1つ目のきっかけはイベントを主催したエンジャパンの高橋氏とのディスカッション。「自分みたいな人を育てようとしていた。自分が教育していくのではなく、実践して行く中で、知識や経験を共有していく、伴走が一つのやり方だと感じた」ときったんさんは語る。
2つ目はkintone hive東京での講演で「kintoneアプリの実験室」という概念を聞いたこと。これを機に、自らがアウトプットしたkintoneのノウハウについて、「読んでおいて」ではなく、「置いておくから読んでみたら?」という気持ちで提案できるようになったという。こうしてkintoneを自由に試せるスペースとして作ったのが、kintoneトレーニングルーム、通称「kinトレ」だ。長大なkinトレ部屋は、アプリ作りのための画像付きのリンク、プラグイン、認定資格、コミュニティなどの学ぶための情報やサンプルアプリなどがスペースには凝縮されている。
そして、きったんさんが改めて「どんな担い手がほしいのか?」を考えたところ、「これ、面白そうに挑戦してくれる人」だった。「この界隈はめちゃくちゃ多い。面白そうだったら、みんな触る。ChatGPTもそうだし、Yoomとかもみんな触るし、発信する。そんな人が会社の中に欲しい」ときったんさん。
ということで、今は社内の隣にいる新人は、kintoneによる業務改善にチャレンジしているという。「たぶんすぐ壁に当ると思うけど、業務改善の成果が出たり、報酬につながったり、誰かから感謝されたら、もっと知りたい、学びたいと思うはず。僕がそうだったように」ときったんさん。学ぶ人に寄り添い、支援できる存在であり、そのためのkinトレでありたいとまとめた。
「なんか毎日挑戦すれば、明日なんかになれる」(カノッティ)
昨年のkintone hive東京にも登壇した声優事務所プロダクション・エースの鹿野内春奈ことカノッティさんは「まだない仕事を一から作ってみた」ということで、スタジオを一から作る話を披露した(関連記事:グッズまとった「kintoneのひと」作戦で社内浸透 3年で変わった声優事務所)
プロダクションエースという声優事務所に所属するカノッティさん。基本は声優プロダクションではあるのだが、おととしから音響制作の事業を立ち上げるに当って、音響スタジオを制作することになった。今まではスタジオがなかったので、録音や編集は外注していたが、自社スタジオがあれば完成・納品まで行なえる。
夢は広がる一方だが、課題はスタジオを建てたことがなかったことだ。「なんもわからんのですよ。いろんな人に話を聞いたのですが、用語がわからない」(カノッティ)とのことで、スタジオ作りもわからない。その他、音響制作に必要な人材の採用、業務フローの見直し、単価設定、メンテナンス計画など、カノッティさんの元にはなだれのように業務が降りかかってきた。自分なりに調べて、経営陣の計画を提出したが、がっつりダメ出しをされたという失敗もあった。
カノッティさんは、とにかく社内外のいろんな人に助けてと言いまくった。まず顧問が全体のプロジェクトの収支バランス、社内外の調整を見てくれることになり、スタジオについてわかる技術者のおじさんたちを紹介してくれた。この技術者のおじさんたちが専門用語について片っ端から教えてくれ、その内容はノート2冊にまとまった。そして上司に当る取締役が社内の会議をすべて引き受けてくれた。
そしてkintone hive東京の登壇にも出てきた経理のお姉さんは、カノッティさんに「まずは落ち着け。kintoneで作った請求システムを流用して作ってしまおう」と力強い一言。kintoneにkrewやPrintCreatorを組み合わせて構築した請求システムを流用し、音響スタジオ構築後の業務フローにあわせて手直し。おじさんたちの力を借りつつ、カノッティさん自身もDIYにチャレンジし、なんとかスタジオを新設。「とにかく自分の手と頭をフル稼働させればなんとかなる」ということを学んだという。
カノッティさんは「昨日の自分は今日のため、今日の自分は明日のため。なんか毎日挑戦すれば、明日なんかになれる」とスタジオ作りの話をまとめた。
立ちはだかる壁は複数のブロックからできていた(電脳ボウズ)
3人目は昨年のkintone Awardの覇者である電脳ボウズこと植田剛士さん(関連記事:社内浸透には応病与薬 「とりあえずやってみる」で始めたモリビのkintone活用)。kintone hive東京、Cybozu Daysの登壇で注目を集めた僧形ではなく普段着で登壇。きったんさんから「ありがたい話」のリクエストを受け、「昨日の夜から話す内容を変える」というチャレンジに挑戦した。お坊さんのありがたい話である法話は、まずお経から始まるので、電脳ボウズさんも読経からスタート。西新宿のエンジャパンオフィスがいきなりお寺になる。
さて、「会社員をしながらお坊さんしている」という電脳ボウズさんは長野県の山形村に住んでおり、そこでお坊さんもやっている。仕事は長野市で不動産管理を手がけるモリビに勤めており、今回はkintone導入までのお話。「20年前から文明が一切進んでおらず、やらんでいうことをやるために人を雇用するみたいなおかしな状況になっていたので、いよいよこの会社も5年以内にはなくなってしまうんだろうなあ」(ということで、導入済みのkintoneの本格展開をスタートした。荒廃した社内を誰しも働きやすいいわば「極楽浄土」に変えるのがいわば電脳ボウズさんのミッションだ。
ITに詳しくない電脳ボウズがkintoneを触ってみた。夜中までいじってしまうくらい楽しかったが、「詳しくなくてもある程度できるということは、変なことまでできちゃうんだろうな」とも思ったという。また、全社導入しようにも、周りの反応はあまりよくなかった。しかし、目の前に立ちはだかる壁をよく見てみると、複数のブロックでできていることがわかった。「ということは、だるま落としのようにハンマーで崩していけば、乗り越えていきそう」と電脳ボウズは考えた。
