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業務を変えるkintoneユーザー事例 第211回

kintone AWARD 2023レポート後編 今年のグランプリ企業は!?

コロナ事務をkintoneで受け止めた北九州市役所 応病与薬で40万枚ペーパーレス化のモリビ

2023年12月19日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 2023年11月、幕張メッセにて開催された「Cybozu Days 2023」で、「kintone AWARD 2023」の発表が行なわれた。全国各地で開催されたkintoneのユーザー事例を共有するイベント「kintone hive」のファイナリストが再度プレゼンを行ない、観客参加型の選考を経てグランプリを決定する。

 kintone hiveは2015年から開催され、今年は4月の仙台を皮切りに、福岡、大阪、名古屋、松山、東京の6カ所で開催された。今年のAwardはそれぞれの地区のファイナリスト6社が登壇。前記事に引き続き、ラスト2社のレポート、そしてグランプリの結果を紹介しよう。

今年のグランプリの行方はいかに?

変化の激しいコロナ禍対応にkintoneとコミュニティの力で乗り越え、1万8000時間を削減

 まずは、九州・沖縄地区代表の北九州市役所 井上望氏による「新型コロナウィルス感染症への対応~保健所DXの道のり~」だ。押し寄せる新型コロナの波の中、保健所の業務がどのように変わっていったかをプレゼンしてくれた(関連記事:新型コロナの波にkintoneで立ち向かったある北九州市職員の戦い)。

 井上氏は昔からパソコンが好きで、いろいろなところでボランティアでシステムを作っていたそう。当時は、新型コロナの担当部署で、バックオフィスを担当していた。

北九州市役所 井上望氏

 新型コロナにおける業務は、ニュースでも報じられていたように、頻繁に取り扱い方が変わり、そのたびに事務対応も変わっていた。しかし、患者は重症化する可能性もあるため、スピード勝負となる。さらに、療養関連や物資・証明関連など、事務や係が多数分かれている。

 kintoneを導入する前は、まず医療機関から陽性者の発生届がFAXで届くので、患者に電話をかけて詳細を聞き取り、重症化リスクを勘案して入院か自宅療養かを判断する。その上で、自宅療養になった人には、最大10日間、電話による体調確認を行なっていた。

 これらの作業はすべて紙ベースで進む。ファイリングして対象者には付箋を貼り、業務終了後にボックスに戻すということを繰り返していた。しかし、日中はファイルが持ち出されるので、他の業務では利用できず、みんなファイルを独自コピーしたり、Excelに手入力したりして管理していた。

コロナ初期は紙で陽性者の情報を管理していた

 このような作業方法では、それぞれの情報が微妙に食い違ってくる。庁内にメールが飛び交い、コピーの山ができるなど、アナログな情報共有も課題だった。紙台帳も増え続け、探すのも大変だし、片付けるのも大変という状況に陥った。

 とは言え、第4波までは増員で対応していたのだが、第5波では2.6倍の200件を超えた。日中はひたすら事務処理をしながら電話をかけ、夜遅くになってやっと膨大な書類整理に着手するという状態に追い込まれる。さらに波が大きくなったら、対応できるのか戦々恐々としていた。

第5波までは増員で対応した

「北九州市は2021年6月、サイボウズとDX推進に関する連携協定を結びました。この中で、kintoneの活用募集が行なわれたので、渡りに船だと申し込みました。たまたま私がパソコンに詳しいということで、伴走支援を受けながら、自分たちで作ることになりました」(井上氏)

 しかし、実際に陽性者の管理台帳アプリを作成したものの、「入力画面が長すぎる」「文字の入力制御ができない」「年齢計算ができない」「和暦表示ができない」「帳票印刷ができない」と否定的なクレームがたくさん寄せられた。

kintoneを導入したが否定的な意見が挙がった

 さらには、市役所ではセキュリティを高めるために総合行政ネットワーク(LGWAN)を利用しており、一般的なプラグインや関連サービスが使えないことが多い。要件定義して開発しようにも、新型コロナの業務内容は気が付くと変わっているので、対応しきれない。そこで井上氏は自分でJavaScriptによるカスタマイズをすることに。属人化のリスクはあるが、コロナ禍はずっと続くわけではないと考え、カスタマイズの許可が下りたという。

 そのおかげで、台帳の管理業務が不要になり、コピーなども大幅に削減できた。なんと、年間2738時間もの作業時間を削減し、削減効果は年1000万円にもなった。

井上氏のカスタマイズが大きな業務改善につながる

 しかし、第6波は第5波の4.4倍となり、システムのキャパを圧倒的に上回る業務が発生した。他の職場から応援職員を呼んでも、保健所の機能は逼迫し、職員の疲弊もひどい状態に。

「この状況を案じた副市長の方から、組織の垣根を超えてプロジェクトチームを作る指示が出され、私の上席が現場責任者として指名されました。情報が集まり、業務全体の事務フローを分析したり、OODAループを回して改善できるようになりました」(井上氏)

 しかし、まだ難題は終わらない。電話で聞き取った情報の入力作業をkintone化することになったが、どうしても手間が発生してしまう。OCR処理をしてkintoneに連携する案も出たが、そう簡単には実現できない。井上氏は荷が重いと感じつつ、時は過ぎるばかり。そんな状況を打破するきっかけになったのが、kintone hiveだった。

「何か情報はないかと、福岡のkintone hiveに参加しました。kintoneには充実したコミュニティーがあります。特に私がお世話になってるのは、kintone devCampとimoniCamp。初心者向けのカスタマイズの勉強会とコミュニティーで、当時の私にとっては地獄に仏という感じでした」(井上氏)

 2022年8月、ついに第7波のピーク、約3000人の新規陽性者が出た。しかし、この最大の波をコミュニティの力とチームの力で乗り切ることができたという。第6波とほぼ同じ体制だったので、業務効率が3倍にアップしたと言っていいだろう。

様々なkintoneコミュニティに出会い第7波を乗り越えた

 入力の問題は、AI-OCRを使ってデータをkintoneに読み込み、効率は1.6倍にアップ。陽性者との連絡はジチタイワークスの「ジチタイSMS」とトヨクモの「kViewer」、「フォームブリッジ」を使い、連絡や受付事務を効率化。陽性者も情報の確認や申請をいつでも行なえるようになった。これらの効果は合わせて約1万8000時間の削減。とんでもない導入効果と言えるだろう。

 職場では業務を効率化するために自分でアプリを作ろうとする人が増え、チームワークの輪も広がった。これらの結果を受け、北九州市の全庁導入、8000ライセンスの付与が決定、今後、さらなる業務改善が進んでいくことだろう。

「kintoneの強みは、その人にできる範囲、その人が得意な方法でアプリが作れることです。悩んだ時、行き詰まった時も、コミュニティに同じ道を行く仲間がいます。一緒に一歩を踏み出しましょう」と井上氏は語った。

ジチタイSMSとフォームブリッジ、kViewerを活用して1万8000時間もの導入効果を実現

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