App Storeのエキスパートによる「審査」の公平性
報告書の第8部では市場調査に基づく評価を踏まえて、独占禁止法上の観点からモバイルOS市場における競争上の様々な懸念事項をまとめています。
その中で、グーグルとアップルによる垂直統合が進むことにより、モバイルOS市場、およびアプリ流通サービス市場では両社が優位を利用して、他社の代替品よりも自社の関連製品やサービスを優遇して競争者を排除したり、取引の相手方であるアプリデベロッパーの事業活動を妨げる懸念も指摘されています。
「グーグルやアップルのアプリストアが誕生したことで、フリーランスのプログラマーが自身の発想や興味を掘り下げて、アプリ開発を生業にできるようになったことにも目向けるべき」と青木氏は見解を述べています。
廣瀬氏によると「アップルのApp Storeの場合、小規模な人数でサービスを手がけるデベロッパーがアプリの開発からローンチしてユーザーに届けるまでのワークフローがとてもよく整備されている」といいます。App Storeに対しては、すべてのアプリに対してエキスパートと呼ばれるスタッフがストアへの公開前に審査を行う「App Store Review」による審査の公平性を指摘する声もあります。App Storeの「中の人による審査」に廣瀬氏はどう相対しているのでしょうか。
「当社は最初、辞書ごとにアプリを開発してApp Storeで販売していました。現在は『辞書 by 物書堂』としてひとつのアプリに統合して、アプリ内課金によりコンテンツを販売しています。この仕組みは2018年にApp Storeのエキスパートから提案を受けて変更したものです。複数の辞書アプリを統合したところ、結果的に当社の売上が伸びて、アプリの認知が広がったことでファンも増えました。複数の異なる辞書を検索する『串刺し検索』という便利な機能も追加できました。App Storeのエキスパートが他の様々なアプリの成功事例を踏まえてアドバイスしてくれたのだと思います。エキスパートはデベロッパーに色々な指摘をしてくることもありますが、提案を受け入れた方がデベロッパーにとってもビジネス上のメリットがあることの方が多いと私は思います。少なくとも今まで損することをやりなさいと言われたことはありません。開発を急かされることもなければ助言もくれるので、フェアな関係を築けていると思います。」(廣瀬氏)