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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第198回

マイナンバー問題 「カードが原因」という誤解

2023年08月01日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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マイナンバーカード

当たり前だけど、マイナンバー制度と
マイナンバーカードは違う

 近頃、よく目にする「マイナンバーカードのトラブル」のニュース。「保険証で他人のデータが出た」「コンビニで住民票を取ったら違う人の書類が出た」など……。ニュースを見るたびに、心配している人も多いかもしれません。

 筆者は、マイナンバー制度やマイナンバーカードに対して、積極的な推進派でも否定派でもありません。ただ、フリーランスとして、比較的早い時期からテレビ局や出版社などにマイナンバーの提供を求められてきました。

マイナンバーカード

フリーランス(自営業)では、マイナンバーを提供しないとお金が振り込まれないケースも

 つまり、悪用やトラブルを心配するより、出演料や原稿料が振り込まれないと困る……という立場でした。

 そういった理由から、「マイナンバー」に関しては、多くの人よりも一足早く触れることができたかもしれません。

制度とカード、切り分けると理解しやすい

 マイナンバーカードにまつわるトラブルを理解するには、まず、制度とカードが違うモノだと考えるとスッキリします。

●マイナンバーは、カードの有無にかかわらず、住民票がある人に必ず割り当てられる12桁の個人番号。
●マイナンバーカードとは、表に顔写真と住所、氏名、生年月日に、裏に12桁のマイナンバーも記載されているカード。

 当たり前に思えるかもしれませんが、まず、上記の2つの違いを理解しておく。それが最初のステップです。そうすると、ニュースやトラブルの内容も理解しやすくなります。

カード自体のトラブルか、そうではないのか

 たとえば、上で紹介した「保険証として使ったら、端末で他人のデータが表示された」ケースでは、ざっくり言えば、いままでの保険証との紐付けが間違っていたことになります。つまり、カード自体のトラブルではありません。

 「ICチップや磁気ストライプの記録が壊れていて、カードが読み取れない」と窓口で言われた場合は、キャッシュカードと同様に、カードそのものによるトラブルです。

 ICチップ部分や磁気カードの不良だった場合、再発行には申請から1ヵ月半ほどかかります。さらに800〜1000円の再発行手数料が必要なことも覚えておくといいかもしれません(盗難など、手数料がかからない場合もあります)。

 「保険証としてマイナンバーカードを利用したら、問題が起きた」というトラブルの解決策としては、いままでの紙の保険証をバックアップとして準備しておくのが簡単な方法でしょう。

どうやったら解決できるのかを考える

 上で紹介したICチップや磁気ストライプの不具合もありますが、マイナンバーと各種データの紐付けの誤りなど、カード自体の問題ではないトラブルも多いのです。

 今年の3月〜5月、マイナンバーカードを使ったコンビニ証明交付サービスで、他人の住民票や印鑑証明などが印刷された事件が大きく報道されました。その原因は「アクセスが集中し処理が遅れ、タイムアウトでロックがはずれる不具合(2023年3月)」「住民の転出、再転入した場合の不具合(同年5月)」などとされました。

 多くの人を不安にさせましたが、いずれの不具合もプログラムが改修され、同6月に全国の自治体によるシステム点検を終えていると発表されています。

 ただ、利用者にとって、これらのトラブルはマイナンバーカードを使ったときに気が付くことになります。ニュースでも「マイナンバーカードを使用した際に……」と報じられる面もあるでしょう。そのため、カードそのものがトラブルの原因だと思ってしまいがちです。

 しかし、「トラブルが多いから」とカードを利用しないようにしたり、返納したりしても、マイナンバーの“制度上”のトラブルの防止や解決にはならないことも多い……筆者はそう考えています。

 いたずらに「マイナンバー(カード)はトラブルが多い!」と決めつけず、ニュースに対して「このトラブルは何に由来するものか(どうやったら解決できるのか)」を考えることが大切でしょう。

 なお、マイナンバーは、引っ越しでの住所変更やカードの期限切れなどで再発行しても変わりません(ただし、盗難などで悪用が懸念される場合は、新番号の交付もあるそう)。

身分証明書として使うときの注意

 マイナンバーカードを、身分証明書として利用される方も多いでしょう。

 銀行や勤務先(自営業なら、報酬を支払う企業)、公的機関以外は、マイナンバーカードの裏面を記録すること、すなわち個人番号の書写しやコピーが禁じられています(参考:)。

 それ以外の場で(ネットカフェやスポーツクラブなど)、身分証明として提示する場合は、裏面の個人番号を隠すスリーブを入れて提示します。

 公式のスリーブでは、番号だけを隠しても、スマホなどでQRコードからマイナンバーが判明するおそれがあります。そのため、筆者は100均などにあるシールをスリーブに貼ってトラブルを防止しています。

マイナンバーカード

公式のスリーブを使う場合、筆者は左下のQRコード部分に100均のシールなどを貼る

 身分証として使う場合、個人番号は過度に秘密にする必要はなく、マイナンバーを「相手に見られても大丈夫」だそう。このあたりは、一般的にはすこし理解しにくい付き合い方かもしれません。

参考:厚生労働省のマイナンバーカードの解説
厚生労働省「持ち歩いても大丈夫!マイナンバーカードの安全性」

 身分証明書として持ち歩く時の注意は以下の通りです。

●ICチップと磁気ストライプがあるので、強い磁気に近づけたり、ICチップ部分が濡れた状態で機械に入れない(キャッシュカードと同じ)

●暗証番号(4桁の数字)、署名用電子証明パスワード(数字とアルファベットの16桁の文字)を書いたメモと一緒に持ち歩かない

●勤務先や銀行、公的機関以外では、カードの裏面、個人番号とQRコードを記録(コピーや番号の書写し)には注意する(ただし、個人番号を知られただけでは悪用は困難とされている)。公式のスリーブを使う時は、裏面のQRコードをシールで隠しておく

問題を切り分けると、取り扱いの不安や心配は少なくなる

 カードに何かがあると思われがちですが、実はそれ以外のところに理由がある。完全に秘密にすることは無理だけれど、不特定多数には知られないようにする。それらは、マジシャン同士では共有してきたマジックのタネと似ている気がしています。

 問題があったのは、システムなのか、物自体なのか。あるいは、何を見せて、何を見せないのか。そう問題を切り分けると、取り扱いの不安や心配は少なくなる……。

 何十年もマジックのタネと明るく付き合ってきた筆者は、そんなふうに思っているのですが、いかがでしょうか。

前田知洋(まえだ ともひろ)

前田知洋

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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