写真はイメージ Fredrick Tendong | Unsplash
子どもたちがゲームをする時間は「1日1時間」を努力目標とする、香川県の条例をめぐる裁判で、条例を「合憲」と判断した地裁判決が確定した。
2020年9月、高校3年生だった男性と母親が香川県を相手に、条例は憲法に違反するとして、計160万円の損害賠償を求めて提訴していた。
高松地裁は2022年8月30日、条例の内容が憲法に違反するとした原告側の主張を退け、請求を棄却した。
KSB瀬戸内海放送が11月1日、原告の男性側が控訴期限までに控訴しなかったため、高松地裁判決が確定したと報じている。
今回確定した判決は、最高裁の判決ではないものの、ゲームにのめり込みやすい子どもたちに対して、親や行政がどう介入すべきかなど、多くの事柄を考えさせられる。
平日は60分、休日90分まで
この裁判で争われたのは、香川県が2020年4月1日に施行した香川県ネット・ゲーム依存症対策条例だ。
とくに、条例が制定されるプロセスの中でも、「家庭におけるルールづくり」を定めた第18条第2項の規定が全国的に話題になった。一部を引用する。
「子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。」
第1項では、保護者と子どもが話し合い、「ゲームの使用に関するルールづくり」を行なうとしているが、もっとも議論を読んだのは、第2項の子どもたちがゲームで遊ぶ時間を、1日当たり60分まで、休みの日には90分までとした努力規定だった。
こうした規定の結果、条例が施行された当時、17歳だった男性は、憲法に定められた「職業選択の自由」や「幸福追求権」などが侵害されたと訴える。
原告側の主張は多岐にわたるが、具体的な不利益としてはたとえば、条例でゲームの利用時間が制限されたことで、ゲーム大会への参加ができず、eスポーツのプロになることを希望していた将来の進路に影響があったと主張している。
こうした主張に対して、県側は、条例は努力目標で、「そもそも原告らの権利の制約はない」と反論していた。
「必要最小限度の制約」は許される
高松地裁の判決はこうした原告側の主張に対して、「本件条例は努力目標であり罰則がないことなどからすると、必要最小限度の制約であり、これらの制約が許されないとはいえない」と退けている。
たとえば、条例が施行されたことでゲームに対する親の目が厳しくなり、これまでは1日に3時間はゲームをしていたのに、長時間プレーしていると親がうるさいといった制約が生じたとしよう。そうだとしても、罰則がないから「必要最小限度の制約」として許容されるという判断だ。
とすれば、子どもたちの側としては、「eスポーツで食べていきたいから、1日3時間は練習しないと腕が落ちる」などの理由を考え、親と話し合い、家庭内で「1日3時間まで」というルールを設けるのは、条例の規定に照らしても問題ないのではないか。
ただ、親の立場としては、1日3時間もゲームをしていると、勉強の時間が確保できないとか、視力が落ちそうだとか、心配は絶えないだろう。が、しかし、少なくともきちんと話し合って「家庭内ルールをつくりましょう」というのが条例の趣旨であって、裁判所もこうした規定を認めた。
ゲーム依存は病気か
この裁判では、条例の名称にも使われている「ネット・ゲーム依存症」の予防や治療の必要性についても争われている。
ネットやゲームへの依存が、比較的新しい事象で、そもそも「疾病」にあたるかどうかが定まっていないからだ。
原告側の主張に立てば、ゲーム依存が病気でないならば、条例をつくって「依存症」を予防する必要があるという県側の考えの前提が崩れる。
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