家電、住設機器、店舗/業務用機器のメーカーをターゲットに、ノーコードツールやサービスで包括支援
機器メーカーのIoT開発運用をワンストップ支援、AIoTクラウドが新サービス
2022年11月25日 07時00分更新
Dynabookの子会社であるAIoTクラウドは2022年11月24日、IoT支援サービスブランド「WIZIoT(ウィジオ)」の立ち上げを発表した。
その第1弾として、機器メーカーを対象にIoT製品の開発、運用に必要なツールとサポートをワンストップで提供する「IoT開発運用SaaS」を12月15日から提供開始する。すでに利用実績のあるノーコードツールの提供などによって、開発期間を10分の1に短縮する提案も行うという。
さらに今後は工場向け、オフィス向け、ホーム向けなどの各分野別に、WIZIoTブランドのサービスを展開していく計画だとしている。
製品のIoT化を手軽に始めて、回せる仕組みをワンストップで提供
AIoTクラウドは、2019年8月にシャープのIoT事業本部を分離独立し、シャープの100%子会社としてスタートした会社だ。シャープグループ内の再編に伴って、2021年1月からはDynabookの100%子会社となっている。独立以前はシャープ家電製品のAIoT(AI+IoTという意味の造語)化、社内IoTシステムのクラウド化などを手がけ、AIoTクラウド設立後は、シャープ以外の機器メーカー、デベロッパー、サービス事業者向けに、IoT製品の開発支援やプラットフォームを活用した機器連携などのビジネスを行っている。
WIZIoTは、同社が開発した「AIoT LINCプラットフォーム」を活用し、IoT製品の開発や運用を支援するサービスブランド。AIoTクラウドではこれまで個別の受託案件としてIoT開発支援ビジネスを展開してきたが、これをパッケージサービス化し提供していく。
サービス提供の対象としては、IoTの導入や運用の見直しを検討している家電、住設機器、店舗用機器、業務用機器などのメーカーを想定している。IoT機器の試作フェーズ、量産フェーズ、運用フェーズまでをカバーしていく。
AIoTクラウド 取締役副社長の松本融氏は、WIZIoTを通じて「製品のIoT化を手軽にはじめて、回せる仕組みを提案する」と説明する。
「IoT製品の開発には、製品企画だけでなくIoTサービス戦略の立案、実証実験、サービス開発、保守・運用といったプロセスが必要であり、こうした部分の負担が大きいのが現状。WIZIoTでは、これまで当社が提供してきた支援サービスをもとに、機器本体の開発支援だけでなく、クラウドやスマートフォン用アプリケーション、ダッシュボード、通信モジュール用ファームウェア、サポートをワンストップで提供する」(松本氏)
これにより、IoTの開発コストを安く抑えたい、開発の経験が不足している、製品リリース後の運用/サポートに不安を抱えている、製品企画やビジネスモデルの構築に悩んでいるなど、メーカーやサービス事業者が持つ課題を解決できると述べた。
第1弾「IoT開発運用SaaS」は4つの特徴を持つ
WIZIoTの第1弾となるIoT開発運用SaaSについては、4つの特徴を持つと説明した。
ひとつめは「ワンストップサービス」。機器からデータを収集したり、機器を管理したりする機能を提供する「クラウドサーバー」、機器の遠隔設定やログ確認などを行う「スマホアプリ」、機器の利用状況を可視化する「ダッシュボード」、通信モジュールを機器に組み込むための「通信モジュール用ファームウェア」の4点を合わせて提供する。
同社 プロダクトマネージメント部シニアマネージャーの廣澤慶二氏は、これまではそれぞれを得意とするベンダーから調達していたものをワンストップで提供できるため「事前検討や要件定義、複数ベンダーとのコミュニケーションの効率化も支援できる」と説明する。
「IoT開発運用SaaSは、AWSなどのPaaSを活用してIoT機器の製品化を提案するSIerなどが競合となるが、『すべてに対応できる企業が少ない』という課題がある。IoT開発運用SaaSは、ワンストップで提供できる点が強みだ」(廣澤氏)
