PC自作の常識は世間の非常識? 第4回
ただし「VGA」、てめーはダメだ
あなたはグラフィックボード派? ビデオカード派? PC初心者を惑わすアイツの呼称問題
2023年08月08日 09時00分更新
■アイツの表記を統一できないワケ
こんにちは、ジサトライッペイです。みなさんはディスクリートGPUを搭載する映像出力用PCパーツのことを、なんと呼んでいますか? 僕は「グラフィックボード」です。略して「グラボ」。うん、シンプルでわかりやすい呼び方です。
ほか、「グラフィックカード」や「ビデオカード」もよく聞きますよね。また、「グラフィック」を「グラフィックス」として、「グラフィックスカード」や「グラフィックスボード」なんて表記もあります。
ある程度PCに詳しい人なら、上記のいかなる表記でもそれが「ディスクリートGPUを搭載する映像出力用PCパーツ」のことだとわかるでしょう。しかし、PC初心者はとまどうと思うんですよ。人によっては、呼称がたくさんあるとストレスになって、PCのことが嫌いになりかねません。
僕もはじめてPCを自作した時はかなり当惑したものです。「何で業界で呼称を統一しないんすかね」と先輩に聞くと、「深く考えてはいけない。ツッコミすぎると誰かとケンカになるから」と諭されました。
当時の僕は「業界統一表記」を作ったほうが業界のためになるという想いが強く、到底納得できる回答ではありませんでした。しかし、編集者としてのキャリアが長くなればなるほど、表記統一制作のやっかいさも学んでいくことになったのです。
記事を制作している時、取材をしている時、会議をしている時。表記の話はさまざまな場面で話題にあがります。しかし、多くのケースで紛糾する事態となるのです。ふだん温和な人でも、口の端が泡立てながら犬歯をむき出しにして激昂することも。時に「言葉の制限」にかかわる議題は、人間を動物に戻すのです……。
だって弊社ですら、ASCII.jpでは「ビデオカード」で、週刊アスキーでは「グラフィックボード」ですからね。2015年に編集部が統合され、どちらにいた編集者もすべてのメディアで執筆しているのにもかかわらず、いまだこの断絶。「グラフィックボード」と「ビデオカード」の間には、大きくて冷たい壁があるのです。
■「ビデカ」って言う?言わないよね?ねぇ?
もちろん、ことここに至るまで、我々は何度も話し合ってきました。編集部で、オンラインで、外出先で。しかし、議論は平行線のまま、いまだ表記統一はなされておりません。では、その主張をそれぞれ見てみましょう。
まずは僕を含むグラフィックボード派でよく聞くものから。
【グラフィックボード派の主張】
・略称で呼ぶ時、「ビデカ」より「グラボ」のほうが多い
・そもそも現行製品は「カード」と呼ぶにはあまりにぶ厚い
・てか、いまさら「ビデオ」てw
続いて、ビデオカード派でよく聞く主張です。
【ビデオカード派の主張】
・Google検索のヒット件数が圧倒的に多い
・「拡張カード」から来ているので、こちらが正統派
・いやいや「ビデオ」って映像のことでVHSのことじゃないからぷぷーw
なお、この記事を査読してもらった編集部のオカモトさん(ビデオカード派)によれば、「英語を基準にすれば、あれは“ボード”ではない。英語版Wikipediaの『Graphics card』の項目でも『Graphics board』と呼ぶ例はない」だそうです。
などなど、あげればきりがないので代表的なものをピックアップしましたが、どちらも正当性のある主張で明らかな間違いとは言えません。正義の反対が、また別の正義であるように、グラフィックボード派もビデオカード派も互いに妥当っぽく見える理由をかざして戦っているのです。
そして、ここにグラフィックス派の「英語では“Graphics”と表記するので、“グラフィックス”とすべき」という意見が入り、「いやいやグラフィックでも十分伝わるのだから文字数を削るべき」という雑誌ならではの主張もあり、毎度議論は混迷を極めるのです。
こんな言い争いの果てに、いつしか僕は貝になりました。なぜなら、メディアの方向性も表記も本来は編集長が示すべきことなので、サラリーマンとしてはおとなしくそれに従ったほうが合理性があると判断したからです。言い争ってもおなかが減るだけです。どちらも正しい主張なら、ことらさら騒ぎ立てることでもないでしょう。
今、あの時の先輩の気持ちがようやくわかるようになりました。表記に文句があるなら、自分が偉くなってその決定権を手に入れるか、さらに言葉を尽くして時の為政者を説得するべきでしょう。それがサラリーマンってやつでしょう。
■ただし「VGA」、テメーはダメだ
そんしょっぱい処世感を持っている僕でも、さすがに避けたい表記が「VGA」です。調べてみると、Video Graphics Arrayの略で、もともとは1980年代に発売したIBM製パソコンの映像表示システムの名称なんだそうな。その当時の解像度は640×480ドット、端子はD-sub15ピンだったことから、同解像度や同端子のことを今でも「VGA」と呼ぶんだそうですよ。
ふむ。つまり、今の「VGA」っていろんな意味を持つ言葉になってしまっているってことですよね? ってことは、誤解をまねきやすい単語になってません? 極端な話、「VGA(グラボ)のVGA(D-sub15ピン)からVGA(解像度)の映像を出力する」って文書が成り立つってことですよ。
わかりづらくないですか? 「グラボのD-sub15ピンからVGAの映像を出力する」のほうが、圧倒的に読みやすいですよね。もちろん、その単語が持つ意味を考えれば、完全なる間違いではないですよ。ええ。でも、どちらの可読性が高いかは一目瞭然でしょう。
でも、「グラフィックボード」表記を許容しないメディアだと、「グラボ」という略称も表記統一の都合上使いづらいということも。かといって、「ビデカ」は使いたくない。そんな時、つい「VGAステイ」とか「VGAクーラー」って書いちゃうんですけどね。へへへ。
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