神戸港にある都市型水族館「átoa(アトア)」では、フィルム型センサーとSORACOMを用いた安価な漏水対策を実現した。また、ソラカメとAIを組み合わせることで、動物たちの生態研究にもつなげようとしている。átoaの担当者とパートナーである神戸デジタル・ラボに、水族館×IoTでの試行錯誤について聞いた。
圧倒的な非日常体験を提供する水族館 漏水対策に課題
2021年10月にオープンした「átoa」は、アクアリウム(Aquarium)とアート(Art)の融合というコンセプトを掲げた都市型水族館。神戸市中央区の新港突堤西地区と呼ばれる一角にできた神戸ポートミュージアム(KPM)の2~4階にあり、59基の水槽に約100種類、3000点の生物が展示されている。
átoaはアクアリウム×アートを謳うだけに、舞台芸術やデジタルアートなどがふんだんに盛り込まれており、普段われわれがイメージする水族館とは大きく異なる。館内の8つのゾーンはテーマに基づいた音や光、映像の演出が施されており、圧倒的な非日常体験を味わうことができる。
また、魚だけでなく、水とともに生きるさまざまな生き物にも会うことができ、オリジナリティあふれるフードやドリンク、グッズなども用意されている。近くには神戸の定番スポットであるハーバーランドやメリケンパークなどもあり、「フェリシモチョコレートミュージアム」も隣接している。神戸の新名所として、ぜひ訪れたい場所と言える。
さて、見た目華やかな水族館はスタッフたちによる不断の運用で支えられている。特に水族館は大量の水を使う施設なので、漏水対策が必須。水槽に亀裂が入るような破損事故は実はあまりないのだが、配管の老朽化、水交換時の人為的ミス、水草などによる排水の詰まりなど、漏水の原因はさまざまだ。水族館の運用を効率化するátoa施設課の課長を務める石原孝氏は、「お客さまには見えないところで、漏水はいつでも起こりえます」(石原氏)。
水族館にとって漏水の影響は大きい。石原氏は、「átoaの場合は、建物の1階は別のテナントが入っているので、漏水で電気系統がショートすると、建物全体に影響が及ぶ可能性があります。漏水で水槽の水が抜けると、最悪、魚が死んでしまう可能性もありますし、規模によっては営業停止に陥ります」と語る。
従来、水族館の漏水対策は中央監視前提の高価なシステムが必要だった。そのため、よほど大きな水槽で、漏れたら致命的という箇所しか水漏れセンサーは付けられないという。「あとから取り付けるのも高価ですし、工事で水槽を何日か止めないといけません」と(石原氏)。そのため、実際は現場の工夫や運用でカバーされていることも多いという。
また、中央監視型システムの場合、センサーはあらかじめ施設に埋め込まれてしまうことが多く、金属製のセンサーは⽣き物が住む⽔槽にはできれば⼊れたくないという現場の声もあった。現場で運用を支援する施設課の中島亮氏は、「コストを抑えつつ、現場で手軽に設置運用できるような漏水センサーはないだろうか?と思っていました」と振り返る。átoaに限らず、多くの水族館でカジュアルな漏水対策が求められているのである。
精度を高めるための試行錯誤は現場で実施
こうした声に対して地元神戸でシステム開発を手がける神戸デジタル・ラボ(KDL)が提案したのが、帝国通信工業の「静電容量式水位センサー」を用いた漏水検知ソリューションだ。静電容量式水位センサーは、フィルムセンサー(薄いシート型のセンサー)で、帝国通信工業では神戸デジタル・ラボの協力のもとで、この水位センサーを改良した「No-Blue」を提供している。
もともとは別の水族館で漏水の課題について聞いており、解決策を検討していた神戸デジタル・ラボが展示会でフィルム型センサーを見つけ、メーカーである帝国通信工業との協業を申し入れたのが2020年頃。
átoaに漏水検知ソリューションとして提案したのが、コロナ渦が落ち着いた2022年の夏頃。以降、神戸デジタル・ラボでIoTを担当する中西波瑠氏がフロントに立ち、átoaといっしょに漏水対策の共同開発を進めてきた。
当初はL字型のセンサーを水槽に貼り付け、漏水したらアラートが上がるという仕組みだったが、うまく検知できなかった。「飛沫がかかったり、湿気でセンサー全面が濡れてしまうと、漏水と認識してしまいました。アラートが上がったので夜中に見に来たら、水滴だったということもありました(笑)」と石原氏。その後、センサーの形状を先割れるように変更し、両方の先端が水に浸かると、水の中で通電し、漏水を検知するように改良した。これにより、片方が濡れる程度では誤検知せず、精度は一気に向上した。
No-Blueが水に触れると、信号がデバイスに流れ、SORACOM LTE-M Button Plusを経由して送信。ダッシュボード作成・共有サービスのSORACOM Lagoonに送られ、さらにLINEで通知される。「専用アプリも作れるのですが、現場で新たな事を覚える作業負担イメージが先行し、使ってもらえない。LINEであれば、説明なく使える方がほとんどなので、導入の敷居が低い」と中西氏は語る。通知は個人ではなく、グループ宛に来るため、そのままチームでのやりとりを経て、対応を協議できるというメリットがある。また、通知に関しては、SORACOM Lagoonに履歴を残すようにしている。「配管が詰まりやすいとか、今後は運用改善に向けたエビデンスにできればいいと思います」(中西氏)とデータ活用も提案していきたいという。
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