なお通信モジュールには、大手Wi-Fi SoCメーカーであるEspressif Systems製品を推奨品として採用。各国展開のための主要な認証を取得済みであり、複雑なコーディングが不要で、簡単にクラウドに接続できる開発キットを用意しているとしている。
2つめは「ノーコードツールを活用したIoT開発」を可能にする点だ。
AIoTクラウドでは、シャープの白物家電を中心に約700機種、400万台以上の製品をIoT化した実績があり、その経験をもとに蓄積したノウハウを活かし、ノーコードツールを開発。これにより、開発期間を約10分の1に短縮し、開発費は5分の1に削減。製品のIoT化を迅速かつ低コストに実現できるという。
3つめは「テンプレートをもとに、簡単にアプリが開発できる」点である。
AIoTクラウドではこれまでの開発実績から多くのUIテンプレートを蓄積しており、ここから選ぶだけでアプリ開発が可能となる。製品コンセプトに合わせたロゴやカラーで柔軟にカスタマイズしたり、ノーコード開発を組み合わせたりすることで、プロトタイプの確認作業が「最短5日間」に短縮できるとしている。
「機器接続フローなどの基本UIも標準化してワンセットで提供できるほか、製造機器/設備などのB2B機器向けにクラウド接続を行うための簡易アプリも提供できる。テンプレートはネイティブアプリなので、プッシュ通知などの機能も搭載している」(廣澤氏)
4つめが「ダッシュボードによるデータの可視化や、コンテンツ配信も簡単に運用できる」点だ。
たとえばダッシュボードの活用によってマーケティング施策の効果を把握したり、コンテンツ配信ツールでユーザーのアプリに通知を行って利用を促すことができる。また遠隔監視機能も備えるため、アフターサービス業務の効率化やコスト削減を実現できるとしている。
「IoTでは導入後の『運用、分析、改善』のループが重要だ。ダッシュボードへの表示にもテンプレートを活用でき、各部門のニーズに合わせたグラフ表示が可能になる。利用状況を通じた製品仕様の改善や品質管理、メンテナンスサポート業務の効率化などが可能になり、IoTによる事業への貢献や、新規事業の創出につなげることができる」(廣澤氏)
そのほかサポート面では、運用フェーズに入る前に運用方法の説明や問題発生時の対応方法などのアドバイス、定期的な集計データの送付による分析フォローなどを実施。オプションでデータのAI分析や、データを活用し、ECなどの外部サービスとの連携ができる機能も提供する。
AIoTクラウドでは、WIZIoTを通じて今後5年間で1000万台のIoTデバイスを提供することを目標に掲げている。
ツールやサービスの提供で日本のIoT市場成長に貢献する方針
世界では現在、IoTデバイスが急速な勢いで普及しており、産業用途では103億台、コンシューマ分野では96億台のIoTデバイスが利用されているという。日本におけるIoT市場も、2026年までの年平均成長率が9.1%となり、9兆1181億円の規模に達すると予測されている。とくに機器から収集したデータの分析や、IoTを活用したサービスの成長が大きく、IoT市場全体の半分以上をサービスやソフトウェアが占めると見られている。
松本氏は「IoTがもたらす効果やビジネスチャンスの創出といったメリットが明確になっており、それがIoTの普及の背景にある。製造業では機器の差別化だけでなく、製品の販売後も顧客との接点を維持するためにIoTが利用されている」と、市場成長の背景を説明する。
実際、シャープでも2017年から調理家電の「ヘルシオ ホットクック」をIoT化し、利便性の向上と食材サービス連携による付加価値向上などによって、売上を拡大させてきたと、松本氏は説明する。「IoTによって、収益機会の創出、顧客ロイヤリティの向上、遠隔地からの機能強化やサポート業務の効率化といったメリットがあり、製造業のDXに直結している」(松本氏)。
ただし日本のIoT市場の成長率は、グローバルのそれよりも大幅に低いことも指摘する。日本ではIoTの導入推進に向けたビジョンや意識が欠如しており、国内の成功事例も少なく、IoTを活用する人員も少ない。それに加えて「IoTを容易に利用するためのツールやサービスが不足している」ことも要因だと、松本氏は指摘する。この課題を解消するために、AIoTクラウドとしてツールやサービスを広く提供し、国内のIoT推進に貢献していくと今後の抱負を述べた。