まず大量のバインダーに収納されている紙の資料。「社内で要らないものありませんか?」と聞くと、二つ返事で「ありません」という答えが返ってきた。「必要です」「なくなったら不安」「なんでそんなこと聞くんですか?」などのコメントも来たが、一番多かったのはネオフォビア(新規性恐怖)と呼ばれる感情。「生まれて初めてのものを怖がる」ということで、電脳ボウズさんが出した例えはいわば「コオロギ食」だ。「だから、変わった方がよいこと、新しい方がいいことを、きちんと認知してもらうことが重要」と電脳ボウズさんは語る。
そんなときに読んだのが、「DXからペーパーレスをスタート」といった類いの記事。ここには「保管が必要か?」「電子化しちゃダメなのか?」「現物は要るのか?」などの社内情報の断捨離についての方針が書かれていた。これに沿って、書類やバインダーを整理した結果、保管しなくて済む書類がいっぱいになったという。
当然、保管の業務自体がなくなるので、空いた時間を有効に使えるのだが、ここでも意見も人それぞれ。いきなり、法話モードに戻った電脳ボウズさんは阿弥陀経の「蓮の花はそれぞれの色で咲いているからキレイでいい香りがする」という一説は、実は「どの花見てもきれいだな♪」というチューリップの歌と同じだと指摘。現代に当てはめていくと、これは1on1になるという。
こうしてモリビでは全社員がkintoneを使うようになったが、元々マイナス時点からスタートしているので、現在がほぼゼロに戻った状態だという。「500メートルも走れないし、1kmなんてとても無理というところから、ようやく1km走り切れた状態。会社の中ではゴールに見えるけど、引いてみたら、ほかの会社や業界はすでに10km走ろうという状態」とのことで、もっと次につないで走り続けていきたいという。
次は「社内でハンズオンワークを始めたい」とのことで、身近なものをお題にしてアプリを作ってみるシナリオを披露。「明日、全社会議なので、今のシナリオをやってみようと思います」とチャレンジすると宣言し、「うまくいかないのが当たり前で、うまくいったらラッキーくらい考えてれば、気が楽。さっさと失敗して、次へ行くというのが最近考えていること。別に大けがしないんで」とアドバイス。「明日、朝7時の特急あずさに乗ることが僕のチャレンジです!」とありがたい話をまとめた。
入社まもない2人が感じた「標準化」の強み
4つ目のセッションは、イベントを主催したエン・ジャパンのちったろとおかそんの2人。ちったろさんは業務用の厨房機器メーカーを経て、2022年11月に同社に入社。入社から3日後にはkintone開発者養成講座に参加し、ほぼ1ヶ月後には新規開発アプリをリリース。一方のおかそんさんは美容師と電気小売業を経て、2023年1月に同社に入社。こちらも入社から2ヶ月後には認定資格のアソシエイトを取得し、4ヶ月目には社内向けのkintone開発者の講師になっている。「教育カリキュラムも、アプリの作り方も標準化が進んでいるから、ここまで早い」とちったろさんは振り変える。
入社間もない2人から見ると、エン・ジャパンでの標準化は「とまどうレベル」だった。おかそんさんは「マニュアルには細かい手順が書いてない。正直できなくない?と言うのが心の内だった。もう1つはすぐに標準化する。1回しかやってないのに、標準化ってどういうこと?と思っていた」と吐露する。
気がついたのは、前職とエン・ジャパンで求められている標準化の違い。前職の標準化は、誰でも考えなくても同じように作業できることが目的で、手段は作業手順書。求められていたのは「業務の定型化」だ。一方、エン・ジャパンの標準化は、「共通の業務目的・背景を理解した上で、自ら考えて行動できること」が目的。手段は業務マニュアルで、求められるのは変化に適応し、改善できることだ。
業務の知識やノウハウは、おおよそ属人化しがちだが、標準化することで、他の人や別の事例でも利用できる。できる人が増え、即戦力かも容易になる。また、相手がわかるようにまとめる必要があるため、自らが標準化しながら学べるというメリットもあるという。
ちったろさんはエン・ジャパンのマニュアルを披露。アプリ開発マニュアルでは、なんのための改善なのか、ユーザーとは誰なのか?といった心得が最初に載せられている。また、実際のマニュアルのページでは、誰が、いつ、なにを、どんな目的のためにやるのかが書かれているが、具体的なマウス操作などは記載されていない。「マニュアルでありながら、自分で考えて行動する構造になっている」(ちったろさん)とのこと。また、開発したアプリがきちんと品質を担保しているか、リリースチェックも備わっており、作り手も安心してアプリを送り出せるという。
現在、2人とも標準化を進めており、ちったろさんはプロジェクト遅延時のマニュアル、おかそんさんは業務整理とツール選定を披露した。「最初にとまどった私たちだからの視点で、これからも標準化にチャレンジしていきたい」とおかそんさんはセッションを終えた。
イベントの後半は、本編よりラフで、雑多な内容のLT大会が開催。苦労だらけのkintoneプロジェクトの舞台裏のほか、資格試験への挑戦、kintone show+case unlimited登壇までの道のり、業務改善のフレームワーク紹介など、さまざまなテーマでの講演が披露された。登壇者のうち二人は、会社を辞めて、kintoneとコミュニティを続けるとのこと。それぞれの熱いチャレンジに会場の聴衆も沸き立った。