エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第14回

開館20周年の森美術館(六本木ヒルズ)の展覧会『私たちのエコロジー』は、あたかもアートの領域展開のように”環境”を体感させてくれる

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 東京・六本木ヒルズの森美術館は2023年10月18日、開館20周年を記念して、『私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために』(〜2024年3月31日)を開幕した。世界16ヵ国、34人のアーティストによる歴史的な作品から新作まで多様な表現約100点を、四つの章で紹介している。10月17日のプレス内覧会で展示を見てきたが、エコロジーと言うテーマをダイナミックな表現方法で展開していて、特に映像作品は「環境」自体を体感できる刺激的な作品に圧倒された。

 キュレーションの大きなコンセプトとしては、「産業革命以降、特に20世紀後半に人類が地球に与えた影響は、それ以前の数万年単位の地質学的変化に匹敵すると言われ、この地球規模の環境危機は、諸工業先進国それぞれに特有かつ無数の事象や状況に端を発しているのではないか」(公式サイトから)、という問いから、この展覧会は構想されている。

 美術館全体を活かし、天窓や大きな窓などで、建物の外ともつながった、まさにアートの領域展開と言った迫力を感じられる。

長澤伸穂さんと彼女のアート『野焼き』(1984年)を写真と映像で見せている展示

ニナ・カネル『マッスルメモリー(5トン)』(2023年)。海洋性軟体動物の殻を利用した造園材料

輸送を最小限にし、可能な限り資源を再生利用するなどサステナブルな展覧会制作にトライし、前の展覧会の展示壁および壁パネルを一部再利用して、塗装仕上げを省いた思い切った会場づくり 

 「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」と言うタイトルは、私たちとは誰か、地球環境は誰のものなのか、という問いかけを意味している。環境問題をはじめとする様々な課題について多様な視点で考えることの提案だ。会場づくりでも、輸送を最小限にし、可能な限り資源を再生利用するなどサステナブルな展覧会制作にトライしていて、現代アートやアーティストたちがどのように環境危機に関わり、また関わり得るのかについて考えるきっかけを提供している。できる限り作品というモノ自体の輸送を減らし、作家本人が来日し、新作を制作してもらうことを計画し、アーティストを文化の媒介者と捉え、モノの移動よりも、人的なネットワークや繋がりを構築することにエコロジカルな価値を見出したわけだ。日本でのリサーチに基づいて制作された新作群は、展示室のスペースの半分以上を占める。

前の展覧会の展示壁および壁パネルを一部再利用し、塗装仕上げを省くことで、環境に配慮した展示デザインとなっている。また、世界初の100%リサイクル可能な石膏ボードを採用するほか、再生素材を活用した建材の使用、資材の再利用による廃棄物の削減など省資源化に取り組んでいる

 展示の構成は、第1章「全ては繋がっている」では、環境や生態系と人間の活動が複雑に絡み合う現実に言及。第2章「土に還る」では、1950〜80年代の高度経済成長の裏で、環境汚染が問題となった日本で制作・発表されたアートを再検証し、環境問題を日本という立ち位置から見つめ直す。第3章「大いなる加速」では、人類による過度な地球資源の開発の影響を明らかにすると同時に、ある種の「希望」も提示する作品を紹介している。最終章である第4章「未来は私たちの中にある」では、アクティビズム、先住民の叡智、フェミニズム、AIや集合知(CI)、精神性(スピリチュアリティ)などさまざまな表現にみられる、最先端のテクノロジーと古来の技術の双方の考察をとおして、未来の可能性を描く。

■気になった展示 

モニラ・アルカディリ『恨み言』(2023年) 

 養殖真珠を主題に、自然の生態系に深く介入する人間の欲望と夢について探究した新作。

ニナ・カネル『マッスルメモリー(5トン)』(2023年) 

 海洋性軟体動物の殻を利用した造園材料が敷き詰められていて、その貝殻を観客が踏みしめる感覚と音を体験できる。観客によって粉砕された貝殻は、展覧会終了後、セメントの原料としてさらに再利用される予定。

西條 茜『果樹園』(2022年) 

 陶を素材に自身の体をモチーフに有機的な形状の立体作品を制作してきた。近年は陶磁器の内側が空洞であることに注目し、作品に、鑑賞者が息を吹き込むことで、身体や内臓感覚を拡張し、他者とのコミュニケーションを図る装置としての大型作品を手掛けている。この作品も、いくつか開いた穴に複数の鑑賞者が息を吹き込んで音を奏でられる仕組みになっている。

アサド・ラザ『木漏れ日』(2023) 

 アサドは日常に構造的な変化をもたらして、アートと生活を一体化させる「状況」を生み出す作家だが、六本木ヒルズ森タワーの53階にある森美術館の位置に注目し、長年故障していた天窓のロールスクリーンを“修理”して、太陽光が入るようにした。足場も伝統的な部材、檜を使用し、「あるべき姿への再生」を祈念して、六本木の朝日神社の宮司による神事も行われた。会期中は、この部屋の照明は消され自然光が差し込む。日没後は、シルヴィー・セマ・グリッサンによる音響作品『ヴィヴァン』が流される。カリブ海のマルティニークで録音されたものだ。

長澤伸穂『野焼き』(1984年) 

 愛知県常滑市で1984年、地元住民を巻き込んで行われた野焼き彫刻プロジェクト『野焼き』を写真や当時の映像で見せている。この作品は万里の長城にインスピレーションを受けて、土と海水で壁が作られ、7日間にわたって野焼きされた。最後には猛烈な炎が空気の対流を起こし雲を呼び雨が降った。壁には穴があけられていて、焼きあがってからは、風が通り抜けるときに口笛の音が響く。この土の壁はやがて風化し土に戻り、今はオアシスのように緑がいっぱいだ。日本で古来行われてきた野焼きは再生の儀式だった。映像は16分に編集されていて、40年前に、一緒に制作に加わった仲間や子供たち、近所の人の作業や語らいや食事が収められていて、昨日のことのように何が起きたかを伝えてくれる。

 会場では、ニューヨークから駆けつけた長澤さん自身が、映像とともに、当時の話をしてくれた。

■考え抜かれた展覧会グッズ

 今回のテーマに沿って、様々な仕掛けが施されたグッズが楽しく伝わってくる。

■開催概要

タイトル  森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

会期     2023年10月18日~2024年3月31日  会期中は無休

会場    森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F)

開館時間  10:00~22:00
     ※火曜日のみ17:00まで 
     ※ただし2024年1月2日、3月19日は22:00まで 
     ※ただし10月26日は17:00まで 
     ※最終入館は閉館時間の30分前まで

料金  [平日] 一般 2,000円(1,800円)、学生(高校・大学生)1,400円(1,300円)、子供(4歳~中学生)800円(700円)、シニア(65歳以上)1,700円(1,500円) 
    [土・日・休日] 一般 2,200円(2,000円)、学生(高校・大学生)1,500円(1,400円)、子供(4歳~中学生)900円(800円)、シニア(65歳以上)1,900円(1,700円) 
    ※専用オンラインサイトでチケットを購入すると()の料金が適用される。 
    ※音声ガイド付チケット(+500円)も販売中。 
    ※本展は、事前予約制(日時指定券)を導入している。
     専用オンラインサイトから「日時指定券」を購入出来る。 
    ※専用オンラインサイトはこちら
    ※当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしで入館可能。 
    ※表示料金は消費税込。

公式サイト https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/eco/index.html

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