高性能CPUの性能を引き出す難しさ
ベンチマークの前に、G-Master Spear Z790/D5におけるCore i9-13900Kの電力設定を説明しておこう。最近のCPUの多くは大きく分けて2段階の電力制限がある。簡単に言うと、最初は処理を短時間で終わらせるようフルパワーで動作するが、長時間かかる作業だとわかると(≒一定時間が経過すると)、電力効率を重視した動作に切り替える、というものだ。
例えば、Core i9-13900KだとCPUの仕様にある「最大ターボパワー」(Power Limit 2=PL2)が短時間処理時の電力の上限で、「プロセッサーのベースパワー」(Power Limit 1=PL1)が長時間処理時における電力の上限にあたる。
Core i9-13900Kのプロセッサーのベースパワーは最大ターボパワーの半分以下になっている。しかし、これは性能も半分に下がるという意味ではない。ある電力時における性能を「ワットパフォーマンス」と言うが、これが一定ではないからだ。
一般的に、性能が高くなるほど多くの電力が必要になるが、電力効率は悪くなっていく。オーバークロック動作がその最たる例で、性能は上がるもののワットパフォーマンスは標準仕様で運用している時よりも下がってしまうことがざらだ。
また、最大ターボパワーをできるだけ長く維持するためには、電力効率以外の面でも厳しい現実がある。それが、発熱の問題だ。CPUは温度が高くなりすぎると自動で動作クロックを落とし、規定の温度(Tjunction)を超えないようになっている。Core i9-13900Kの場合は100度がその温度になる。つまり、いくら最大ターボパワーを維持しようと思っても、CPUクーラーが100度未満にまで冷却できなければ速度が落ちてしまうのだ。
Core i7やi9といった高性能CPUを使う場合、空冷クーラーではなく簡易水冷クーラーが推奨されている背景がこれだ。一般的に、空冷クーラーよりも簡易水冷クーラーのほうが冷却能力が高い。もちろん、全製品に言えることではないが、少なくとも360mmラジエーターの簡易水冷クーラーなら大半の空冷クーラーよりも強力に冷やせる。
では、あえて空冷クーラーを採用しているG-Master Spear Z790/D5は高性能運用をあきらめているのかというと、そうではない。電力効率とCPU温度のバランスを見極め、プロセッサーのベースパワーのみを底上げすることで性能を引き出せるようになっているのだ。具体的にどうしているのかと言えば、電力設定を標準の「PL1=125W、PL2=253W」から「PL1=160W、PL2=253W」に変更している。
このPL1=160Wという電力設定変更が性能にどう影響を与えるのか。簡単に検証してみよう。
PL1の設定別に性能と温度と電力をチェック!
検証方法は、CPUに高い負荷をかけて、その時のCPU電力・温度・性能をチェックするというシンプルなもの。CPUの設定はPL1を変更し、仕様通りの125W、サイコム設定の160W、最大ターボパワーと同じ253Wの3パターンで試した。なお、PL2はどの場合も253Wにしている。
使用するベンチマークソフトは「CINEBENCH R23」。これはCGレンダリング速度でCPU性能を測ってくれるもの。CGレンダリングはマルチスレッド処理のため、CPUのコア数が多く動作クロックが高いほどリニアに性能が上がりやすい。そのため、CPUの最大性能を探るには適したテストだ。
テストはすべてのコアを使用する「Multi Core」と、シングルスレッドテストの「Single Core」の2つ。なお、電力・温度・性能はモニタリングツール「HWiNFO64 Pro」を使用。CINEBENCH R23のテスト時間約10分間に対し、PL1動作に入っていると思われる開始約9分後の値でチェックしている。まずは、インテル標準のPL1=125W設定から見てみよう。
Multi Coreは30703pts、Single Coreは2287pts。Multi Coreのスコアーはさすがに低めだ。参考までに、ASUSの360mmラジエーター搭載簡易水冷クーラー「ROG RYUJIN II 360」を使用し、PL1もPL2も無制限にした設定した場合のベンチマーク結果と比べてみよう。参照記事はASCII.jp記事「CINEBENCH番長は秒で奪還!Core i9-13900K/Core i7-13700K/Core i5-13600K速攻レビュー【前編】」。
この記事のMulti Coreテストの結果は38632ptsと、今回のテストよりも約8000ptsほど高い。もちろん、今回のPCとはOSも環境もかなり異なるので、単純比較はできない。しかし、このデータは裏を返せば、電力や放熱の余裕があれば、まだまだ性能上昇が期待できる状態とも言える。
では、PL1=125W設定時の電力と温度を見てみよう。
PL1が125Wのため、実際のCPUパッケージのパワーも9分時点では約124.8Wに抑えられていることが確認できた。また、CPUパッケージの温度は最大90度と、Tjunctionまでにはまだ余裕がある。空冷クーラーとはいえ、冷却能力はかなり高いと言える。