日本のインターネットを高める「Variable X」を求めて
鶴社長が語る新生JPIX 社名に込められた想いと飛躍までの道
中央集権型と分散型が共存する新しいネットワークアーキテクチャへ
大谷:プラットフォーマーへのネットワークにどのような付加価値を載せていくのでしょうか?
鶴:今後はネットワークのアーキテクチャが変わり、グローバルとローカルが共存する世界になると思っています。
今は東京と大阪にネットワークが集中しているアーキテクチャ。より低遅延なコンピューティングまでは意識されていませんが、歴史は繰り返すで、またエッジコンピューティングの波はやってきています。
今までと違うのは、中央集権型と分散型が共存するということ。アプリケーションによってはクラウド処理とエッジ処理を使い分けることができるように両方が共存する必要があると思います。モバイルの通信網ではコントロールプレーンとシグナリングでそういった制御はできるのですが、それに近いようなことをインターネットでできないかなと考えています。コントロールプレーンに頼らず、インターネットベースのアーキテクチャで分散コンピューティングを早期に実現したいということです。
大谷:電力なり、水道なりのインフラもそういう方向ですよね。中央集権型のリッチな設備だけでなく、エッジと役割分担するハイブリッドになっていくかもしれません。
鶴:そのための強みとして、今までのIXだけでなく、VNEとしてのトラヒックとISPのお客様のトラフィックを1つのポイントに集約できること。集約したエッジのデータを、多体多のルーティングポリシーによって、マルチクラウドに転送できます。
結局、最後は物理の世界なので、データセンターや電力、デバイスなども必要になります。IXとVNEはありますが、クラウドとデータセンターを持っていないので、どのようにエコシステムを構築するかが大きな鍵になります。
ホップ、ステップを経て、2024年でジャンプの年へ
大谷:こうしたビジネスを推進するにあたって、新生JPIXはどのような体制になっていくのでしょうか?
鶴:組織もビジネスにあわせていかなければならないので、まずIXとVNEの事業を守るという点において、既存の組織は一元化しました。ここで前述したクロスセルや営業戦略をきちんと考えていきます。
とはいえ、国内でこれら既存事業の市場成長率低下は否めない事実です。だから、国内に進出してくるハイパースケーラーやグローバルスタートアップのアカウントなどの開拓が必要になります。新たなASにつないでいくことへの需要と期待ですよね。
大谷:確かにコロナ禍においても、日本進出してきたクラウド事業者は多いですね。今後は単なるデータセンター開設だけでなく、今後はネットワークの最適化という観点も増えるのではないかと思います。
鶴:はい。グローバルに特化した営業企画部門を作りました。今までのコロケーションや機器の手配にとどまらないよりかゆいところに手が届くサービスを提供していきたいと考えています。アクセスネットワークのコーディネートしましょうかとか、IPv4アドレスの枯渇対策どうしましょうとか、そういう旧JPNEが持っていた機能をグローバルビジネスにも展開したいと考えています。
ISP同士、ISPとクラウド事業者同士もそうですが、今後はクラウド事業者同士のいろいろな連携があると思います。今後クラウドの分野では、企業のDX化に業界ごとのプラットフォーマーが台頭してきますし、いわゆる日の丸事業者の巻き返しもあるでしょう。そういう意味ではKDDIも一つのプラットフォーマーだし、国産スタートアップで大化けしそうな会社もあります。ユーザー会で企業同士をマッチングしたり、エッジからのデータを業界プラットフォーマーに転送する機会も増えていきます。
また、前述したエッジコネクティビティを実現していくための企画部門も立ち上げました。コネクティビティ戦略部という名前で、旧JPNE、JPIXのメンバーを集めています。
大谷:時系列で見ると、どのように新生JPIXの戦略は進められるのでしょうか?
鶴:ここまではおおむね構想。これを実行プランに落とし込んだり、優先順位を付けたりといった作業が年度内になります。そして2023年度はPoCを展開して、事業化できるものは事業化し、その過程でリソースが必要になれば追加していきます。
とはいえ、社員数も限られていますし、いっぺんにいろいろなことはできません。優先順位を付けて、ビジネスを切り出して、一部はグループ会社や他の事業者と連携していくことになると思います。
大谷:ホップ、ステップ、ジャンプのホップの状態が今年度というわけですね。
鶴:はい。2024年度以降のジャンプのために、まずは今年と来年は企画と実験の年になると思います。
合併でいきなり競争優位性が生まれるとは思っていない
大谷:今回の合併の意義について改めてお聞かせください。
鶴:われわれは歴史的な経緯があって、IXとVNEの事業を別々にやってきましたが、インターネットマルチフィードやBBIXは長らく一体的に提供しています。その意味ではスタートライン。正直言って、事業が一体化したからといって、いきなり他社に対する競争優位性が生まれるわけではありません。
大谷:むしろ追いかける立場であると。
鶴:はい。他事業者はデータセンター事業者との提携やクラウド接続などかなり先手を打たれています。早くキャッチアップしたいと思っています。
大谷:確かにBBIXはソフトバンクグループの血なのか、かなりアグレッシブですよね。インターネットマルチフィードはいかがですか?
鶴:IMFはコンテンツ配信に強みを持っている認識ですが、弊社もオープンアーキテクチャのキャッシュサービスを導入し、コンテンツ事業者に対して提供できるソリューションを増やしていきたいと思っています。こうしたトラフィック処理の効率化はずっと続けていかなければなりません。
大谷:かなり以前からトラフィックはモバイルと動画で占められていますから、そういった施策は重要ですよね。パートナーや顧客からの期待はありますか?
鶴:地方でのIX事業に対する期待は大きいですね。会社のエントランスに置きましたが、けっこうな数のお花を頂きましたので、これは期待の表れだなと思っていますけど(笑)。
大谷:前回の取材でも同じことを感じましたが、事業についてシビアな目線ですね。
鶴:とはいえ、今までIXとVNEを別々の会社でやっていたため、事業的には制約が多かったですが、新生JPIXでは事業規模も大きくなりますし、自社設備で提供する範囲も増えます。やりたいこと、新しいことを意味するJPIXの「Variable X」を実現できる空気が会社に醸成されつつあります。
大谷:楽しみです。ありがとうございます。
(提供:JPIX)

