高速化の次を見据えたプロダクト戦略 プライム・ストラテジー相原取締役が語る (1/2)
2023年02月07日 09時00分更新
高速でセキュアなWebサイトの運用を実現するKUSANAGIを開発するプライム・ストラテジーは、取締役陣も技術に明るいエンジニアたちだ。そんな取締役の3人に自身の経歴や担当領域から見たWebサイトのトレンドを聞いた。3人目は本連載の執筆も担当している企画開発部管掌取締役の相原 知栄子氏になる。
演奏家とWeb制作の両輪からスタート 今は開発とマーケを統括
大谷:まずは相原さんのビジネスプロフィールを教えてください。
相原:私はちょっと経歴が変わっていて、音楽大学の出身なんです。卒業後はフリーのヴィオラ奏者として、オーケストラのエキストラなどの演奏活動をしていました。
そんなこんなでITにまったく興味がないという状態で長らく過ごしていたのですが、ひょんなことからPCでお絵描きをしたらはまってしまって。自作のアニメーションやゲームを公開したいがために、Web関連の技術をめちゃめちゃ勉強しました。
大谷:アナログとデジタルという感じで、興味が両極端ですね(笑)。
相原:演奏もWebも何かを表現してお客様に届けるという点では共通しているので、私の中ではまったく違和感はなかったんです。Webの仕事をはじめたことで、WordPressに出会い、プライム・ストラテジーに出会いました。
大谷:なるほど。演奏家も、Webエンジニアも、両方ともフリーでやっていたんですね。
相原:はい。でも、フリーランスで仕事をしていると、Web制作の一部分だけを担当することが多かったので、プロジェクト全体に関わりたいと思うようになりました。ちょうど子どもも大きくなったタイミングだったので、初めて会社に所属するという道を選びました。こうしてプライム・ストラテジーに入社したのが、2013年です。
当初はエンジニアとして入ったんですが、すぐにディレクターとか、チームリーダーとかをやらせてもらうことになりました。PM(プロジェクトマネジャー)として大きなプロジェクトを担当させてもらうことも増えて、長らくプロジェクトを回す仕事に関わってきました。
大谷:Webプロジェクト全体の仕事に関わることができるようになったんですね。
相原:はい。夢が叶いました。その後、2020年にマーケティングをやってみないか?ということで、マーケティング部の部長になりました。
マーケティングの部門は当時から開発部門とかなり連携して動いていました。ちょうどWEXAL(ウェクサル)の大きなバージョンアップを進めているときで、私が管理画面(PST Manager)のUIを作りましたし、WEXALのリバースプロキシ版については、プロジェクト管理やプレスリリースなどを担当しました。
運用中のサイトに対してWEXALによる導入時のGoogle PageSpeed Insightsの評価値の改善効果を外部から簡単に試せるONIMARUというツールやWebサイトのクローラーを作ったり、KUSANAGI Cloudなどの開発を進めたりした結果、開発とマーケティングを担当する企画開発部の取締役をやらせてもらうことになりました。
現在は、プロダクトのマネジメント、クラウドプラットフォーマーとのアライアンス、そしてマーケティングを統括しています。
差別化が難しくなったプラットフォーマーとの付き合い方
大谷:そんな相原さんから見て、ずばり2022年の動向はどうでしたか?
相原:サーバの性能が向上したり、PHPが速くなったり、CDNが普及したり、世の中の技術が進化を遂げた結果として、各プラットフォームの機能が横並びになってきているという課題が顕在化してきたことを感じました。
大谷:特にグローバルのクラウド事業者だと思いますが、差別化が難しくなっているということですよね。
相原:クラウドが普及して、差別化が難しくなっていく中で、独自のサービスでユーザーを固定化したり、価格面での差別化をはかるなど、いろいろな施策を進めていると思います。
大谷:それを踏まえ、プラットフォーマーとの関係はどうなるのでしょうか?
相原:私たちの企業価値は、KUSANAGIやWEXALを実現するための技術、つまり知的資本だと考えています。この知的資本はユーザーの課題を解決するためのものですから、プラットフォームの差別化にも役立てていただきたいと考えています。2021年に開始したエックスサーバーさまとの技術提携や、昨年のGMOインターネットグループさまでのWEXAL提供のような取り組みを広げていくイメージです。
一方で、KUSANAGIやWEXALはさまざまなプラットフォームで利用できるようにしているので、これは裏を返せばプラットフォームごとの特徴を平準化しているとも言えます。この方向性は今まで通り変わりません。
大谷:ある意味、相反していますよね。他社との差別化をもくろんでプラットフォーマーとしてKUSANAGIを提供していたけど、今ではKUSANAGIってほとんどのクラウド・ホスティング会社で使えるじゃないですか。
相原:そうですね。でも、わたしたちの目指しているのは、エンタープライズOSSエコシステムの発展なんです。KUSANAGIが差別化の一要素からみんなが利用する「当たり前」として広がっていき、新しい技術が追加されるとそれがまた差別化の一要素になってそれが「当たり前」となる。このようにプラットフォーマーの皆さまと進化していくことが私たちの目指す世界を実現することにつながると考えています。
たとえば、WEXALも今はレンタルサーバ領域での提供は「ConoHa WING by GMO」と「お名前.com レンタルサーバー」の2つのプラットフォームですが、将来的にはどこでも入っているのが当たり前となるかもしれません。
大谷:先ほど話に出てきたユーザー課題というキーワードが鍵だと思っていて、結局いろいろなプラットフォームでKUSANAGIやWEXALが利用できれば、課題解決に結びつく可能性は高くなるわけですからね。
相原:そのとおりですね。多くのユーザーに届けば、それだけ多くの課題を解決できるようになるはずです。この「課題解決」が私たちの根幹にある部分で、求められているサービスを提供し、課題を解消していきます。
わたしたちの開発の歴史がまさしくそのようになっていて、まずは高速化というサイトの性能やセキュリティへの要求からKUSANAGIが誕生しました。KUSANAGI だけでは改善できないユーザーエクスペリエンスに関する課題や、それに対応するための膨大な時間をなんとかしようとしてWEXALと戦略AI Davidを開発しました。
サービスも、管理の手間やコストといった課題に対してKUSANAGIマネージドサービス、直近のWebのガバナンスの課題に対してCMSプラットフォーム統合サービス、人手不足に対して自動化といった具合に進化しています。会社の見え方はユーザーによって違うかもしれませんが、根本的には世の中の役立つモノを作っていくことだと考えています。