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業務を変えるkintoneユーザー事例 第185回

在宅勤務体制の構築にあわせてkintoneで業務改善を進めた八代製薬

1人で始めた業務改革をコミュニティが助けてくれた 今は主催者として恩返し

2023年07月05日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 大阪で開催されたサイボウズのkintoneイベント「kintone hive 2023 osaka」の2人目は、八代製薬の喜田晃大氏が登場。在宅勤務体制の構築にあわせてkintoneによる業務変革を推進した喜田氏は、「体育会系 非IT 未経験経理が順風満帆なkintoneライフを送る話」と題して講演した。

八代製薬 総務部 喜田晃大氏

在宅勤務の対応が、業務変革の絶好のチャンスに

 同社は大阪に本社を置く医薬品の原薬を製造する企業。顧客は製薬会社である。喜田氏は2011年に入社し営業部に配属。1年後の2012年には総務部に異動、経理を担当することになった。異動直後に驚いたのは、経理部では誰もPCを使っていなかったことだ。すべての業務は紙を使っていた。喜田氏の最初の仕事は、PCの導入を会社に申請することだった。

 ようやく会社としてはPCを使うことに慣れてきた2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国のロックダウンが始まった。このとき同社の工場長が、「いずれ日本でも出社ができなくなる。今のうちから在宅勤務できる環境を作ってほしい」と喜田氏に依頼する。

 定型的なアナログ企業だった同社には無茶な要求にも思えたが、じつは喜田氏は、その1年ほど前からテレワーク環境の調査を進めていた。というのも、喜田氏の家庭には2019年に第一子が誕生しており、在宅勤務の必要性を実感していた。喜田氏は、いつか会社に提案しようと、業務においてクリアすべき課題や必要な社内規定などを検討していたのである。

「工場長の一言は無茶振りでなく、私にとっては『大チャンス』だった。この機に一気に進めなければいけないと思った」と喜田氏は当時を振り返る。

 密かに準備をするなかで出会っていたツールが、kintoneだった。改革のチャンスを得た喜田氏は、kintoneを在宅対応システムの中心に据えた。

 最初に取り組んだのが、会社のデータをkintone上に集めることだった。もともとExcelで作っていたデータをkintoneに集約することで、社内、社内を問わずデータにアクセスできるようにした。

 次に、修正、報告の業務プロセスをリモート化するためのkintoneアプリを、個別にどんどん作っていった。たとえば在庫管理は、入庫と出庫のデータを分析して「在庫表」というアプリに仕立てた。「これは標準機能ではできないので、プラグインの『krew Data』を用いて実現した」(喜田氏)とのこと(関連記事:導入2000社を突破したkrewシリーズ 初のユーザー会「Ship」が船出

 また、入荷予定管理に作ったアプリは、原料がいつ、どれだけ入ってくるかをまとめるシンプルなアプリだ。喜田氏はこのアプリを使って納品日が当日の商品を検索、そのリストを社内の掲示板に毎日貼り付けている。「私が製造時代、入荷予定がわからず、すごくストレスだった。今、製造現場にいる社員が、そのストレスを感じないように、情報を共有している」と語る。

データ入力を一手に引き受け、結果で説得する

 単にアプリを多数用意しても、現場に使ってもらえない可能性もある。その懸念を抱いた喜田氏は、kintone化を「手段」と「目的」に分けて考え、対処した。

「有給休暇の申請など、手段としてのツールは強制はせず、従来の紙のプロセスを使ってもいいことにした。ただ、kintoneのほうが家からでもできて、紙もいらないというメリットを説明した」

 一方の目的については、喜田氏がひたすらデータ入力を続け、効果を社員に確認してもらうことにした。「たとえば入出庫アプリに私が入力し、そこからできる在庫表を在庫管理者に見てもらい、それができるようになってから、作業を現場に引き継ぐことにした」

 全体として、ゆっくり時間をかけてkintoneに慣れてもらうことにしたのだ。その結果、拒否反応は少なかったと喜田氏は振り返る。

 同社でkintone導入がうまくいったポイントは3つあると、喜田氏は語る。1つめは、在宅勤務をしたいという明確な目的があり、そのためにkintoneをどう使うかを考えられたこと。2つめは、その目的に向けて業務の棚卸しを進め、課題を明確にすることで、何からkintone化をするかをはっきりさせたことがよかった。

 そして3つめは、喜田氏自身がkintoneを習得することで、業務を改善することが楽しくなったことだ。「アプリの効果が出ると業務にはまってくる。そうすると、もっと勉強したくなる。勉強するとさらに効果が増すという、いいサイクルが生まれた」

kintone導入がうまくいった3つのポイント

運用開始後も改修できるのがkintoneの強み

 導入がうまくいったので、喜田氏はkintoneをさらに活用するための取り組みを開始した。ここでは、「つながり」をキーワードにした改善を実行した。

 まずは業務とアプリのつながりを再確認した。「受注、出荷、請求、入金といった業務はそれぞれ担当者が異なるが、業務そのものは一連の流れとしてつながっている。その中でkintoneをどう使うかを考えながらアプリを開発した」

