このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第195回

伝統の内子座で行なわれた中国・四国地域のkintone hiveトップバッター

町役場はアナログで当然? 出向職員がkintoneで変えた業務と現場の意識

2023年08月28日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

月に100通を超える請求書と口座の突き合わせを自動化

 もう1つの事例は、役場の総務課が抱えていた課題だった。総務課では毎月、町が管理する施設の電話、電気、水道料金の請求書を、バインダーに閉じるという業務が発生していた。その数は月間100通以上に達しており、職員に大きな負担がかかっていた。「例えば道路上の電柱1本につき、1枚の請求書が役場に届く。職員は封書から請求書を取り出し、内容を確認した後は束ねてパンチ穴を開け、ファイルに保管する。作業を終えたファイルは、二度と見ることはなく、ただ保管するだけのためにこの作業を繰り返していた」(角南氏)

 また、紙の請求書の内容をExcelに入力して一覧表を作り、町の銀行通帳を見て、引き落としと突合する作業も必要だった。金額が合わなければ、請求書の入力からやり直し、合致するまでチェックを繰り返した。「この作業は1人の職員が毎月2、3日かけて行い、年間では30日を要していた」(角南氏)

 じつは、電気料金など、町が外部の取引先から受け取っている請求書は、大部分がデータをダウンロードできる仕組みを用意していた。角南氏はkintoneで「取り込みデータアプリ」を作り、データの電子的な入手を図った。一部、データ化されていない取引先は、CSVファイルを送ってもらうことにした。

 受け取った請求明細のデータや銀行口座の明細データは、ExcelまたはCSVファイルのどちらかだが、データの書式は取引先ごとに異なる。そこでアプリでは、アップロード時に取引先名を指定すると、データの並びを変換し、集計可能な形式に整えてkintone上に保存する。

 データの取り込みに成功したデータは、「伝票入力アプリ」にインポートする。全ての取引をインポートして、銀行残高と請求額の突き合わせをkintoneのグラフ機能で簡単にできるようにした。

様々な形式のファイルを変換して活用

業務時間の95%削減も視野に入る

 ここで一件落着と思った角南氏だったが、「データが合わない」という問題が発生した。調べてみると、取引先がデータを送る際、請求書からデータを手入力していたため、請求の内容と食い違っていることがあった。そこで、データがおかしいと気づいたときに、レコードにコメントしてもらうことで、担当者経由で取引先に確認してもらうことにした。「レコード単位でコメントが入れられるkintoneのメリットを活かすことができた」(角南氏)

 このアプリによって、作業が順調に進んだ月では、3日かかっていた作業を1時間で完了することができた。単純計算で年間12時間、手作業の業務と比べて95%の時間削減が可能になる。角南氏は現場職員と連携し、この目標に向けてアプリの調整を進めている。

 この2つの事例を皮切りに、アプリの導入で業務改善が進んだ現場からは、「角南氏に相談すれば業務が改善する」とわかり、他の業務についても改善の依頼が寄せられた。「kintoneをはじめとしたツールの使い方を習いたいと申し出る職員も出てきたため、今後は講習会も開いていきたいと考えている」(角南氏)

 kintoneの成功事例によって、役場で普通に行われていた業務は、じつは改善できるということに職員が気づきはじめたと、角南氏は話す。

 神山町役場では、2018年から業務改善を開始しているが、kintoneを導入した課の数は、2021年に2つ、2022年は5つまで増えた。

 ゆっくりだが着実な進展に手応えを感じた角南氏は、役場内でDXに関する勉強会の実施を提案する。提案は認められ、庁内の各課から1名が参加する会議が実施されている。「窓口業務のDXで有名な、北海道北見市の市役所に視察に行った。その報告会も行い、効果が高いことが確認できたので、神山町の窓口業務を改善するプロジェクトがスタートした」(角南氏)

「困りごと」でなく「ストレス」に注目

 ここまでの取り組みを振り返り、角南氏は、kintoneによる業務改善を成功させるポイントを3つ紹介した。

 1つめは、困りごとよりもストレスに注目することだ。「職員に『困ったことはないですか?』と聞いても、普段の業務に慣れ過ぎていて、困りごとは何も出てこない。そこで『ストレスはありませんか?』と聞くと、面倒なこと、できないことなどの意見が飛び出し、具体的な課題を抽出することができた」(角南氏)

聞き方一つで改善課題が抽出できる

 2つめは、「客観視」が必要ということだ。「業務を客観視することで、人は変わっても、業務改善を残すことができる」(角南氏)。現場の職員は異動が頻繁にあり、業務がおかしいと思っても自分が担当する短い期間に改善する必要はないと考え、そのまま続けてしまう。そのため、業務改善には業務を俯瞰的に分析し、提案できる人が必要だという。

 そして3つめが、現場主体による改善の重要性だ。地方自治体は予算の獲得が厳しいため、トップから改善提案が降りてくることは少ない。そのため、現場から逆に提案を上げていかなければいけないと話す。「そこで必要なのは、開発コストが安く、スピード感があるツールだ。kintoneは、その点でまさにピッタリだったので、ツールとして選んだ」(角南氏)

 角南氏は「職員たちは、住民サービスがよくなることを最優先に考えて業務にあたっている。私はこれからも、職員の業務改善をサポートしていきたい」と最後に語った。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事