料理家ペギー・キュウさん/台北⇔東京の二拠点で実現する夢と商いのバランス
人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするインタビューシリーズ。今回は、台北と東京の二拠点で料理家活動をするペギー・キュウさんの働き方にフォーカスする。
世界的パンデミックで往来が遮断しても料理教室の道を模索
堪能な日本語と英語を生かし、台湾で外国人旅行者向けの料理教室を開いているペギー・キュウさん。コロナ禍以前は台湾と東京を毎月往復する二拠点生活を送っていた。
「カフェを併設した料理教室を下北沢に開店し、台湾の料理や文化を日本の皆さんにもっと身近に感じてほしいと頑張っていました。留学経験もあり、日本人の友達や東京にいる台湾人の友達も多く、店舗の改装など開店準備もみんなが助けてくれました」
店が軌道に乗り、日本語でのレシピ本出版も決まるなど、忙しくも充実した日々だったが、突然のコロナの流行により自由な往来に制限がかかった。
「レシピ本の撮影終了直後に慌てて帰国して以降2年もの間ずっと、来日することが叶いませんでした。もちろん台湾に来てくれる観光客もゼロ。収入源が断たれた上、先の見通しも立たず、これからという時でしたが東京の店を閉めざるをえない状況となり頭を抱えましたね。それでも日本に台湾料理のおいしさを広めたいという気持ちは消えませんでした。もともと二拠点で料理教室を開こうと思ったのは、台湾の教室に来てくださる生徒さんから『日本に戻ったら材料も調味料もないしどうすればいい?』と質問されたのがきっかけです。同様のテーマで作ったレシピ本がタイミングよく出版され、SNSの日本人フォロワーも一気に増えたので、台湾料理ブームの火を消さないようなんとかして道を拓こうと、知恵を絞りました」
折からの台湾ブームに加え、自粛期間中の料理やオンライン講座の流行で機運が高まったことにも背中を押され、台湾から日本人向けのオンラインレッスンを開始することに。
「できるだけ台湾で手に入る日本の食材を使用したり、カメラなどの機材や見え方を工夫したり、試行錯誤しながら、オンラインでも満足してもらえるよう改良していきました。SNSの投稿も増やし、台湾の市場の様子をライブ配信するなどして、台湾好きな日本の皆さんとの交流を続けられたのもよかったです」
“好き”だけでは進まない。時間とお金の余裕も重要な支え
この苦境を乗り越えられたのも、運転資金に対する普段からの厳しい目があったからこそ。
「“好き”を自分の仕事にするとき、重要なことは商売とやりたいことのバランスです。売上を増やすにはものの仕入れやセールストークなど、本来やりたいこととは別の仕事も相対的に増えます。体力も必要だし、この仕事でどこまでのお金がほしいのかを考えることも大事です。事業を継続するためには、時間やお金に余裕を持つことも重要。先にオープンした台湾の料理教室の開店資金などへの投資もすでに回収していたし、下北沢の店舗は貸し出すことで賃貸収入が得られたので、コロナ禍でもそこまでひどい赤字にはならずに済みました。補助金の制度なども外国人でも使えるかどうか調べて、使えるものは活用しました。台湾人は株や不動産投資など財テクに積極的で、友達同士でもお金の話をたくさんします。ビジネスでは多少リスクのある選択をしたとしても、仕事とは別の収入源を確保しておくことで生活は安定しますから」
コロナ禍が落ち着いた今、ペギーさんはまた日本で新しい挑戦をしようと考えている。東京でのカフェの経験から在庫管理や人材確保の難しさを実感したことで、もう少しフレキシブルでリスクを減らせる商売が理想だという。
「日本で台湾のお菓子の製造販売ビジネスをしたいと思って、店舗を探しています。円安の今がチャンスだったりもするのですが、安くはないので慎重に条件と金額が合うところを探しています。料理教室ももちろん継続しますが、年齢を重ねると体力的な面も含め自分ができる仕事の範囲も変わってくるので、新しいことに一歩踏み出すなら早いほうがいい。仕事のスタイルが変わっても、大好きな日本と台湾の文化交流の架け橋としてできることには変わりありませんから」
Profile:ペギー・キュウ
ぺぎー・きゅう/1975年、台湾生まれ。台湾料理研究家。堪能な日本語での料理教室が日本人旅行者から大人気。2017年、台湾中餐丙級證照( 台湾国家試験調理師資格)を取得。士林市場近くのスタジオで料理教室を行うほか、日本語のオンライン料理レッスンも不定期で開催している。著書に『決定版!日本の調味料と食材で とっておきペギーさんの台湾レシピ』『日本の調味料と食材で作る ペギーさんのおいしい台湾レシピ』(ともにKADOKAWA)がある。
Instagramアカウント:@peggy_taiwancooking
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誰かの役に立ちたいという思いで独立、料理を武器に夫とともに発信