 喜田氏はまず、受注から出荷の流れ全体のプロセスを、紙からkintoneへの入力による業務に切り替えた。すると、プロセスの中で責任の所在があいまいだったため、総務部が引き取っていた業務が大量にあることが浮かび上がった。それらを現場が処理できるように組織を見直し、業務フローそのものを変えた。

kintone導入で浮かび上がった課題を解決するため業務フローそのものを変えた

 そして、受注管理、出荷指図、送り状という3つのアプリの改修を行った。出荷指図とは、受注に対して製品のロットを引き当てる業務だが、その情報は送り状、出荷手配へと流れていく。

 それらのアプリは当初開発したときは別々だったが、どれがメインかわからなくなり、情報が分散されて漏れなどが発生した。そこで、3つのアプリを1つの受注管理アプリにまとめて、送り状、出荷手配などの必要な機能を加える形にした。

「運用を開始してからアプリを改修できることが、kintoneの強みの1つだと感じている。アプリを1つにしたことで、プロセス管理で責任を明確にすることができた。また、自分にタスクが割り当てられているときは、ポータル画面に通知が表示され、タスクが可視化されるため作業漏れを防ぐこともできる」(喜田氏)

 サービスのつながりも見直した。同社では売り上げはkintoneでの管理しているが、その後の請求処理は別の販売管理ソフトで使用している。また入出金は会計ソフト、勤怠情報は給与計算ソフトなど、それぞれにデータを流し込む。

「基本的な請求書の発行業務などはkintoneでも作ることが可能だ。しかし当社のように1人で開発している場合、今後のインボイス制度や改正電帳法への対応を全部kintoneで作るのは厳しい。法律や専門知識が必要な処理は専用サービスに任せ、kintoneはそのよさを生かせる部分で活用していくべき」

ハイブリッドワークで子どもの成長に立ち会えた

 喜田氏がこれらの改善に活用したのが、「kintone SIGNPOST」だった。これは、kintoneで業務改善をするための先人の知恵や考え方をまとめたドキュメントだ。

 例えば「業務の流れを掴む」という項目がある。そこには、「受注から出荷までの業務の流れを図に書き出すことで、業務の目的を理解したうえで、1つ1つの業務に踏み込んでいって、根本的な原因を追及して業務改善を考えていく」という内容が記載されている。

「kintone SIGNPOSTに書かれてあるとおりにするのではなく、自分のやっていることと照らし合わせて、『業務改善を改善する』ためのコンテンツとして利用した」(喜田氏)

 開発したkintoneアプリの効果は、非常に大きかった。2020年4月の緊急事態宣言が出たとき、社員は無事在宅勤務に移行することができた。アフターコロナの現在、同社は出社と在宅を選べるハイブリッド勤務制度が確立している。

 また、喜田氏の残業時間は、kintone導入直後の2020年は、開発業務のために前年と比べて倍増した。しかし、2021年は減少に転じ、2022年はなんと年間でゼロになった。

「業務時間内で経理業務に充てる時間も、約3時間から数十分に減少した。空いた時間で情報収集したり、リスキリングのための勉強ができるようになった」(喜田氏)

 仕事に余裕が出たことで、喜田氏のプライベートな時間も増えた。2021年に誕生した次女の“はいはい”“つかまり立ち”などの「はじめて」の瞬間を直接目に焼き付けることができた。「kintoneを導入して得られた最大の価値は、子どもの大事なライフイベントに立ち会えたことだと思っている」

「バックオフィスを盛り上げる」コミュニティ活動を続ける

 喜田氏は、同社のkintone導入を成功させたもう1つの要素が、「仲間とのつながり」だったと語る。

「開発は順調に進んでいた。だが1人で開発していたので、kintoneは会社が導入したクラウドサービスの1つという認識しか持っていなかった」そんな喜田氏を180度変えてくれたものが、コミュニティだったという。

 kintoneにはコミュニティが多数あり、参加してみると、喜田氏と同じような悩みを持ちながら業務改善に取り組んでいる仲間がいることがわかった。そういうメンバーと深く交流することで、kintoneの使い方を学ぶことはもちろん、世界が広がったと喜田氏は言う。

kintoneコミュニティに参加して世界が広がった

「その延長で、こんな舞台にも立つことができた。意識が変わったことは、自分にとって大きな転換点だった」

 喜田氏は、kintoneコミュニティに参加したことで、自分の知識や経験が誰かの学びになることを知った。もちろん反対に、誰かの知識や経験を自分の仕事のヒントにすることもできる。「コミュニティでは、ノウハウの提供を率先してやっている人が非常に多い。素晴らしいと思うし、自分もそうありたい」

 喜田氏は今後、「バックオフィスを強くする」をテーマにコミュニティ活動をしたいと語る。

「バックオフィスが強い会社はいい会社だと思う。バックオフィス同士がつながり、補えあえれば、きっとビジネスはよくなる。場合によってはkintoneの枠を超えて、広く、バックオフィス業務の改善に向けた活動をしていきたい」

バックオフィスの強い会社はいい会社だという喜田氏

 喜田氏は現在、kintoneコミュニティの運営にも携わり、同じ課題を持つ開発者に寄り添う。競争ではなく「共走」の気持ちで、バックオフィスを盛り上げるための発信の場を増やしたいと、最後に語った。

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