「バカげた音質、ロックな価格」。ちょっと過激なキャッチフレーズで展開中の完全ワイヤレスイヤホン「model i ANC」はアンダー1万円の手ごろな価格で、ノイズキャンセリング機能や強力なサウンドメイク機能を備えた注目イヤホンだ。
敢えてこの製品の音を決めないスタイル
JPRiDEは、Amazonなどを中心にイヤホンを展開している、知る人ぞ知る国内ブランド。音楽好きの創業者が本当に納得のいくものだけを製品化するコンセプトで、一流ブランドが依頼する工場への製品委託や中間コストや無駄を減らし、低価格を目指している。音楽の裾野を広げることを目指したブランドなのだ。
model i ANCは、今年の夏から販売している機種。面白いのは「うちのイヤホンが目指すのはこういう音色」というメーカーの色を敢えて決めていない点だ。代わりに50種類以上のプリセットと精度の高いイコライザーを用意し、「自分の好き」を極限まで追求できるようになっている。これができるのは、メーカーの開発者が音作りに利用するDSPの設定項目をユーザーにほぼすべて開放しているため。ある意味、メーカーの音質責任者がやっていることをユーザー自身がこだわれる製品になっている。
JPRiDEは「好きな音と出会える、唯一のイヤホン」と本機種をアピールしているが、微細なパラメーターの調整に試行錯誤するのは、マニアにとって魅力がある。聴く音楽や気分に応じて使うイヤホンを変えるという人もいるかもしれないが、model i ANCであれば1台でさまざまな音色を楽しめるというわけだ。
超個性的なパッケージ
前衛的なビジュアルが目を引くパッケージはCDケースとほぼ同じサイズ。お気に入りの音楽と並べておきたい。
スティック型の本体は装着しやすく、ラウンド型とオーバル型のイヤーチップ2種類を同梱。フィードバック/フィードフォワード方式を組み合わせたハイブリッド型のノイズキャンセリング機能や通話のノイズキャンセリング機能であるENC、風切音抑制、IPX4防滴なども搭載。重量36gと小型のケースで、本体は片側5g。ANCオフで約7.5時間の利用ができるなど、機能的にも満足のいくものとなっている。
BluetoothのコーデックはSBC、AACに対応。ユニットは10mmのダイナミック型ドライバー1基になっている。
豊富な設定項目を持つ「サウンドメイク」アプリ
メーカーのエンジニアがイヤホンを作り込む際に使う機能をほぼ開放。プリセットの選択、そのカスタマイズ、さらにはゼロから新規音色を作ることも可能。EQだけでなく、ゲイン設定やフィルターのコントロールもできる。
バンド数は10(調整できる周波数帯)で、20~20kHzの間で自由に設定可能。フィルタータイプはLow-Shelf、Bell(Peak)、High-Shelfの3種類、Q値は0.25~32の範囲、ゲイン調整幅は-12dB~12dB、マスター音量調節は-100~12dBが可能となっている。
専門的な用語が多くなったが、Bell(Peak)というのは好みの周波数帯の音圧を上げ下げできるフィルター。ターゲットとする周波数の強さを変えるというもの。この周波数が山の頂上だとすると、Q値は山の裾野広さ、ゲインが山の高さに相当するというわけ。Bell(Peak)は山(もしくは谷)形のフィルターだが、Low-Shelf、High-Shelfはより広い帯域の音圧を調整するためのフィルター。ハイカット・ローカットのように特定の周波数より上もしくは下の帯域の音を一気に落とす調整をするために使うフィルターだ。マスター音量は全体の音圧を変える項目。全体を上げれば当然音圧が高くガツンとした印象の音になる。
超ざっくりとした説明になるが、イコライザー(EQ)にはいくつかの種類があり、調整できる周波数帯が決め打ちのEQをグラフィックEQ、周波数帯に加えてQ値の調整もできるEQを“パラメトリックEQ”という。イヤホンなどに搭載されるEQは低域、中域、高域の3バンドの調整できるグラフィックイコライザー程度のものが多く、高級機種ではバンド数が増える。シュアのハードウェアEQのように一部パラメトリックEQ対応のものもある。ただし、10バンドというのはかなり珍しいと思う。
どういう効果が得られるのか
オーディオのレビューなどでは、この製品の音色は解像感が高く声の抜けがいいとか、リッチでウォームなサウンドなど、音の傾向を言葉で表現するケースが多いが、こうした印象の多くは製品の周波数特性に依存する場合が多い。
例えば、解像感を上げたいなら子音に相当する数千Hzの帯域を少し持ち上げる。ウォームな音にしたいなら逆に高域を下げて、中域や低域を中心に聴かせるといった調整を加える。これらの設定を細かく積み重ねることで、トーンバランスという音の個性が決まるのだ。普通のイヤホンではこれを素材や形状などの物理特性で調整するが、完全ワイヤレスではデジタルのDSP処理が使えるので、アプリなどを利用してより細かく設定を変えることができる。
サウンドメイクアプリの活用方法は、model i ANCの製品サイトやJPRiDEの公式noteでも詳しく紹介されている。
イコライザーというと音質劣化の原因だと捉えられがちだが、デジタル処理では弊害は少なく、うまく使いこなせば、劇的な音質改善につながることもある。とはいえ、通常の製品で提供されているのは、メーカーが決めた基本線に沿ってユーザーがアレンジを加える程度のもの。破綻しない範囲で好みの音に調整できるという安心感があるが、体験できるのはポテンシャルのほんの一部なのだ。
一方、JPRiDEのmodel i ANCではこうした制約をすべて取り払い、普通は開発者しか使わないような調整機能を全開放している。サウンドメイクアプリのプリセットに入っているのはこうした思想で用意したとんがった設定だ。
“オール・ラウンド”のようにバランス感を重視した設定もあるが、「ドンシャリにしてやる」「音圧とデジタルと私」などユニークなネーミングで個性バリバリのプリセットもある。プリセットの切り替えだけで、まったく別の機種を手にしたかのような印象が味わえるのだ。
プリセットはカスタマイズもできるし、イチから自分で作ることもできる。人に共有することも可能だ。つまりどんどん増えている。音楽に合わせてイコライザーを追い込むという使い方はもちろんありだが、設定によっては〇〇というメーカーの名機××風といった感じにもできる。要するにまったく別物のイヤホンにできるのがサウンドメイク機能なのだ。
JPRiDEの説明では、繊細な高域、強烈な重低音、クレイジーな音圧、マイルドな甘い中域、ロックが気持ちいいエッジが効いたサウンド、ボーカルが耳元でささやく豊かな中域、きらびやかなアコースティックサウンド、アナログライクなローファイ音、ハイファイなプレゼンス……などの表現がある。こうしたこだわりもできるし、「Premium 2020“LIBERTY”」や「Premium 1980“Blue MOON”」など、JPRiDE内の有線ハイエンドイヤホンに寄せた設定も用意されている。明示されていないが、有名ブランドのオマージュ的なものもありそうだし、自分でもできそうだ。
自分の理想を実現するため、微細なパラメーターの調整に1日試行錯誤してしまった……。そんな、マニアの休日のお供にもできる製品だ。
ちなみに、今週末9月2日(土)~9月4日(月)の3日間、Amazon.co.jpで、model i ANC の期間限定セールを 【ロックな価格キャンペーン@2023秋】と題して実施。30%オフで、1%のポイント還元も得られる。商品詳細ページに設置されるクーポン取得メニューで配布するプロモーションコードと、対象商品ページに設置される割引クーポンを併用すると最大割引率(ロックな価格)が適用となるそうだ。