アフターコロナで厳しいビジネス環境を強いられるPC市場だが、HPは2023年第3四半期、上位5社中唯一前年同期比で出荷台数がプラスとなった(IDC調べ)。現在レノボについで、世界2位のポジションを堅守するHPが、10月にオーストラリア・シドニーで開催された「SXSW by Sydney」でブースを設けた。
その理由は、「コロナ禍で製品開発にフォーカスしたものの、消費者との接点が減っていたから」(同社広報)とのこと。満を持して披露したのは、HP初のフォルダブル(折りたたみ)の「HP Spectre Foldable 17」、オールインワンの「HP ENVY Move All-in-One 24」の2製品で、すでに年内の国内発売も公表されている。
会場で、HPのバイスプレジデント兼アジア地区パーソナルシステムカテゴリ・トップのKoh Kong Meng氏が、日本から来た記者グループの質問に答えた。
AIとクラウド時代のPC
クラウドはこれからも重要。しかし、PCとAIには大きなチャンスがあるという。なぜなら、AIの処理をローカルなPCで実行するのは、クラウドよりも5倍高速だからだ。現在、インテルやAMDなどはNPU(Nural Processing Unit)と呼ばれるAI対応のCPUを開発しており、2023年内にも登場すると見られている。これを搭載することで、PCでのAI処理は高速かつ安価にできるようになる。
たとえば、Zoomなどのビデオ会議で、背景をぼかすなどの処理をする場合、CPUには大きな負荷がかかる。背景をぼかすのは、一見単純な作業のように感じるが、多数のAIアルゴリズムが走っている。PCが遅くなったり、バッテリー消費が激しいと感じるユーザーは多い。AI処理という点でNPUはパワフルで電力効率に優れる。こうした処理をNPUにオフロードすることで、PCの性能は高くなり、消費電力も改善する。
HPは今でもPC市場に大きなチャンスを感じている
コロナ禍以降も、実は世界的にPCの需要は堅調だ。IDCの数字では、コロナ禍以前、年間2億5000万台程度だった販売台数が、コロナ渦中には年3億5000万台に、現在は落ち着いたとはいえ、それでも2019年以前を上回るレベルで推移している。
HPでは、PCは「パーソナルコンピュータ」から「パーソナルコンパニオン」に進化するというビジョンを持っている。これまでPCは仕事で使うものだったが、コロナ禍でPCは仕事だけでなく、学習、エンターテインメントに不可欠なものとなった。単に持ち歩くデバイスではない。どのように使うのかという部分で変化しつつある。
SXSWで発表した2製品は、そのようなPCの変化を反映した製品となる。2製品ともに革新的なもので、製造・開発・販売とマーケティングで学びを得たという。
たとえば、製品開発では、Spectre Foldable 17には両面に1つずつ、合計2つのバッテリーを入れた。重量のバランスを考えてのことだ。ベゼルも上部・下部でできる限り画面を広く使えるように工夫した。画面を開くとノートPC、そしてタブレットになることを考えて、使いやすさや見栄えという点でさまざまな工夫を凝らしている。
Spectre Foldable 17は高価だが(国内販売価格は80万円弱!)、HPとしては、それに値するような価値がたくさん詰まっていると考えている。市場の反応が楽しみとのことだ。
一方の持ち運び可能なデスクトップPCのHP ENVY Move All-in-One 24は、バッテリーを入れて、自宅のどこでも使えるというシンプルな考えからスタートしている。シンプルだが、これまで誰も思いつかなかったアイデアだ。
日本市場ではゲーム、ワークステーションにチャンスあり
日本では特に、ゲーム・ワークステーションに強いチャンスを感じているという。ゲームは日本は世界有数の市場であり、ワークステーションはデータサイエンス関連、製造や建築での利用などで使われている。学びでは、GIGAスクール構想により、学校や自宅で学習するのにPCが確実に広く使われるようになってきた。
Windows 10のサポート終了が2025年に迫っているが、これを待つことなく、Windows 11への移行に向けた準備を支援を進める。たとえば、最新OSのPoCなど、移行のためのプログラムを用意する。移行を遅らせるとリスクは高くなる。Windows 7のときのように最後になって移行するのではなく、計画的に今から移行の準備をすることを推奨しているとのことだ。